考える力

2018年5月28日

「今のままじゃ、Jリーガーになれても日本代表としてW杯に出るのは無理」スペインで活躍する柴崎岳が変わるきっかけとなった青森山田高校・黒田監督の言葉

■褒めすぎの弊害! 全力を出すことがストレスになる子

――保護者も子どももプロになりたいという気持ちがあるはずなのに、行動が逆行しているんですね。


そうなんです。子どもに覚悟を決めさせて、保護者がいなくても自分で何かをする力をつけさせるために親元を離れたのに、それでは意味がなくなってしまいます。友達と遊んだり、ボールを蹴っている時間が一番大切なのに、保護者が会いに来ることでその時間を奪ってしまうんです。特に中学生に多いと思いますが。自分が戻るところはないんだ。ここで成功するんだ、勝ち取るんだという気持ちがないと、プロになるのは難しいと思います。(柴崎)岳をはじめ、プロに進んだ子たちはその気持ちがありました。

(これまでに獲得したトロフィーの一部。壁には柴崎岳選手の直筆サインが入ったヘタフェCFのユニフォームが)

――黒田監督は、保護者が子どもに手をかけすぎると同時に、安易に褒めることの弊害も危惧していますね。

褒められ慣れてしまうのは、すごく危険だと思います。なぜなら、自分ができること以上の要求をされたことに対して、ストレスを感じるようになってしまうからです。今まで70%、80%の力でプレーしていたことに対しても、安易に褒めてしまうと、それを100%のプレーだと勘違いして「これが自分の全力のプレーなのだろう」という思考が働いてしまいます。

安易に褒めてしまう指導は「無責任」なことです。さらに向上できるよう導くことが適切な指導だと考えています。

――全力を出す習慣がつかなくなってしまいますね。


だから90%や100%を求められた時に、過剰な要求だと感じ、ストレスを感じてしまうんです。結果として、そこを強く求める指導者を避けてしまいます。今の時代、そういう子たちが多いのではないでしょうか。育成は、そこを求めさせる中高の6年間でないといけないと思うし、その「限界値」を求めずしてプロ選手になることなど絶対にあり得ません。そして、「頑張り屋」ではなく、「努力家」になること。

努力の仕方を身につけるのも、育成年代で大切なことだと思います。決して自分の苦手から逃げず、しっかり向き合って、トコトン突き詰めていくことこそが、プロ選手への第一歩だと言えます。

後編では、教育者でもある黒田監督の指導理念や、サッカーの技術、戦術だけでなく人間性を高める育成や、社会を生き抜くために必要な「ストレスに強い心」の育て方についてお話を伺いました。

豪雪地帯という環境のハンデをどう活かしているか、高3で青森山田高校に行った神谷優太選手(愛媛FC)が初めて受けた洗礼とは? 後編もお楽しみに。

黒田剛(くろだ・ごう)/青森山田高校サッカー部監督

北海道札幌市生まれ。
大学卒業後、ホテルマン、公立高校教諭の経験を経て、94年に青森山田高校サッカー部コーチ、翌年、監督に就任。
青森県内公式戦(高校総体、選手権、新人戦)329連勝中。全国高校総合体育大会サッカー競技、18年連続出場中(2017年現在)
勝つための独自の育成哲学を持ち、数多くの名選手を輩出している。

黒田監督のコラム「青森黒田魂」はこちら>>

前へ 1  2

関連する連載記事

関連記事一覧へ

関連記事

関連記事一覧へ