考える力
2018年7月20日
大人が環境をつくれば子どもは変わる! 大人の求める答えを探す子にならないために気を付けるべきポイント
ドイツ・ブンデスリーガの1860ミュンヘンのアカデミーで指導をし、帰国後は湘南ベルマーレやAC長野パルセイロのジュニアユースなどを経て、長野県で『ドイツサッカースクール』を主宰する西村岳生さん。ドイツで指導をしている際に湘南ベルマーレに声をかけられ、ジュニアユースのコーチになるために帰国しました。
帰国直後は、ドイツの子どもと日本の子どもの違いに直面したと言います。前編では子ども扱いしすぎると責任感が育たないということと、親御さんも子どもに集中しすぎず自分の時間を過ごすことが親子のいい距離感を生むのではないか、ということをお伝えいたしましたが、後編では子どもたちが自分の意見を言えるようにする接し方についてお送りします。
(取材・文:鈴木智之)
(サカイクキャンプでも子どもたちが意見を言える環境を大事にしています)
■理解していなくても「わからない」と言わない日本の子どもたち
「私が指導してきたドイツの子ども達は、小学生であっても自分の意思をしっかりと持っていました。でも、日本に帰ってきてジュニアユース(中学生)の選手を見たときに、ちょっとした違和感を覚えました。私が何かを言うと『ハイ』と素直に返事をするのですが、本当に私の言ったことがわかっているのかな? と感じることが多々ありました。指導を始めて1か月ぐらいしたときには、よく『キミの"ハイ"はどういう意味のハイなんだ?』と聞いていましたね」
日本は大人と子ども、指導者と選手が主従関係にあることが多く、目上の人の言うことには素直にハイと従う文化があります。そこに違和感を覚えたようです。
「私の言ったことがわかっていないのに、ハイと返事をしているケースが多いのではないか。そう感じました。ドイツの子どもの場合、わからないときは『わからない』と言います。それは悪いことではなくて、指導者からすると"わからなければわかるように説明しよう"と、違うアプローチをすることができますよね。結果、子ども達も理解することができます。でも、日本の子どもはわからないことがあっても、わからないままハイと返事をすることが多い。そのため、指導者側が"何がわかっていて、何がわかっていないのか"を把握することに時間がかかるんです」
■まずは言いやすい雰囲気づくりから。沈黙が気まずくても待ってみる
考えて発言をする、自分の考えを仲間に伝える。サッカーがチームスポーツである以上、ボールを上手に扱うことと同じぐらい、重要なスキルです。
「それもあって日本に帰ってきて、子ども達が『自分は何を考えているのか』を言いやすい雰囲気づくりをすることから始めました。具体的には、指導者が正解や答えを求めず、子どもが発言することを待ちます。質問をした時に答えない子がいても、指導者が誘導しない。大人はある程度答えが見えていますが、正解を子どもに言ってもらうために質問をするのではなく、子どもの方から答えが出てくるのを待ちます。沈黙が続くと、その時間は嫌だろうけど、待つことによって喋る子もいますからね」
■遠藤航(浦和)と新鋭監督ナーゲルスマンの共通点
西村さんの指導キャリアの中で、考える力、自分の考えを周りに伝える力が飛び抜けていると感じた選手が2人います。1人がブンデスリーガ史上最年少で1部クラブの監督になった、ホッフェンハイムのユリアン・ナーゲルスマン。そしてもう1人が、浦和レッズの遠藤航選手です。
「ユリアンと(遠藤)航には共通点がありました。観客が大勢入ったグラウンドで試合をすると、ベンチからの指示の声が選手には聞こえないのですが、彼らを呼んで指示を伝えると、難しい試合の局面でも、瞬時にチームメイト全員に指示が伝わっていきました。考える力、聞く力、会話する力。つまりコミュニケーション力がすごく高かったですね。ユリアンは若くしてブンデスリーガの監督になりましたが、高校時代から考える力を備えていました。それは家族や指導者、学校の先生などの力もあって、そうなったんだと思います」
サッカーはチームメイトと連動してプレーする"コミュニケーションスポーツ"である以上、会話する力や自分の意見を伝える力は、トップレベルを目指すためには、避けて通れないものです。
「中学生ぐらいまではボールを扱ううまさがあれば、それほど味方と会話しなくてもプレーすることができますが、高校、大学、プロとしてステップアップして行きたいのであれば、チーム戦術を理解する上で会話をする力は絶対に必要です」
監督やチームメイトとサッカーの中で会話ができるようになるには、小さな頃から自分の頭で考え、意見を伝える、発言することを繰り返すこと。周りの大人がその環境を作ってあげることにつきます。
「日本の場合は正解が答えられたら○。間違っていたら×。でもドイツの場合は何か質問をされた時に、答えが間違っていても、なぜその答えを言ったのかという理由を説明できて、考えるプロセスが間違っていなければ、たとえ正解ではなくても褒められます。そうすると、自分の考えや意見に自信を持つようになりますよね」
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