考える力
2019年7月16日
高校サッカー界の名将・青森山田の黒田剛監督が明かす、指導者の言葉より効果的な「責任の持たせ方」
高体連屈指の名門として、40人を超えるJリーガーを輩出する青森山田高校。近年は過去3年で選手権2度、高円宮杯U-18リーグチャンピオンシップでも優勝を誇る、青森山田高校の黒田剛監督のインタビュー第三回目。
全4回でお送りするインタビューですが、第一回目はサカイクが提唱している、サッカーを通して身につけることができる「考える力」「チャレンジする力」「感謝する力」「コミュニケーション力」「リーダーシップ力」など人生で必要な5つのライフスキルについてなどもお伺いし、前回(第二回目)は、OBの柴崎岳選手などプロになる選手の保護者に共通することをお聞きしました。
第三回目となる今回は、選手へのアプローチ、PK戦の臨み方など、興味深いエピソードが次々に飛び出しますので、ぜひご覧ください。選手にとって「監督に言われるより堪える」こととは......?
(取材・文:鈴木智之)
<<前回:日本代表・柴崎岳、室屋成らを育てた黒田監督が語るプロで活躍する選手の親の共通点
■失敗はマイナスの経験ではない
――前回のインタビューでは、柴崎岳選手は自己発見能力と自己改善能力が高いとおっしゃっていましたが、その部分を伸ばすためには、どうすればいいのでしょうか?
これは子どもだけでなくて、大人もそうだと思うのですが、チームとして同じ空間の中で同じタイミングで話をしても、受け取り方、感じ方はそれぞれだと思います。その中で、上を目指す人は、自分で課題を見つけて解決する、いわゆる問題解決能力に優れている。いかなる場面やタイミングでも向上しようとする気持ちが強い。チームの監督や会社組織のトップでいうと、そもそも「ここに問題があるな」と感じなければ、何も動かすことはできない。自分で発見する力を身につけるためには、意義ある失敗を経験すること。そこで「もう二度とこんな失敗はしたくない」と感じることが大切なのです。感性を高めるということは、心を磨くことなのです。そんな数々の修羅場を乗り越えた経験の積み重ねが「器を広げる」ということに繋がってくるのだと思います。
――失敗というとネガティブに捉えられがちですが、その経験を活かすことができれば、マイナスにはならないんですね。
もちろんそう思います。人間は「感動」よりも、「悲劇」の感情の方が記憶に残り、心が動かされやすいそうです。つまり、悲しい感情や恐怖心が伴うと、深く心に刻まれるようです。選手たちを集めてミーティングするときは、試合に勝った時でも最悪の状況をあえてイメージさせ、危機感として気を引き締めさせて終わるようにしています。勝ったからいいやと、気持ち的に満足感を与えてしまうと、次に気持ちを上げるのがとても困難になりますから。終了後に悲劇感をイメージさせることで「実は負けていても不思議ではない、危機的要因もあった試合だったんだ」という反省思考に気持ちを向ける必要があります。それは次なるモチベーションへの切り替えの意味もあります。誰もが悲劇は回避したいですよね。そういう場面の繰り返しから、いつしかリスクマネジメント能力の成長に繋がっていくのです。そのような経験を実戦から積ませないと、ちょっとした苦難や困難、我慢に対して「ストレス」という言葉を使って、意識的に不安要素を遠ざけようとします。結果、その判断や行動が、成長から逸脱しているということを認識しなければならないと思います。
――サッカーで言うと、89分間良いプレーをしていても、最後の1分で点を取られて負けてしまうこともあります。それも悲劇ですね。
みんなで89分間頑張ってプレーしてきたのに、最後のワンプレーでたった一人の選手が安易なプレーを選択し、チームとしてやるべきことをサボってしまい敗退した。これは悲劇ですが、私は監督になって何度も経験してきました。その痛みを知っているからこそ、選手たちには伝えたいんです。そのワンプレーの代償は、チーム全員の人生を変えるほどの悲劇だということを。
■監督に言われるより堪える、仲間からの指摘
――高体連の強豪校からは、そのあたりの厳しさを感じます。
そこに対して「ナイスチャレンジ!」「ナイストライ!」のような流し方は絶対にしません。安易なミスをしても「切り替えよう!」みたいに簡単には流すことはできない。重要なのは「有効なチャレンジ」であったか、そのチャレンジは自分勝手で「ギャンブル的」になっていないか、ということなのです。チームコンセプトのなかで、予めトレーニングしてやってきたのに、そこに従事しないのは、チームメイトをリスペクトせず、仲間の頑張りを裏切る行為です。そこを見逃して「ナイスチャレンジ」「切り替えよう」で終結させるのは、私はコーチングとして「無責任」だと思います。
――その場合、選手にどのように指摘しますか?
