考える力

2016年7月11日

ゲーム形式のトレーニングだけでは爆発的な成長はない⁉ 元バルサスクールコーチがドリル形式のトレーニングを取り入れる理由とは

 

■ドリル形式のトレーニングはボールを扱う技術だけでなく身体の使いかたも体得できる

それはなぜか。ドリル形式のトレーニングを行うことで、自分自身の身体と向き合うことができ、自分の身体をうまく扱うことに繋がると確信しているからです。それはボール扱いのうまさに繋がるし、ボールがないところでも身体をうまく使えることにも繋がります。
 
たとえば、インサイドとアウトサイドでリフティングをして股関節をうまく扱えるようになれば、身体を反転させる動きがスムーズになります。これをサッカーシーンに当てはめれば、飛んできたボールをうまく身体を使って、アウトサイドでトラップすることができるようになるわけです。つまり、その選手は高いレベルのボールタッチを習得したということになります。
 
身体をうまく扱えるようになると、さらに、ギリギリの状況判断でもプレーの選択を柔軟に変えられる、というレベルに繋がっていきます。その町クラブが取り組んでいることは、スペイン的な考え方とは真逆と言っていいもので、できるだけプレーの判断を遅くして、相手の出方をギリギリまで覗いながらプレーの判断を決定、そして素早く実行するというプレーを目指しているのです。これもまた私にとっては衝撃でした。
 
もちろんスペインでも、プレーの判断を状況に応じて瞬時に変えることは求めていますが、さきほどお話したように、あくまでチームのためにプレーすること、チームのやり方に合わせることでチームとして勝利を求めているので、“今”うまくできない選手にギリギリの判断でプレーを変えられるようになることを求めていません。だからなのか、判断を変えたほうがいいことが頭ではわかっていても、身体がうまく扱えずに自分の動きを止めることができない、という選手を多く見てきたのも事実なのです。
 
ところが、日本のその街クラブの取り組みとしては、“今”はいくら失敗しても問題ない、チャレンジしよう、というスタンスがあるので、子どもたちはボールと身体がうまく扱えるようになるまで、そして、状況に応じてギリギリまで判断を遅くしてプレーできるようになるまで、いくらでも失敗を繰り返します。その結果として、1年度、2年後、3年後にその子どもは身体がうまく使えるようになり、試合のなかでも状況判断に応じたテクニックが身につくことになるわけです。
 

■ゲームとドリルのバランスが大事

もちろん、そのような方向に進んでいくためには、コーチがゲーム形式のトレーニングと、ドリル形式のトレーニングをうまくバランスを取りながら組み合わせていく必要がありますが、私が参考にしている町クラブの子どもに対するアプローチは、日本サッカーの育成の考え方として、非常に重要なことを示唆しているのではないかと感じるのです。
 
繰り返しになりますが、スペインよりも日本のほうが「もっとうまくなりたい!」という気持ちが強い子どもは多いです。日本の子どもたちのその向上心に、私はコーチとしてしっかりと応えられるように、海外からだけでなく日本の街クラブや他競技からも多くのことを学びつづけていきたいと思います。
 
 
村松尚登
1973年生。千葉県立八千代高校卒。筑波大学体育専門学群卒。指導者の勉強のため1996年にバルセロナに渡る。2004年にスペインサッカー協会の上級コーチングライセンス(NIVEL 3)を取得。2005-06シーズンにはスペインサッカー協会主催の「テクニカルディレクター養成コース」を受講。この12年の間にバルセロナ近郊の8クラブで指導に携わり、2006-07シーズンよりFCバルセロナのスクールにて12歳以下の子供達の指導に従事。2009年9月から2013年2月までFCバルセロナのスクール福岡校(※正式名称はFCBEscola Fukuoka)の指導に従事。2013年3月、水戸ホーリーホックの下部組織のコーチに就任。著書に『スペイン代表「美しく勝つ」サッカーのすべて』(河出書房新社)、『スペイン人はなぜ小さいのにサッカーが強いのか』(ソフトバンク新書)など。
 

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