イベントレポート

2019年4月 9日

「子どもは、小さな大人ではない」ジュニア年代のトレーニングで意識することとは?

■二人の指導者が語る学びのキーワードは「夢中」

池上さんは、ミゲルさんが身振り手振りしながら「子どもとコーチの関係」について説明した直後に「耳が痛い言葉です」と返事をしました。そして、ミゲルさんに自由な遊びの重要性に関する考えを問いました。すると、彼は「世界的に学会で発表されていることですが...」と話し始めました。

「学びというのは脳と二つのことでつながっています。それはモチベーションと感情です。例えば、何かをやることでワクワクしたとします。それは学びにつながっているのです。人は何かにモチベーションを感じたら絶対にやります。一度、子どもたちに聞いてみてください。

きっとモチベーションが高まる理由が二つ存在するはずです。

フットサルやサッカーにおいては『ボールに触れる』ことです。練習中ボールに触れる確率が高いほど、子どもはモチベーションが高まります。モチベーションが高まると学びもアップします。僕の息子が5歳ぐらいだった時にこんな会話をしました。

『今日はどうだった?』
『パパ、今日はゴールが決められなかった』
『でも、楽しかった?』
『うん。でも、ゴールを決めたかった』

子どもにとってゴールはとても重要です。だから、僕のクリニックやスクールでは子どもたちを決してゴールなしで帰したりはしません。なぜならモチベーションを高めたいからです。僕はそれがモチベーションにつながると知っているからです。人は喜びや楽しみ、ワクワクをものすごく感じると自ら積極的に学ぶことができます。子どもの大きな学びにつなげるには、感情を動かすこと。感情こそが子どもの持っているものの中で最もピュアなものだと思っています。

練習で子どもが喜びを得ることができなかったら、きっと学ぶことはできないでしょう。今日トレーニングに来た子どもたちは、ものすごく笑いながらユーモア溢れる状態でピッチに入って来ました。でも、僕がクリニックを開く時には必ずしもそういう子どもたちばかりに出会えるわけではありません。だから、トレーニングの目的はできる限りボールのコンタクト率を上げてあげること、そしてワクワクさせたり喜ばせたりする練習メニューを考えておくことです。学びはモチベーションと感情でつながっています。スペインでは、そういう理論で練習しています」

このミゲルさんの考えを、池上さんは心理学上のフロー理論にリンクさせて解説してくれました。

「フローの状態というのは、楽しくて仕方がない状態のことだそうです。夢中でやっている時は、脳は目の前のことしか考えない状態だと言われています。だから、ミゲルさんが言ったことは理論的にも証明されていることなのです。だから、子どもたちが夢中になることは大事だということです。夢中になるのは、自分からやらないとそれは夢中ではありません。やれと言われてやっているわけではないということです」

トークイベントは1時間半ほど続き、参加者も時折大きくうなずきながら話に聞き入っていました。ミゲルさんと池上さんに共通するのは、子どもがいかに感情を解放してトレーニングに夢中になるかという点です。そのために単調なドリル・トレーニングではなく、勝ったり負けたり取ったり取られたりの「遊び」要素をどうトレーニングの中に組み込むのかが大切だと発信していました。そして、監督やコーチも常に学びを止めることなく、どんどん子どもが夢中になれるトレーニングを考え続けるべきだと説きました。



ミゲル・ロドリゴ
1970年生まれ。スペイン・ヴァレンシア出身。
1986年スペインのフットサルチームで選手デビューし、1992年よりスペイン・イタリア・ロシアなどのクラブチームの監督を歴任。
2009年~2015年までフットサル日本代表監督を務め、2012年FIFAフットサルワールドカップで日本代表史上初のベスト16に導く。
2016年 フットサルタイ代表監督
2017年現在 フットサルベトナム代表監督

<テレビ出演>
奇跡のレッスン~世界の最強コーチと子どもたち~「サッカー編」(2014年10月13日 NHK BS1)
王者の誇り ~"魔術師"ミゲル・ロドリゴ最後の言葉~(2016年3月28日 NHK BS1)
奇跡のレッスン ライブ「サッカー編 最強コーチ ミゲル・ロドリゴ 被災地へ」(2017年5月4日 NHK BS1)ほか

<DVD>
『奇跡のレッスン~世界の最強コーチと子どもたち~ サッカー編 ミゲル・ロドリゴ』(2016)

<著書>
『フットサル日本代表監督ミゲル・ロドリゴのフットサル戦術パーフェクトバイブル』(2011)
『世界一わかりやすい!フットサルの授業』(2012)
『日本人チームを躍動させる 決断力の磨き方』(2014)
『子どもがみるみる変わる ミゲル流 人生を切り開く「自信」のつけ方』(2016)


池上 正(いけがみ・ただし)
「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。
大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。
12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさい サッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。


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