考える力
2014年6月30日
ネイマールの成功の陰に、厳しくしつける父親の姿あり
ブラジルワールドカップに出場する32カ国は、チームの仕組みが二つのタイプに分かれています。
たとえばドイツ、スペイン、イタリア、メキシコといった国々は、11人全員が攻守にわたってハードワークを求められ、11人の組織力をベースとしたチーム作りを行います。日本代表も同じタイプと言えるでしょう。
一方、ブラジル、アルゼンチン、オランダ、コートジボワールといった国々は、『王様型』のチーム作りをしています。スペシャルな能力を持った個人を、チームとしてどのように生かすのか。選手にはそれぞれに特徴があるので、攻撃の得意な選手を、攻撃に専念させる。このような発想がチーム作りに強く表れています。
(取材・文/清水英斗 写真:Getty Image)
■ブラジル代表の王様、ネイマールの優れた人間性
それを象徴するのは、ブラジルのダビド・ルイスがワールドサッカーキング7月号のインタビューで語った、次の言葉ではないでしょうか。
「ネイマールは別格さ。ブラジルが忘れてしまっていたテクニックを思い出させてくれた選手だ。(中略)彼がピッチ上で輝くためなら、僕らはいくらでも犠牲になるつもりさ」
ブラジルならネイマール、アルゼンチンならメッシ、オランダならロッベンやファン・ペルシー、コートジボワールならジェルビーニョやドログバ。
もちろん、彼らが守備を全くしないというわけではありませんが、チームは彼らのスペシャルな能力を生かすため、たとえばネイマールが守備のポジションに戻るのが遅れたとき、グスタボが即座にカバーに入るといったオートマチックな連動性を生み出しています。
また、グスタボやダビド・ルイスといった有名な選手が、そういった献身的な働きを進んで行う背景には、ネイマール自身の人間性にも秘密があります。幼いころから、他人に対しておごった態度を取らないように、小さな成功に満足しないように、厳しく父親にしつけられたネイマール。彼は、チームメートたちが「ネイマールのために汗をかきたい」と思えるような性格のサッカー選手なのです。
『王様型』のチームには、スペシャルな選手と、それを支える選手たちとの信頼関係が必要不可欠です。今回のブラジルはそれを体現するチームと言えるでしょう。
■個の強い選手をサブ組に入れていたコートジボワール
ネイマールのように、スペシャルな選手を攻撃に専念させるために、戦術に工夫を加えて今大会に臨んだチームもあります。その一つはオランダでしょう。
伝統の4-3-3システムのままでは、ロッベンやレンスといった両ウイングが守備に戻らないことがチームのアキレス腱になっていたため、今大会では5-2-3を使い、DFを1人増やして両サイドの幅に対応したと、ファン・ハール監督は説明しています。
日本代表とコートジボワールの試合では、高い位置まで上がってくるサイドバックをケアするために、香川真司が守備に下がらざるを得なくなり、終始ディフェンシブな戦いを強いられてしまいました。オランダはそのようなことが起こらないように、システムを変更することで、ロッベンの良さを生かしたチーム作りを実現しています。
また、スペシャルな能力を持つ選手を生かすための工夫は、コートジボワールの練習中にも見られました。
ビブスを配ってチーム分けを行い、ゲーム形式の練習を行うコートジボワールでしたが、ジェルビーニョやドログバといったスペシャルな攻撃の選手には、レギュラー組が付けるビブスを与えられず、ほぼ毎日サブ組と思われるチーム側でプレーしていました。
実際、守備においてはジェルビーニョの背後のスペースが守備の穴になってしまうことは多いのですが、コートジボワールはディエやディオテといった選手がうまくカバーしています。そして、日本戦やギリシャ戦において、ある程度の自由が与えられたジェルビーニョは、持ち場を離れて攻撃に絡むことが認められ、2戦連続でゴールを決める活躍を果たしています。
あえてレギュラー組の組織の中にジェルビーニョを加えず、サブ組の中に入れておいて、本番では自由にプレーさせる。このようなチーム構築のやり方もあるのかと、非常に印象的なシーンでした。
個と組織の関係は、サッカーにおける永遠のテーマと言えるかもしれません。ワールドカップの中には、それを解くためのさまざまなヒントが詰まっているのではないでしょうか。
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