考える力

2019年5月31日

中村俊輔、小川航基らを輩出した桐光学園高・西川潤の恩師に聞く、西川がどんな環境でもタフに生き抜ける理由

現在開催中のU-20ワールドカップ。日本代表メンバーの西川潤選手(桐光学園高校/神奈川県)は、メンバー唯一の高校生。中学時代から将来を嘱望されるストライカーで、高2でセレッソ大阪に内定し、南野拓実選手、香川真司選手を超えるクラブ史上2番目の若さでデビューを飾るなど、今後の成長が楽しみな選手です。そんな西川選手がどのようにして自主性やリーダーシップを身につけてきたのか、サッカージャーナリストの元川悦子さんが桐光学園高校の鈴木勝大監督に伺いました。親御さんの接し方などもご参考にしてください。
(リード:サカイク編集部/ 本文取材・執筆・写真:元川悦子)

■環境が変わっても動じないのは高校サッカーで鍛えられた経験

ポーランドで開催中の2019年U‐20ワールドカップ。同大会に参戦している日本は23日の初戦・エクアドル戦(ビドゴシュチ)を1-1のドローから発進し、26日の第2戦・メキシコ戦(グディーニャ)を3-0で快勝。29日のグループ最終戦・イタリア戦(ビドゴシュチ)もスコアレスドローで、2017年韓国大会に続くベスト16入りを果たした。

その3戦目で初めてスタメン出場したのが、唯一の高校サッカー所属選手である桐光学園3年のFW西川潤だ。

U-20ワールドカップ日本代表メンバー唯一の高校生、西川潤選手

 

彼は久保建英(FC東京)や斉藤光毅(横浜FC)と同じ2001年度(2002年2月)生まれの17歳。プロサッカー選手としての生活に重きを置いている彼らとは異なり、「最後まで学校に通ってきちんと卒業する」という考えのもと、今も学校生活優先で活動している。長期休みなどを活用して入団内定先であるセレッソ大阪のトップチームやU‐23に合流し、U‐17、U‐20の両年代別代表にも定期的に参加しているため、この1年は「五足の草鞋」を強いられることになる。

「自チームではキャプテンをやったりしていますけど、セレッソでは一番下なので雑用をすることもあります。それぞれの環境で立場は大きく変わりますけど、つねに自分をブラさずにやることを意識してます」と本人は1つ1つのチームでまずはしっかり順応することを第一に心がけている。

プレーする場所が目まぐるしく変われば、レベルや連携、人間関係に戸惑うのも当然だ。しかし、西川の場合はそういう問題を抱えることがほぼないという。天性の適応力や柔軟性が大きな力になっているのは確かだが、「高校サッカー部という大所帯の組織で過ごしてきたことも大きい」と桐光学園の鈴木勝大監督は見ている。

■タフな世の中を生き抜くための逞しさを身につけるのに必要なこと


鈴木勝大監督

 

「西川は横浜F・マリノスジュニアユースからウチに入学してきた時から自分を冷静に客観視できるタイプの人間でした。先輩後輩があり、難しい上下関係もある高校サッカーという環境に来て、自分がどう行動すべきか、どういう役割を担うべきかをより真剣に考え、積極的に意思疎通を図るようになった。そこには大いに成長を大いに感じます」

3年になってからキャプテンに就任したことも、チーム統率力やリーダーシップを養ういい経験になっている。

「我々には目下、50人の部員がいますが、キャプテンは考え方の異なる選手をまとめ、保護者や指導者との関係にも配慮しなければいけません。時にはチームとして早朝・午前・午後・夜の4部練習で理不尽な追い込みをかけることもあるし、本人が自分自身の課題にも取り組む必要がある。プロで成功を目指そうと思うなら、そういう難しい立場を味わってもらうべき。彼より4つ年上の小川航基(磐田)にも人間的な幅を広げさせるべく、あえてそうさせました」