ビジネス系のコーチングなどで、よく「怒るときは個別に、褒めるときはみんなの前で」って言いますよね。でも、それは違うと思うんです。そのミスはその選手がしたことかもしれないけど、同じようなことは他の選手にも起こりうるわけです。ミスしたことの重大さや、代償の大きさは全員に伝えなければいけないので、チーム全員の危機感として捉えさせるために、あえてみんなの前で大袈裟に表現することもあります。「この試合でお前が判断したプレーは、みんなで頑張ってきたことを裏切るプレーじゃないか?」と。「終了間際までパーフェクトにできていたのに、最後の部分でサボってしまい、ミスをしたのはどこに問題があるのか。チームのために自分の弱い心を呑み込むことができなかったのはなぜなのか?」と問いかけ、「心」と「行動」の比較を、客観的に根拠をもって示してあげることが大切だと思っています。他の選手も自分のこととして聞くことができますよね。一人のミスを全員で共有して、全体として危機感を持てるようにすることが「チームの成長」となるのです。
――みんなの前で言うことで、周りで聞いている選手は「今日はあいつが指摘されているけど、自分もやっていたかもな」と、自分に置き換えて聞くことができますね。
他の選手に「チームメイトが最後のワンプレーをサボった。どう思う?」と聞くと「みんなで一生懸命やってきたので、最後まで集中してプレーして欲しかった」など、一人ひとりに意見を言わせると、いろいろ出てきます。選手にとっては、監督から言われるよりも、チームメイトから言われる方が堪えるのです。なぜなら、「仲間に認められたい」「必要とされたい」から。一番反省するのは、公式の場で仲間に指摘されるときで、言い方にもよりますが個人的な私情が入ると、聞く側は「うるせーな」と右から左に流れてしまうこともありますが、ミーティングなど公の場で監督がセッティングして、みんなの意見を聞いたときに、発言する側の選手にも「今度は自分が同じように指摘されないよう、自分も責任をもって最後までプレーしないといけない」という危機的意識が生まれるのです。
――失敗やミスを次にどう活かしていくかというのが、成長していくためには大事なことなんですね
失敗にも、許される失敗と許されない失敗があります。チャレンジをして失敗したのか、チャレンジしなくて失敗したのか。そもそも、そのチャレンジは必要だったのか、必要ではなかったのかと分類されていきます。その中で、何を良しとするか。これは立場や年齢、経験によっても変わってくると思いますが、失敗しても全てチャレンジしたからOKという風潮はよくないと思っています。それが「ナイスチャレンジ」という無責任な言葉に成り代わっているような気がします。「ナイスチャレンジ」は、リスク回避が準備されていることが条件です。夫婦間に置き換えてみて、旦那様の財布には1万円しか入っていないのに、パチンコ屋に勝負しに行って全財産失ったときの奥様は、あなた「ナイスチャレンジ!」と言うでしょうか?おそらく「何考えているの?」「あんたバカじゃないの?」こんな言葉が想像できるでしょう。家族、親族みんなでこの自分勝手なプレーを共有しましょう。(笑)
■PK戦は「気合い」を入れて臨むものではない
――去年の高校サッカー選手権大会の準決勝で、尚志高校(福島県)に逆転されながら、最後の最後に追いついて、PK戦で勝ちましたよね。近年の戦いぶりを見ても、青森山田の勝利への執着心というか、土壇場での粘りは驚異的です。
それは、過去の試合でPK戦で負けたとか、アディショナルタイムで失点し敗れたことを、何回も経験しているからだと思います。そこで「点を取り切って勝つチームにならないといけない」という教訓があるわけです。大会前は、時間帯、点差などシチュエーションを想定してトレーニングすることもありますし、PK戦をイメージしてトレーニングすることもあります。
――尚志高校とのPK戦は、青森山田のPKの上手さが目立ちました。技術面だけでなく、PKに臨む心理面の準備も相当してきたんだろうなと感じました。
PK戦は「気合い」を入れて臨むものではないんです。PK戦の前に、選手たちには「いいか、PKはノリや勢いで蹴るものじゃない。必ず、自分の間合いで蹴ること。練習でやってきたことを、いかに冷静に実行できるか。自分の世界に入れるか。サッカーの試合とPK戦は別物だから」と言いました。
――選手達はゴールキーパーの飯田選手も含めて、 PK に臨む前のルーティンがありますよね。それは練習で作り上げたものなのですか?
もちろんです。2005年千葉インターハイで初優勝したとき、大会前の2ヶ月間は、 朝練習でPK しかやりませんでした。 PKは心理戦です。そこを理解して、選手たちにトレーニングさせること。2018年の優勝メンバーの中で、(当時)1年生の藤原優大が一番うまかったんです。ゴールキーパーの飯田も、自分の間合いでプレーしていました。これも過去にPKで負けた教訓から、年月をかけて生み出され受け継がれてきたものなんです。
PK戦も含め、練習でやってきたことを試合に出すこと、チームメイトからのプレーへの指摘の場を設けることで発言者にも責任感を持たせること、勝つために最後までチームメイトのため頑張り抜く選手を育成する土壌ができていることが青森山田の強さの秘訣であることが分かったのではないでしょうか。
最終回となる次回は、これまで約40名ものJリーガーを輩出してきた黒田監督に、「良い選手」の条件を伺いましたのでお楽しみに。
<<前回:日本代表・柴崎岳、室屋成らを育てた黒田監督が語るプロで活躍する選手の親の共通点
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