考える力
2014年10月13日
心はホットに頭はクールに!試合中にキレる選手に伝えたい言葉
U19アジア選手権。ベトナム戦で勝利の立役者となったのは若干18歳のMF井手口陽介。まだ高校3年生ながら、すでにG大阪でトップ昇格を果たし、U-19日本代表にも滑り込みでメンバー入りをした期待のボランチです。
取材・文・写真 安藤隆人
■天才が陥りやすい落とし穴
井手口のプレーぶりはコーチユナイテッドで細かく書いたので割愛するが、小さいころから『天才』と言われていた彼は、中学進学時に地元・福岡を離れ、G大阪ジュニアユースに加入。ボランチとしてメキメキと頭角を現すと、メニコンカップクラブユース東西対抗戦(※ジュニアユース年代のオールスター戦)で最優秀選手賞を受賞するなど、この世代を代表する選手としてその名を馳せていた。
彼を一言で言うと『やんちゃ』。G大阪下部組織の先輩である安田理大(サガン鳥栖)、宇佐美貴史(G大阪)の系譜を継ぐ選手で、自信にあふれるプレースタイルと、物怖じしない言動、そして存在感でピッチ上に君臨する『王様』であった。
「中学までは、プレーがうまくいかないと自分の中でイライラしてしまって、自分のプレーに歯止めが効かなくなって、チームに迷惑をかけていました」。
彼はこう当時を振り返るが、なんでもできてしまう天才肌の選手は、得てしてこういった兆候に陥りやすい。必然というか、致し方がないことだろう。同年代や年上の選手よりも高い実力を持ち、ひとりでなんでもできてしまうがゆえに、周囲は彼に何も言えなくなってしまう。そうなるとさらに『王様化』が進み、メンタルのコントロールが効かない選手になってしまう。
■心はホットに、頭はクールに
こうした選手は、時として道を外してしまう危険性をはらんでいる。大事なのは、いかにその才能を消さないように、忍耐力やまわりを冷静に見る目を持たせることができるか。井手口も中学時代までは、すぐにカッとなってプレーが雑になったり、集中力がキレてしまう選手だった。G大阪ユースに入っても、やんちゃさが目立つ選手だったが、G大阪ユースの梅津監督はつねに彼にこう言った。
「心はホットに、頭はクールに」。
その言葉は井手口の頭に残り続けた。
「梅津監督からは、つねに『キレるな』とか『周りをよく見ろ』と言われ続けました。それを意識して取り組むようになったことで、徐々に落ち着いてプレーできるようになりました」(井手口)。
そして、彼にこの言葉を再認識させるある出来事が起こった。それは一昨年12月に行われた、高円宮杯プレミアリーグ昇格プレーオフでのことだった。北信越王者の新潟ユースとの一戦。これに勝てば、来期のプレミアリーグ昇格が決まる重要な一戦で、彼は56分にラフプレーでイエローカードを受けると、わずか7分後の63分に再びラフプレーでイエローカードをもらい退場処分を受けてしまう。結果として1-0で勝利し、プレミアリーグ昇格を手にすることはできたが、この試合でチームを窮地に追いやってしまった彼の心が晴れることはなかった。
「試合中ずっとイライラしていて、熱くなってレッドカードをもらって、大事な入れ替え戦なのに、10人で戦わせてしまった。負けていたら、完全に自分のせいだった。ここで大きく意識は変わりました。そこから自分の中で改善していかなあかんと思うようになりました。もうチームのみんなに迷惑をかけたくない気持ちが強くなった」
意識が変わったことでプレーにも変化が起こった。運動量が増し、攻撃だけでなく守備でもその才を発揮するようになった。そして、チーム全体の状況を把握する能力と運動量を駆使して、攻守に関わり続けられるようになった。