考える力

2018年8月 6日

いつでも話しやすい空気を作る。多くのJリーガーを輩出する滝川第二の松岡監督流、選手たちを伸ばす距離の取り方

毎年たくさんのお子さんが参加する「サカイクキャンプ」では、サッカーの技術だけでなく人間性を高めるべく2017年の春キャンプから、ライフスキル研究者である慶應義塾大学の東海林祐子先生にアドバイザーを務めてもらい、「ライフスキル」プログラムを導入しました。

ライフスキルとは、人生の中で困難にぶつかっても自分で考えて乗り越えていける力のことであり、サカイクでは「考える力」「リーダーシップ」「感謝の心」「チャレンジ」「コミュニケーション」をサッカーを通して身につけられるライフスキルとしています。

優れたトップアスリートはスポーツの技能だけでなく、高い人間性も兼ね備えています。現在Jリーグや海外で活躍している選手たちも、学生時代からリーダーシップや感謝の心を身につけていたのでしょうか?

このコラムでは、『あの選手は高校時代にこんなスキル・人間力があったから成功した』と感じるエピソードをもとに、サッカーの技術だけでなく、人間的なスキルを磨くことの大切さに迫ります。(サカイク編集部)

日本代表に選ばれる選手は、どんな高校時代を過ごしていたのか。前回は、岡崎慎司選手の高校時代を振り返りましたが、後編の今回は岡崎選手の恩師である黒田和生元監督の指導方法、そして岡崎選手が卒業してからも多くの人材を輩出する滝川第二高校の指導方針についてお話をお聞きしました。

(取材・文、写真:森田将義)

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(C)森田将義

■思考力をつけるため、月いちで読書感想文提出

黒田和生元監督は、高円宮杯で優勝するなど輝かしい成績を残しながら、数多くのJリーガーを育てた指導者で、岡崎慎司選手も滝川第二高校の3年間は師の下でプレーしました。現在チームを率いる松岡徹監督の現役時代の指導者でもある黒田元監督の教えで特徴的なのは、社会に出てからも通用するスキルの向上です。

松岡監督が「指導分野はピッチ以外の部分が多く、生徒を一人ひとり見られていたと思う」と振り返るようにAチームの選手だけでなく、試合に絡めない選手まで目を光らせ、対話を重ねながら人間としての成長を促していました。例えば、松岡監督の現役時代には身だしなみの徹底だけでなく、月に一度、読書感想文を提出させるなどピッチ以外の指導が数多く見られました。

関西屈指の強豪・滝川第二高校で試合に出場出来ていても、プロになれる選手はごくわずか。大半の選手は卒業後に社会人として生きていくため、サッカー選手である前に立派な人間である必要があるからです。

「近い目標と遠い目標を持ちなさい。5年後、10年後が勝負だ」。これは松岡監督が高校時代に黒田さんから言われ続けてきた言葉です。近い目標であれば、高校3年間で何を達成したいか、遠い目標であれば将来自分が何になりたいか。二つの目標を達成するために今は何をすべきか考えなければいけません。

考えるためにはたくさんの知識が必要となるため、読書も有効な手段の一つですし、監督やコーチ以外の声に耳を傾けるのは大事なことです。黒田さんの監督時代には、千葉や京都のGMを務めた祖母井秀隆さんや、後にJリーグの監督を歴任したズデンコ・ベルデニック氏やゲルト・エンゲルス氏を外部コーチとして招き、選手に多くの知識を増やしました。

サッカー以外のことにたくさん触れさせるのも黒田さんならではで、ラグビーで一時代を築いた神戸製鋼の練習を観戦しに行ったり、遠征の際は必ず観光に立ち寄っていました。松岡監督はこう話します。「サッカーには気持ちが大事ですが、気持ちと心は少し意味が違い、範囲は心の方が狭くて、気持ちの方が広い。心が大きくなれば気持ちも大きくなるから、気持ちの前に心を大きくしていかなければいけません」。

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