西川の場合は学校での責任ある立場に加え、早くから年代別代表と行き来しながら海外経験も積み重ねている。今年1月にドイツ・ブンデスリーガ1部のレバークーゼンに練習参加。その特殊な経験もメンタルの成長を助長させたという。

「セカンドチームに約10日間合流しただけですが、『僕が紅白戦に出れば、その分ベンチを温める選手がいる。ピッチ内外で彼の悔しさをひしひしと感じました』と本人が帰国後、話していました。勝負の厳しさや世界のレベルの高さ再認識し、タフな環境でやっていく覚悟が備わったようです。現在、5つのチームを掛け持ちできているのも、ドイツなど異国に身を投じた経験が大きい。早いうちに異文化の中で戦うことも、逞しく生き抜く力を養ううえで大切だと思います」

■自立心や自主性に磨きをかけ成長できた理由


桐光学園の先輩、中村俊輔選手のサイン入りユニフォーム

 

とはいえ、高校生活を送りながら、Jリーグに出て、代表活動もこなすのはやはり容易なことではない。卒業単位を取るのも一苦労だろう。現在参戦中のU-20ワールドカップもそうだが、学校を欠席しなければいけない状況も出てくる。そこは学校側も公欠扱いにしたり、レポート提出OKにするなど、最大限の配慮をしてくれているようだ。

「西川は授業中に寝ることはないし、提出物も期限までにきちんと出してくれます。Jリーガーになった過去の教え子の中にはレポートを出さなかったり、成績が足りない選手もいましたけど、彼は全く違う。教員は『西川君はいつ戻ってくるの?』と寂しがるくらい模範的な生徒だと思います。

オフ・ザ・ピッチの行動を見ていても、時間があればサッカーの映像を見て勉強している。それでいて周囲を楽しませるキャラクターもあるので、私が特段注意することもないですね。練習中に『今は右足で蹴る方がいいだろう』など個別のアドバイスはしますが、自立心を養わせるような特別なアプローチもしていません。何事も自分で気付いて取り組めるところが彼の大きな強みでしょう」

西川の両親もサッカーに対しては全く口を出さない。むしろ、高校在学中の17歳でJ1デビューを飾った息子の急激な環境の変化に驚いているという。彼には4学年上の兄・公基(神奈川大)もいて、両親は鈴木監督の考え方や桐光学園の考え方を理解したうえで息子を預けたこともあり、温かい目で見守るスタンスを取り続けている。そんな周りに支えられ、西川は自立心や自主性に磨きをかけ、ここまで来たのだ。

「合宿や遠征で一番食事をしっかり摂るのが西川です。入学してきた頃から身長は180㎝くらいありましたけど、体の線が細くて、球際や当たりが弱かった。そこを本人が自覚して、強度を上げるために食事への意識を高めたんでしょう。左利きということで右足のキックやボール扱いもうまくなかったけど、日に日に改善が見られている。球際や寄せといった守備の部分もそうですが、何が足りないのかをつねに感じられるいくつかの環境に身を置いてきたから、今の姿がある。彼のサッカーIQの高さは中村俊輔にも通じる。この先も大きく成長できると信じています」と鈴木監督は前向きに語っていた。

飛び級で参加した今回のUー20ワールドカップでも、Jリーグ4年目の齋藤未月(湘南)や3年目の田川亨介(FC東京)らプロ経験で上回る選手たちに肩を並べるほどの技術や戦術理解力、インテンシティの高さやタフな精神力を見せている。その能力を生かして、西川はどこまで高みに上り詰めるのか。2024年パリ五輪世代のエースと称される若きアタッカーのさらなる飛躍が楽しみだ。

元川悦子(もとかわ・えつこ)
サッカージャーナリスト
94年からサッカー取材に携わり、ワールドカップは通算5回取材。Jリーグ、日本代表、年代別代表などを精力的に取材。選手だけでなく、指導者など個人の深いところまで潜る執筆活動も行っている。主な著書は『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)など。

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