考える力
2016年5月 9日
「おれが○○を育てた」なんてふざけるな! "育てる"ではなく子どもが"自然に育つ"環境をつくるコツ
元日本代表監督のイビチャ・オシムさんを日本に連れてきたことで知られる祖母井秀隆(うばがい・ひでたか)さんは、ジェフユナイテッド市原・千葉、フランスのグルノーブル・フット38、京都サンガF.C.でゼネラルマネージャー(GM)を務めた経歴を持つ“日本人GM”の第一人者で、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』にも出演したことがあります。
1974年のW杯西ドイツ大会を現地で観戦したことをきっかけにドイツへ留学、ケルン体育大学でコーチングを学び、サッカーコーチとしてドイツの小学生を指導した経験があることはあまり知られていない祖母井さんの隠れたキャリアです。今回は、いまも日本サッカーのために奔走する祖母井さんに子どもを“育てる”のではなく、子どもが“自然に育つ”環境をつくるコツを教えてもらいました。 (取材・文 小澤一郎)
■大人は子どもが育つ環境を整えてあげること
「一番大切なのは子どもで、子どもを無視したクラブマネージメントなどありえません」と話すように、祖母井さんの原点はドイツでの子どものサッカー指導にあり、いつも11人が揃うとはかぎらず、試合をすれば10点差以上の大敗を喫する超弱小チームを指導するうちに、サッカーを教える喜びと同時にサッカーに携わる大人の役割についてしっかりとした考えを持つようになります。
そうしたベースを持つ祖母井さんだからこそ、クラブやコーチが一人称で「選手を育てた」と言うことを「ありえないこと」と認識しているそうです。
「そもそも人は育てるのではなく、育つものです。育つ環境を提供することが私たちの仕事だと考えてきましたし、『私が◯◯を育てた』なんて自慢する監督がいれば『ふざけるな』と思っています」
祖母井さんはジェフユナイテッド市原に1995年から2006年まで在籍しますが、当初は育成部長としてアカデミーの整備を任されます。育成部長としてまず取り組んだことは、まさに“選手が育つ環境づくり”でした。
「わたしが行ったころのジェフのジュニアユースには、寿人(現広島)、勇人(現千葉)の佐藤兄弟や阿部勇樹(現浦和)らがいました。彼らを筆頭に当時のジェフからはプロで10年以上のキャリアを積むことになる、あるいは日本代表として活躍する選手が数多く育ちました。とはいえ、信じられないかもしれないですが、当時のジュニアユースの練習は体育館しか使えませんでした。ユースが人工芝、トップが天然芝を独占していて、ジュニアユースはグラウンドで練習できませんでした。そんなことはありえないとトップチームの責任者にまで直談判しに行き、人工芝や、ときにはトップチームの天然芝でバランスよく練習ができるようになりました。トップチームの天然芝のグラウンドにわたしが足を踏み入れた際、関係者から水をかけられたこともあります」
そうした祖母井さんの地道な努力もあって、前述の佐藤兄弟、阿部のみならず、当時のジェフアカデミーからは山口智、村井慎二、酒井友之、山岸智、工藤浩平といった選手がコンスタントに輩出され、“育成のジェフ”という看板を掲げるまでの育成型クラブへと進化します。
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