考える力
2017年9月 6日
真の育成・強化のために、いま「大人がすべきこと」とは
アーセナルSS市川の代表であり、U-11プレミアリーグの責任者を務める、サッカーコンサルタントの幸野健一さんとともに考える、育成年代のリーグ戦の重要性。前編ではジュニア年代でのリーグ戦が重要な理由についてお話しいただきましたが、後編では「レベルに合ったリーグ戦の必要性」について、話を伺いました。(取材・文:鈴木智之)
(写真は少年サッカーのイメージです)
■双方の強化につながらない試合が行われている
アーセナルSS市川は千葉県市川市を拠点に活動するクラブです。千葉県ではU-12年代のリーグ戦があり、参加チーム270を各10チーム27ブロックに分けて、各クラブ前期(4月~7月)は9試合を戦うレギュレーションで進められています。後期(8月〜)は前期の結果を踏まえたレベル別のリーグ戦になります。
幸野さんは「東京都はチームの実力順に最初から1部、2部とカテゴリーを分けていますが、千葉はそうなっていません。そのため、子ども達にとって不幸な出来事が起きています」と言葉に力を込めます。
「千葉県の前期リーグ戦、全1215試合のスコアを調べたのですが、5対0以上の試合が349試合ありました。これは全試合の29%にあたります。つまり、リーグ戦のうち3試合中1試合が相手との力の差があり、双方にとって強化にはつながらない、“やる意味のない試合”が行われています」
■子どもたちにとって不幸な現実
幸野さんが代表を務めるアーセナルSS市川の試合では、こんなことがあったそうです。
「うちのクラブに一人スーパーな選手がいて、キックオフから誰からもボールを奪われず、何回も連続でゴールを決めたことがありました。私としても、その選手に対して“そのへんで止めておきなさい”と言うわけにもいかず、どうしたものかと思っていたときに、相手チームの選手が試合中に悔しさのあまり泣き出し、試合が終わるまでの20分間、号泣し続けたのです」
この姿を見て、幸野さんは「実力差がある相手と試合をしても、双方にとって意味がないし、大差で負けたチームの子はサッカーが嫌いになる。トラウマになり、サッカーを嫌いになって辞めなければいいな…」と感じたと言います。
「これは決して、特別な出来事ではありません。千葉県のU-12リーグの結果を見ても、1試合で10対0といったスコアはザラにあります。リーグ戦の最下位のチームなど、9試合戦って0勝9敗。得失点差-106といった、サッカーのスコアとは思えない試合結果が実際にたくさん残されているわけです。想像してみてください。毎試合10点以上取られるチームの選手、監督、保護者の気持ちを……」
「練習して強くなればいいじゃないかという意見もあると思いますが、小学生の時からプロを目指して強化し、選抜チームに入る子を何人も抱えるチームと、遊びの延長で体を動かすことが目的のチームを比べるのは、適切と言えません。いまはリーグ戦がレベル別になっていないので、強化目的のチームと育成・普及目的のチームが同じリーグで戦わなくてはいけません」
「これは双方にとって不幸な現実以外のなにものでもありません。また、毎週末のように全国各地で行われているトーナメント形式の大会などもレベルを考慮しないで対戦を組み合わせているので、僕が千葉のリーグ戦で計算したのと同じように、約3割の試合は大差のつく結果になっていると予測されます」
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