考える力
2023年7月10日
「自己肯定感」とは何か? サッカー上達にどう関係するのか「サッカーがもっと楽しくなる40のヒント」の福富信也さん×大豆戸FC末本亮太さん対談
昨今、ジュニアサッカーの現場において、選手たちは幼少期からスタメン争い、トレセン、選抜チームなど、多くの競争にさらされています。
その結果、自分と他の子を比べてしまい、落ち込んだり、自信が持てなくなったりと、自己肯定感が低くなってしまう子も少なくありません。
そこで今回は『サッカーがもっと楽しくなる40のヒント ~なぜカメはウサギに勝てたのか~』を出版した、チームビルディングでおなじみの福富信也さんと、「一人ひとりが主役、いつでもどこでも誰とでも」をコンセプトに、横浜市港北区で活動する大豆戸FC代表の末本亮太さんに「子どもの自己肯定感を高めるための接し方」について話をうかがいました。
サッカーの指導者、保護者だけでなく、お子さんに関わる全ての大人、必見の対談をお届けします。
(構成・文:鈴木智之)
■そもそも「自己肯定感」とは何なのか
福富:まず自己肯定感という言葉の解釈ですが、僕は「自分自身の存在を大切にできること」だと思っています。これが自己効力感や自己有能感という言葉になると、「できる」「できない」といった能力や自信の話になるように思います。
末本:なるほど。
福富:自己肯定感を高めるって簡単じゃないですが、私が新刊で書いたことを2つご紹介しますね。1つ目は、自分との約束を守ること。誰だって、約束を守らない人は嫌いですよね。「明日からはこれを毎日続けよう」という風に、自分と交わした約束があっても、それを平気で破っていると、だんだん自分のことが嫌いになって、自己肯定感は下がると思います。
2つ目は、他者と比べないこと。セレクションなどを通じてひとつの物差しでその子の能力を測ってしまうと、周囲との比較に苦しんで自分らしさを見失って、自己肯定感が下がりやすいです。1つ目の自分との約束を守ることについては本人次第なので、ここでは私たち大人が変えられる部分として、他者と比べないことについて話していきましょう。
末本:私は指導者として、たくさんの子どもと接していますが、その子の良いところを認めることを大切にしています。「他の子と比べて、君はこうだ」ではなく、「君のここがいいところだから、そこを伸ばしていこうね」とか、「ここを変えたらもっと良くなるんじゃないか」といったように、身近なところに、その子の良いところを認めてあげる大人がいると、自己肯定感も高まっていくのではないかと思います。
■できないことではなく、できていることにフォーカスすると活躍の場が生まれる
福富:自信がない子って極端に失敗を恐れていて、どうしてもできないことにフォーカスしてしまいがちなんですよね。そこで周りの指導者や大人が「これができない、あれができない」と言うのではなく、「これならできるじゃん、得意じゃん」って言うと、言われた子もニコっとしたり。周りの選手たちに「この子のすごいところは何?」と聞くと、「(技術的にうまくはなかったとしても)キックがすごい飛ぶよね」といった意見が出てきます。
末本:そうなんですよね。
福富:そこで、「キックが飛ぶって、ものすごい武器じゃん」「チームの中で、キックが飛ぶ選手がいると、プラスになるポジションはどこだろう?」と問いかけると、その子が活躍できる場が見つかるわけです。
末本:はい。
■強みにばかりフォーカスすると、不安要素が露呈することも
福富:一方で、その子は何かが足りないから自信がないわけで、強みにばかりフォーカスすると、不安要素が露呈してしまい、チームとして歯車かかみ合わないことが起きます。そこで「不安に思っていることはなんだろう?」と深掘りしていきます。
末本:すると、どうなりますか?
福富:例えば「足が遅いので、1対1の守備が怖い」といったことが出てくるので、「わかった。彼の不安を解消してあげられるのは、チームの中で誰だろう?」と問いかけると、周りから「足が速くて守備が得意な○○」と名前が出てきます。
末本:話を聞いていて、すごく考えが似ているなと思ったのですが、僕は「選手の顔が見えるサッカー」という言葉が好きなんですね。選手の個性を発揮できるサッカーという意味なのですが、「個性を発揮できるときっていつだろう?」という話をすると、お互いの良いところを言い合うようになるんですよね。
■「仲間には仲間の、自分には自分の良さがある」 自分で自分を認めよう
福富:サッカーはチームスポーツなので、パズルの凸と凹のように、「自分の長所で、あの子の弱みを補えるぞ」と理解できると、高度な依存関係ができます。優越感を得るために自分の長所を発揮するのではなく、「お前の強みを発揮するために、俺の強みを使ってくれよ」というように、お互いの凸と凹がハマっていくと、良いチームになっていくのかなと思います。
末本:おっしゃるとおりで、僕はいま中学生を担当していますが、11人制になるとポジションごとの役割が明確になります。全員ドリブルが上手である必要はないし、足が速い選手、攻撃が得意な選手、守備が得意な選手など、キャラクターはそれぞれです。
福富:そうなんですよ。
末本:選手個々の良いところを指導者が全員の前で認めてあげて、発信することで「あの選手にはこういう良いところがある」「自分には別の良さがある」と、仲間も感じることができ、自分で自分を認めてあげられるようになります。それが結果として、自己肯定感につながっていくのかなと思います。
福富:それがチームスポーツの良さですよね。
■自己肯定感を高めるには「自分は大切にされている」と感じられる環境を作ること
福富:末本さんは自己肯定感を高めるために、大事にしていることはありますか?
末本:選手同士で議論をさせることを大切にしています。そこで、まずはお互いの考えや違いを尊重し、認め合うことを大事にしています。議論に慣れていない子も多いので、「まずは相手の考えを聞こう。否定するのはやめよう」といった形で、コーチが介入することもあります。指導者の発言や考え方は、子どもたちに浸透していくので、どういうスタンスで接するかは、とても重要だと思います。
福富:おっしゃるとおりで、「自分で自分を大切にする」ことはもちろんのこと、「自分は周囲からも大切にされているんだ」と感じることのできる環境をつくること。その環境づくりは、指導者の役割ですよね。
末本:そうなんです。
■チームに必要とされて、居場所があると感じさせる
福富:「自分はチームに必要とされていて、自分の居場所はここにある」と感じることも、自己肯定感につながります。チームメイトに、自分の足りないところを補ってもらうばかりではいられないので、「この部分をもっと練習しなきゃ」と感じて取り組むことで、選手として成長していきます。そのサイクルができるといいですよね。
末本:指導者の環境づくり、雰囲気作りは、子どもたちの自己肯定感に大きな影響を与えますよね。
福富:そう思います。選手に対して「ここは安心してチャレンジできる環境なんだ」と感じてもらうことは、自己肯定感を育む上で重要なポイントですね。
末本:何よりも、その子のことを認めてあげること。まずは、それがベースになるんじゃないかと思います。今度、ぜひうちの選手に、福富さんから話をしていただきたいです。
福富:いいですね。ぜひやりましょう。その様子をサカイクさんでレポートしてもらいましょう(笑)
末本:そうですね。ぜひお願いします!