考える力
2014年12月10日
周りを観てプレーできるようになる3つのポイント
『知のサッカー』の理解を深めるために企画された、サッカーサービス・ポールコーチによるセミナー。テーマは賢い選手を育てるために必要な「認知」についてです。前回はスペースの認知についてお届けしましたが、今回は認知に必要な情報収集の仕方について、お伝えします。
取材・文 鈴木智之
■首を振って何を観るのか?
ポールコーチは「どうやってピッチ内の情報を集めればいいか?」について、具体的な方法を説明します。
「周りを観るための方法のひとつに、正しい身体の向きを作ることがあります。身体の向きを開くことにより、ピッチ上の多くの情報を得ることができます。ただし、背後などの死角となるスペースを見るためには、身体を開くことだけでは不十分なことがあります。そこで、味方に対して斜めのポジションをとり常に首を振って背後を観ることで、どこに味方がいて相手がいて、スペースがあるのかといった情報を収集します」
【周りを観るための3つのポイント】1.正しい身体の向き2.味方に対して斜めのポジションをとる3.首を振って背後を観る
試合中、オープンサイド(前方/攻めている方向)を観るのは簡単ですが、ブラインドサイド(後ろ/自陣ゴールに近い方)はなかなか観ることができません。そこで、頻繁に首を振ることで、ブラインドサイドで何が起きているかを把握し、次のプレーにつなげていきます。ただし、7、8歳の子どもに「首を振って周りを観よう」と言っても、何を観ていいのか、ただ混乱してしまうだけです。ポールコーチは、7、8歳の子どもには、次のように声をかけるといいます。
「まずは『ボール以外も観てみよう』と言います。この年代の子どもたちはエゴイスティックなので、自分とボールの関係性でプレーをしようとします。それは年代の特性なので、良い・悪いはないのですが、ボール以外を観ることができたら、上の年代に進んだときにより良くプレーすることができます。9歳、10歳になると、少しずつエゴがなくなってきます。最初は自分でボールを運ぼうとしますが、できないことがわかると味方にパスをするようになります。この年代の選手に対しては、身体の向きを開くことで、より多くの情報を得られることを伝えます」
子どもたちに『周りを観よう』というと、サイドにポジションをとることがあります。なぜなら、タッチラインを背にして立つと、180度見ることができるからです。しかし、前回の記事でお伝えしたとおり、ピッチの内側のスペースでプレーすることが有効なので、ポールコーチは「なるべくサイドに開き過ぎないポジションでプレーするように」とアドバイスをすると言います。
■『認知』は個人技術の重要な要素
サッカーを理解し、賢い選手になるために必要な認知。そのために、適切な身体の向きを作り、常に首を振って周りの状況を観て、ピッチ内のどこにスペースがあるか、またはスペースができそうか。味方はどこにいるか? 相手はどこにいる? ボールはどの場所に来そう? といったことを考えながら、情報を収集していきます。FCバルセロナのシャビは、1試合に800回以上、首を振って周囲の情報を得ています。だからこそ、ボールを持ったら瞬時にチャンスになる場所へとパスが出せるのです。
「我々サッカーサービスは、パス、ドリブルと同じように、『認知』は個人技術の重要な要素だと考えています。そのため、90分間のトレーニング内で、最低1つは認知を含むメニューを行います。選手はまず認知をした上で正しい判断をし、正しいプレーの実行につなげます。認知⇒判断⇒実行が正しい順番で、反対はありません」
セミナー中盤で、ポールコーチが『スペースの変化』を認知するために行っているトレーニングを紹介しました。それが『知のサッカー第2巻』にも収録されている、『4対4のボールポゼッション』です。
次のような設定で行います。
1)34m×24mのグリッドで行う(レベルに合わせて調整可)2)グリッドを6分割し、選手は1つのゾーンに1チーム1人まで入ることができる3)短い辺のゾーンに5mのスペースを設け、そこへドリブルで入ったら1点。1点入ったら、反対側の5mゾーンをめざす4)攻撃側のパスを出した選手は、その場にとどまらず、必ず別のゾーンへ動く。
4対4で行い、ゾーンは6つあるので、選手が誰もいないゾーンが2つできます。攻撃側のパスを出した選手は、どこにスペースがあるかを観て、パスを出すとすぐに動きます。周りの選手はどこにスペースができそうかを考え、足を止めることなく、パスを受けるために動きます。
■考えてプレーすることが重要
ポールコーチは、会場に来ている指導者の方にアドバイスをします。
「選手たちはこのルール、設定をクリアするために、頭をフル回転させてプレーします。そうしなければ、うまくプレーができない設定になっているからです。まず、ボールを持っていない選手は、味方に有利なスペースを認知するために周りを観ます。それができると、ボールの展開にスピードを与えることができます。さらに、近くにいる相手選手の状況を認知しておくことも重要です。その情報をもとに、次にどのプレーをするべきかを判断します。自分がパスを受けるべき状況にいるときは、相手の状況を観て、相手のいない方向へコントロールする必要があります」
ただし、とポールコーチが付け加えます。
「このメニューをそのままやることよりも、なぜこのルール設定でやるのかを考えることが重要です。大切なのは、選手たちに何も考えずにプレーさせるのではなく、考えなくてはいけない設定を作ることで、考えてプレーするようにうながすことです」
セミナー参加者の方々は、ポールコーチのメッセージを漏らすまいと、真剣な眼差しでメモをとっていました。ここで紹介したコンセプト、トレーニングメニューはあくまでも一例です。サッカーには、このような細かい要素が無数にあります。サッカー選手として成長していくために、U13年代で個人戦術のベースを作ることは非常に重要です。日本の多くのグラウンドで、ここで紹介した事柄が含まれたトレーニング、指導が行われるようになったとき、日本サッカーはさらに進化するのではないでしょうか。
FCバルセロナの選手や世界のトッププロをサポートしてきたスペインの世界的プロ育成集団「サッカーサービス社」が、認知やサポートなど13歳までに身に付けておくべき戦術をプロの試合映像を使って解説。サッカーインテリジェンスを高めたい子ども達が見て学べる映像トレーニング。
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