考える力
2016年2月 8日
"お互いを知る"ことの大切さ。「しつもん」がチームを団結させる理由
思春期にさしかかり、子どもによって個性の違いがはっきりと分かれてくるジュニア年代は、ともすればお互いの自我がぶつかってしまう難しい時期。 そんな年代を指導するコーチや指導者の中には、チームの会議運営や雰囲気づくりにお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、しつもんメンタルトレーナーの藤代圭一さんが考案された『しつもん作戦会議』を通して、チーム関係の改善に取り組んだクラブにお話を伺いました。
『しつもん作戦会議』が子どもたち、そして監督やコーチにどんな効果をもたらしたのか。短期集中企画として2回にわたってご紹介いたします。第一回は監督さんの目線から、第二回は選手・保護者の目線からお伝えいたします。(取材・写真/鈴木蹴一 文/木之下潤)
■お互いの主張が強すぎでバラバラだったチーム
「お互いに何をやりたいかがわかってきたから、最近パスがつながるようになりました。別に、監督やコーチからそれを促したことはありません。子どもたちが『今日はパスをつないで行こうぜ』などと自分たちで試合の目標を決めていますから」
とある街のサッカークラブの監督さんの発言です。
聞くと、数ヶ月前までは個々が思い思いにプレーし、大量得点で勝つこともあれば、大量失点で負けることもあるムラのあるチームだったそうです。元気がいいのは長所だが、時にお互いの主張が強すぎて雰囲気が悪くなることもあったとか。そうなると噛み合わず、チームとしてバラバラになってサッカーにならなかったそうです。
そんなチームを何とか改善したくて、しつもんメンタルトレーナーの藤代圭一さんに相談したところ、「しつもん」を使ったチーム会議キット『しつもん作戦会議』を提案されたそうです。『しつもん作戦会議』は、トランプのようなカードにそれぞれ「しつもん」が書いてあるカードセット。1枚ずつカードをひいていき、書かれた「しつもん」に答えていくという会議運営のためのキットです。
最初はうまくいきませんでしたが、粘り強く続けたところ、少しずつチームが一つにまとまり、サッカーの質も上がったとうかがいました。藤代さんといえば、発問型の指導で練習ごとに『振り返り』の機会をつくり、自らで成長する力を身につけさせるスペシャリストです。
■会議を行ううえで設けたのは「3つのルール」
はじめは、チーム全員で会議を行うと収集がつかない可能性が高かったため、3~4名1グループを複数作って実施したそうです。まず監督が質問を与え、それに対してグループごとに答え合うことから始めました。
その際、ルールを3つだけ設定しました。
- 答えはすべて正解
- 「わからない」もOK
- 仲間の答えを「そうだよね」と受け止める
初挑戦は試合の日。監督は「今日の試合が終わった時にどうなっていたいか?」という質問しました。もちろん、その日からすぐにうまく物事が進むわけがありませんから根気強く続けたそうです。
最初は、うまい子が下手な子の答えに対して思わず「何だ、それ」と批判的な反応してしまったり、「そうじゃないだろ」と指摘してしまったりと、他人の意見を受け止められない雰囲気に包まれていたそうです。だから、下手な子がうまい子の指摘を逃れるために「わからない」と自分の考えを伝えられなかったことも多々あったとか。
しかし徐々に慣れてくると、わいわい楽しく会議をやるようになったそうです。それは、「子どもたちが自然に3つのルールの意味を理解してきたからだ」と語ってくれました。特に変わるキッカケは、他人の考えを一度受け止めることが大切だと気づき始めたことだそうです。
■お互いの考えを知ることで仲間を尊敬することができる
子どもたち自身が、前向きに他人の考えを受け止め始めると「へぇ、こんなことを考えていたんだ」「そんなこと、考えもしかなった」などと自分にとっても発見につながることを理解していったといいます。すると、上手だとか下手だとかが関係なくなり、仲間として尊敬の念が抱けるようになったのだそうです。そうなると、威圧的だった子は全員の意見に耳を傾けるようになり、内気だった子は全員の前で意見を言えるようになります。この雰囲気を作ることがチームをまとめるには大事だと、監督は強調しました。
「しつもん作戦会議を続けるごとに、お互いの性格、サッカーに対する考えやプレーのことが少しずつわかり合えたようです。やる前は、個々が好きなプレーばかりしていました。結果、上手な子のドリブル一本調子......パスを回すなど、チームプレーは少なかった。でも、徐々にパスをつなぐようになったんです。私はひと言も『パスをつなごう』とは助言していません。自然にそうなったんです。連帯感が出たからだと思います。点をとられても『取り返そう』『次、がんばろう』と周囲を気遣い、チーム全体のことを考える選手が一人、また一人と増え始めたんです」
■「否定しない」ルールが選手と監督の信頼関係を生む
『しつもん作戦会議』は選手間のコミュニケーションだけでなく、選手と監督のコミュニケーションにも大きく役立っていると付け加えます。
「他人の意見を受け止めることが当たり前になった選手は、同時に監督の言葉を受け止められるようになります。聞く姿勢が整ったからか、私たちスタッフも全員に話しやすくなりました。だから、以前より断然コミュニケーションが増えました。しかも、どの選手ともまんべんなく話をするようになったんです。なんというか、いい意味で選手と監督という上下関係のようなものがなくなり、お互いに言いたいことが言い合えるいい関係になりました」
今では放っておくと、子どもたちだけで30分以上ミーティングをやっているそうです。だから、次のステップとして15分という決まった時間内で監督やコーチから与えられた質問に対し、的確に意見を伝え合える感覚を養わせているとのことでした。そして最後に、監督は興味深い言葉を残してくれました。
「私たちも変わりました。じっくり待てるようになったし、落ち着いて子どもたちに対応できるようになりました。おそらく、自分が『しつもん作戦会議』の質問内容を考え、子どもたちのミーティングがうまく進むように導いていかなければならないからだと思います。自分が落ち着いて考えるようになったからか、子どもたちから話しかけられることが増えました。お互いに否定しないように心がけていることもあるでしょうし、単純に会話の質が上がったのもあるでしょう。とにかく話しやすい雰囲気になり、信頼関係が生まれたんです。それは子どもたち同士の関係もそうだと思います」
他人の意見を受け止めるというルールを設定し、一つの質問に対する答えを伝え合うだけでチームにまとまりが生まれるようです。そうすることで、個々がそれぞれの気づきの中で成長を果たすのです。他人の良いところは吸収し、悪いところは反面教師として捉える。結果的に、個人の学びにも大きくつながっていることを発見するのです。
第二回は選手・保護者の目線から『しつもん作戦会議』で学んだことをお伝えいたします。
第二回『「どうしたら良いと思う?」 人生に役立つ"自分と向き合う心"を育てる方法』>>
藤代圭一(しつもんメンタルトレーナー)
小学校や中学校、高等学校で「子どものやる気を引き出す」をテーマとした講演を行う傍ら、スポーツスクールや少年団へのセミナーやワークショップを精力的に実施。子どもたち選手が潜在的に持っている力を信頼し、伸ばしてあげたいと考える両親や指導者の方々に好評を得ている。U-15女子サッカーチーム全国大会4位入賞、フットサル全国優勝、U-18インターハイ出場に貢献。