考える力

2024年5月15日

困難にぶつかってもポキッと折れない「しなやかな心」を育むのに、サッカーが適している理由

サッカーの技術・戦術面に加えて、オフ・ザ・ピッチの成長にもつながると評判サカイクキャンプ。2024年夏は関東と関西で開催されます。

そこで今回は、サカイクキャンプのメインコーチを務める菊池健太コーチと、チームビルデイングでおなじみ、福富信也さんに「挑戦・レジリエンス ~折れない、しなやかな心を育むのに、サッカーが良い理由」をテーマに話を伺いました。

子どもたちの指導に長く関わるお二人は、昨今のサッカー指導や保護者の関わりについて、どう感じているのでしょうか?

今回の記事では「しなやかな心を育むのに、サッカーが適している理由」について、お届けします。
(取材・構成 鈴木智之)

 


写真は過去のサカイクキャンプ

 

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■サッカーは競技特性上ミスがつきもの&自分でコントロールできない要素が多い

菊池:子どもたちにもよく話すのですが、サッカーはミスが多いスポーツです。競技の特性上、至る所でミスが発生します。だからこそ、チャレンジし続けることが大切で、一つ一つのミスやうまくいかなかったことに一喜一憂せず、やり続けることが大事なんだよと伝えています。

福富:サッカーにはミスがつきもので、自分でコントロールできないことも多いですよね。そもそも相手がプレーを妨害してくるスポーツなので、思い通りにいきません。仲間にも意思があるので、パスを出した場所に走ってくれるとは限りません。つまり、自分でコントロールできない、不確実要素が圧倒的に多いのです。

菊池:そうですね。だからこそ、うまくいかないことやできないことを周りの人がサポートしたり、皆が同じ目標に向かってプレーすることが大切なわけです。「この子には、こうしてあげよう」とか「あの子はこういうことが得意だから」など、他人のことを思いやる心が芽生えるのも、サッカーがしなやかな心を育むために、適している部分だと思います。

 

 

■プレー中はチャレンジを繰り返さなければならないので、一つのことで落ち込んでいられない

福富:自分自身に目を向けられるようになることが、しなやかさの一部分なのかもしれません。とはいえ、誰しも思い当たると思いますが、コントロールできないことに対して、あたかも自分はコントロールできるかのように、イライラしてしまうことがありますよね。

菊池:はい。

福富:コントロール可能なのは自分のことだけなのに「なぜあの選手はそこに走らないんだ」「なんで自分にパスを出してくれないんだ」とイライラしてしまう。それは、しなやかな心とはかけ離れています。

菊池:自分自身に目を向けることは、とても大切なことですよね。子どもたちには、3日間のサカイクキャンプで、どのように変わっていきたいかを考えてみようという話をしています。サッカーという競技自体がミスの多いスポーツなので、その点においては耐性がつきやすく、心のあり方に目を向けやすいのかなと思います。

福富:サッカーはチームスポーツなので、他人との関わりを通じて、自分自身が変わることができます。「あの選手はあそこに走るのが嫌なのかな」「じゃあ、こっちにパスしてみようかな」など、一つのことにこだわらず、違うアプローチを考えてみる。自分でコントロールできることだけに目を向けていくと、イライラせずに、しなやかな心を持つことができるのではないでしょうか。

菊池:サッカーはチャレンジを繰り返さなければならないので、一つのことで落ち込んではいられませんよね。気持ちを切り替えることも大事ですし、プレーが止まることなく続くので、一喜一憂せずにプレーすることが大切なのだと、子どもたちに話しています。

 

■相手ではなく自分に矢印を向けることで「何をすべきか」が明確になる

福富:大事なのは「自分でコントロールできるのは、自分の考え方や自分のプレーだけ」と、気づいているかどうかです。あまりうまくいっていない人は、コントロールできないこと、例えば風が強いとか、強い相手に勝てるわけがないとか、この先発メンバーでは無理だとか、外的環境に言及していることが多いと感じます。そこで私は「他にできることを探そう」「自分でできる、別の方法を探そう」というアドバイスをしています。

菊池:それは素敵ですね。相手どうこうではなく、自分に矢印を向けることで、何をすべきかが明確になります。その結果、子どもたちが無邪気にサッカーを楽しんだり、キャンプに参加して自信をつけて、生きるためのしなやかさにつながってくれたら嬉しいです。

 

■結果ではなくプロセスを評価することが大事

福富:サカイクキャンプの「ジャッジしすぎない」という方針も大事だと思います。シュートを決めた時だけ「ナイスシュート」と言うと、「決めないとナイスじゃないんだ」と思ってしまいます。それよりも「動き出しがよかったね」と言ってあげたほうがいいと思います。結果ではなく、プロセスを評価することが大切です。

菊池:チャレンジしたことに目を向けてあげたいと、常に思っています。チャレンジすること自体が、大切な過程だからです。うまくいかなくても、そのプロセスを認めてあげて、次はどうしたらシュートが入るかを一緒に考えるほうが、選手のモチベーションは上がりますよね。

 

■キャンプで劇的に変わるわけではない、子どもの「楽しみ方」が変わるタイミングを見守って

福富:私の息子がサカイクキャンプに参加しましたが、帰ってきて「何が身についた?」など、野暮なことは聞かないようにしていました(笑)。2泊3日のキャンプで結果を聞くのは、KPI(重要業績評価指標)の世界になってしまうと思うからです。3年後くらいに、理由はよくわからないけれど、この子は変わったな、もしかしたらサカイクキャンプも役に立ったのかな、くらいの感覚でいいのではないでしょうか。

菊池:おっしゃるとおりだと思います。子どもは大人が思っている以上に、敏感に感じ取ります。「ここはチャレンジしても大丈夫な場所なんだ」と感じてもらうことで、自然とチャレンジが増え、できることも増えていきます。保護者の方には、少し離れた位置から、子どもの可能性を信じて見守っていただけたらなと思います。

福富:すぐに身についたものは、すぐになくなってしまいます。たとえば会社で研修を受けてレポートを提出し、「研修を受けたのだから、明日から変わりなさい」と言われても、無理な話でしょう。高額な研修を受けたからといって、すぐに変われるわけではありません。親ができることは、愛情を持って、子どもを見守り続けること。それが、子どものやる気を高めることであり、しなやかな心を育むために、大切なことではないでしょうか。

菊池:最初は子ども同士でボールを蹴って遊ぶ楽しさから、相手との駆け引きができるようになったり、やりたかったことができるようになったりと、楽しみ方が変わるタイミングがあります。そのタイミングまで、保護者の方には我慢してほしいと思います。多くの子どもは、家で親に管理されているので、サカイクキャンプが、羽を伸ばせる場所であったら嬉しいです。

 


福富信也(ふくとみしんや)
信州大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。横浜F・マリノスコーチを経て、2011年に東京電機大学理工学部に教員として着任(サッカー部監督兼務)。日本サッカー協会公認指導者S級ライセンスで講師を務め、Jリーグのトップチームや年代別日本代表など、幅広い対象へのチームビルディング指導を行う。2024年からFC東京のアドバイザーに就任。
最新著書『サッカーがもっと楽しくなる40のヒント ~なぜカメはウサギに勝てたのか~

 


菊池健太(きくちけんた)
サカイクキャンプヘッドコーチ。約20年にわたり未就学児から小学生まで指導。私生活では4児の父。4人ともサッカーをしており、サッカー選手を育てる保護者でもある。

 

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