考える力

2021年1月14日

小1からメンバー決めも。全国優勝の強豪街クラブセンアーノ神戸が自分たちで戦術を考えるようになったきっかけ

2020年末に福島県のJヴィレッジで開催された『ジュニアサッカーワールドチャレンジ』。日本全国から32チームが集まり、多種多様なプレーを披露していました。

その中でサカイク編集部が気になったのが、兵庫県で活動するセンアーノ神戸です。彼らの特徴は「子どもたちが主体となってメンバーや戦術を決め、実行すること」。

センアーノ神戸では、どのような取り組みを通じて、子どもたちの自主性を育んでいるのでしょうか? 大木宏之監督に話をうかがいました。
(取材・文 鈴木智之)

 


小1から自分たちでメンバーを決め、高学年になると試合の戦術も選手たちが考え、相手分析まで行うそう

 

■「こう動け」指示するだけでは子どもたちがロボットになってしまう

ジュニアサッカーワールドチャレンジの決勝トーナメント初戦、対西宮SS戦。センアーノ神戸の大木監督は、ハーフタイムに子どもたちをベンチに座らせ「どんなプレーをすれば、もっとうまくプレーできると思う?」「どうすれば点を取れると思う?」と質問をしていました。

監督が答えを教えるのではなく、子どもたちに考えさせるアプローチが印象的でした。そのことを大木監督に伝えると「普段から、子ども達には自分の意見を出してほしいと思っていて、出来る限りはそうするようにしています」と教えてくれました。

「ピッチサイドから『こう動け』と指示をするのは簡単なんですけど、それをすると選手がロボットになってしまいます。終わったプレーに対して『今のはどうだった?』『もうちょっとこういうプレーがあったんじゃない?』というのは、できるだけ言うようにしています。それは、子どもたちに気づかせるための声かけです。何かを言うのは、終わったプレーに対してだけで、先のことを言ってしまうと、子どもたちはそれしかしないロボットになってしまいます。それは避けたいと思っています」

 

普段から自分たちで戦術を考えている

センアーノ神戸の選手たちは、小学1年生のときから、自分たちで試合に出るメンバーを決め、高学年になると戦術も考えるそうです。ジュニアサッカーワールドチャレンジの決勝トーナメントでも、その姿勢を貫いていました。

「ある程度のメンバーと戦い方は子どもたちに決めさせました。試合前日に子どもたちだけでミーティングをして、メンバーも戦い方も決まっていたので、『わかった。それで行こう』と。ただしハーフタイムには、僕が少し修正しました。子どもたちは、相手の裏のスペースにボールを入れることを決めていましたが、前半はそればかりになってしまい、結果的にスピードで負けて、相手ボールになることが多かったので」

 

基本的に選手たちに任せているが、うまくいっていない時はハーフタイムに大人が少し修正を提案することも 

 

チームの中心、キャプテンの丸尾康太選手は、戦い方についてこう話してくれました。

普段から、自分たちで戦術を考えています。前半は足の速い子を左サイドに置いて、裏のスペースにボールを蹴っていく戦術だったのですが、それがうまくいかなかったので、後半はボールをつないで、フォワードの選手が中盤に降りたりして、みんなでボールを動かすことにしました」

戦術変更が奏功し、後半は少しボールが動くようになりましたが、惜しくも1対2で敗戦。この試合でゴールを決めた國吉晴向選手は「他のチームの試合を見て分析して、自分たちがどんなプレーをするかを考えています」と、普段の取り組みを話してくれました。

 

■子どもたちに任せるようになったのは日本一になる前年から

センアーノ神戸は2016年に全日本U-12サッカー選手権大会で優勝し、日本一に輝いています。ちょうどその前年から、いまのような「子どもたちに任せて、考えさせる」というスタイルに方針を転換したそうです。

「子どもたちに決めさせるようになったのは、2015年の頃からです。私自身、長いこと育成年代の指導をしてきましたが、大会などの結果や卒業した子達のその後を追跡していく中で、子どもたちの成長にはこれが絶対に必要だと思い、いろんなことを変えていきました」

そうすると「たまたまなのか、必然なのかはわからないですけど、全国大会優勝という結果が出た」と言います。

「優勝した代の子達は、指導スタイルを変えることで、子どもら自身も考えるようになって、自分たちでやるようになりました。『きみたちに任せるよ』という責任感を与えて、オフザピッチの部分も含めて、ある程度任せていくと、子どもらも『自分たちに任せてもらっているんだ』という責任感が出るので、ちゃんとやらなければいけないという気持ちになるんです」

 

■子どもたちに任せる理由

とはいえ任せっきりではなく、ある程度、大人がガイドすることも忘れてはいません。それぞれの選手に役職を与え、チームに積極的に関わるような仕組みを作っています。

「あいさつ、荷物を整える、時間を管理する、戦術、分析など、それぞれに役割があります。それをキャプテンが統括する。社長みたいなものですね(笑)。小学1年生から、練習試合は子どもたちでメンバーを決めさせています。低学年の時は、特に勝ちたい気持ちが強いので、上手くない子を試合に出さない傾向にあるんです。そういうときは『同じ子がずっとゴールキーパーをしているけど、それでいいの?』と話をして、調整していきます」

大木監督が子どもたちに任せる理由。それは「自分の意見を持ち、サッカーに対する理解を深めてほしい」という想いからです。

「ジュニアを卒業して、中学、高校と進んで行く中で、どんな監督さんのもとでも、どんな戦術でも適応できる選手になってほしいと思っています。そのためには、自分で考える力が大切で、監督から言われたことだけをやっていても、その力はつかないですよね」

 

考える力をつけさせるために大人ができること

センアーノ神戸のOBは卒業後、Jリーグのアカデミーに進み、年代別代表に選ばれるなど、ステップアップしている選手が多数います。それもジュニア時代から、サッカーは当然のこと、サッカー以外の面でも、自分たちで考えて行動することを積み重ねているからかもしれません。大木監督は言います。

「自立させるため、考える力をつけさせるために大人ができるのは、見守ることです。彼らの考えを聞いてあげることが大切で、『転ばぬ先の杖をつかない』などはよく言われていますが、すごく大切なことだと思います。その上で、ちょっとした冒険はさせてあげたいです」

センアーノ神戸の子どもたちに話を聞くと「サッカーについて考えることを学んだ」「私生活のマナーについても考えるようになった」と教えてくれました。

サッカー人生の土台となるジュニア年代において、どのようなスタンスで取り組むのが良いのか。彼らの言葉から、必要なことが見えてきた気がします。

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