考える力
2018年9月20日
スポーツをしている子の方が勉強ができる!? 調査結果から見るその理由とは
受験のためにスポーツ活動を減らす、勉強に力を注ぐために体力の消耗が少なそうな部活を選ぶなど、最近は学業成績のためにスポーツの比重を小さくする家庭も少なくはないようですね。地域によっては中学受験のために小4か小5の途中でサッカーを辞めさせられるお子さんもいるようです。
しかし、勉強に専念すれば学業成績が伸びるのでしょうか。
古くから大切にされている「文武両道」という概念がありますが、スポーツをしている子は学校の成績を伸ばすことは難しいのでしょうか。保護者としては、本人が納得していればそれが一番とは理解しつつも、出来る限り両立してほしい気持ちもあるものですよね。
たとえば米国では、ビジネスエリートは学業成績だけでなくスポーツ面でも優秀な成績を修めていたり、忙しい毎日の中でもスポーツ活動を行っていることが多くあります。
今回は、スポーツ大国である米国をはじめ、諸外国の調査データをもとに、スポーツと学業成績の関係についてお届けします。(取材・文:谷口輝世子)
写真はサカイクキャンプです
■身体を動かす子の方が学力が高い
米国では子どもの身体活動と学力との関係を調べた研究結果が数多く発表されています。
その中で、子どもに関わる調査として学校での休み時間と学力についても多くの調査が行われています。米国では2000年ごろ、学力テストの結果を向上させるために休憩時間を削る学校が増えていましたが、「休み時間を削ることは学力向上に役立つのか?」と疑問の声が上がっていたので多くの研究者が調査に乗り出したのです。
テキサス・クリスチャン大学の研究者グループが2013年に行った調査では、テキサス州の複数の学校でキンダーガーテン(日本の幼稚園・保育園年長児)と小学1年生の子どもに授業の合間に15分間の休憩時間を1日4回与えることにしました。
そうしたところ、あまり休憩時間を与えられていない学校の子どもに比べて、15分×4回の休憩を与えられた子たちの方が集中する力が30%高まり、そわそわするような行動は1/4ほどに減少したそうです。
この米国の研究に先立って、北欧フィンランドでも休み時間と学力についての調査が行われていました。そこでもやはり、休み時間を与えた子どもたちの方が、座っている時間の長い子どもよりも学力が高くなることが分かったそうです。
調査を行ったテキサス・クリスチャン大学の研究者は「シェイプ・アメリカ」(※)のホームページ上でこのように述べています。
※積極的かつ創造的で健康的な生活習慣への感謝と参加を通して、すべての個人が最適な生活の質を享受する社会を作るために様々な活動をしている団体
「子どもたちの体は動くようにできています。自由な遊び、外遊びは彼らにとってのリセットボタンのようなものです。それは休憩時間であるだけでなく、心と体とがつながっている遊びの環境で、子どもたちは教室で教えられたことを使うことができます。あまりにも長く座っていると、脳は眠っているかのような状態になります。一方、運動は私たちが座っているときには発火していない脳内のニューロン(情報伝達をする神経細胞)を刺激するのです」
つまり、自由な遊びや身体を使った遊び時間があることで、子どもたちはより学習に集中できるのです。そして学習に集中した後には、自由な遊び時間のなかで、無意識にであっても教室で学んだことを試したり、使ったりしながら自然と身につけていきます。これらは学校の時間割を工夫することで、そういった好循環を作り出すことが可能になるということです。
これは家庭でも同じことが言えるのではないでしょうか。
しっかり学んで、思い切り遊ぶ。そんな環境の中で脳が活性化し、学びが深まるのです。
■放課後のスポーツ活動は学力向上とも関係あり。高校中退率減少という結果も
近年の研究では、身体活動が脳のはたらきに役立つことが明らかになってきています。
米国保健福祉省発行のレポートでも、スポーツなどの身体活動がどのような影響を脳に与えるのかについて解説しています。
それによると、身体活動によって、脳の毛細血管の成長、血流の増加、脳が元気に活動するために必要な酸素の増加、情報を伝達する神経栄養因子の生成、記憶を司る海馬の神経細胞の成長、神経回路網「ニューラルネットワーク」の密度の高まりなどが起こるそうです。
また、スポーツや身体活動によって変化するかもしれないものとして、注意力の向上、情報処理力の向上、困難への対処力の向上なども挙げられています。
これからの社会で求められるのは自分で考えて困難を乗り越える力ですので、サッカーをしているお子さんを持つサカイクの保護者のみなさんにとってもうれしい調査結果ではないでしょうか。
身体を動かすことは脳のはたらきに役立つことが分かってきていますし、休み時間を与えられることで集中力が高まることは複数の調査結果が示しています。
では、放課後のスポーツ活動は、学校でよい成績を収めることと関連しているのでしょうか。
米国の保健福祉省は、放課後に行われている「スポーツを含む身体活動」と学力について、一定の基準を満たしている14の研究論文を論評しました。
その結果、ほとんど全ての調査で放課後の身体活動と学力で「良い影響がある」か、または「因果関係がはっきりしない」という結果だったそうです。つまり、14の論文全ての結果が「良い影響がある」ではないにしても、放課後の身体活動が学力にとってマイナスであるという結果はほとんど見られなかったということです。
さらに学校の通知表のGPA(学業成績の平均点)と放課後の身体活動の関係については、複数の論文で22回にわたり調査されており、そのうち12回が放課後の身体活動は学校の通知表に良い影響を及ぼしているという結果になったのだとか。
また、異なる2つの研究から、「放課後の身体活動は高校中退率を減少させる」という同じような結果が出たとそうです。さらにこれとは別の2つの研究では、放課後のスポーツを含む身体活動は学校の成績に幾分か良い影響があり、言葉を使う能力と考え方の能力にポジティブな影響があるという結果を導き出しています。
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