平岡和徳氏に聞く「子どもたちの未来に触れる」スポーツ指導・学校部活動

2018年10月10日

パワハラ撲滅のために現場はどう変わるべき? 子どもたちの未来のために、これからの組織づくりに必要なこと

■アスリートファーストのための安心・安定・信頼

平岡先生が監督を務める大津高校サッカー部の練習風景

―― 部活動は日本のスポーツにおいて大きな役割を果たしてきたと思いますが、競技者のレベルが上がるにつれて、アスリートファーストの視点が薄れるのでしょうか?

平岡 部活動は「より良く生きる」という大きなテーマのもとで学習指導要領の領域に入るので、生涯スポーツにつながっていきます。一方で、競技志向が高まってトップクラスになるほど、選手にも指導者にも部活動とは違う「日本を代表する」という使命感が芽生えてくるのはやむを得ないことです。

しかしアスリートに関わる本質は、指導者が「子どもたちの未来に触れている」という深い自覚を持っているかどうかだと思います。その考えが中心になければ、子どもやアスリートに触れる権利はないと私は思いますね。

―― 選手の年齢は関係ないと。

平岡 はい。たとえば先日、体操の宮川紗江選手が記者会見を開きましたが、アスリートファーストの観点に立てば、10代の選手が勇気を出して記者会見まで開いて「解決してほしい」と訴えているわけですから、大人が早く解決して、本人がプレーできる環境、次の世界選手権に出場できる環境を作ってあげるべきだと思います。

そのためには、言った、言わないの「口論」ではなく、今後どう対応するかの「議論」にしていかなければなりません。口論はエゴの交換、議論は知識の交換です。そういったところの優先順位がないがしろにされているんです。

ですから、各競技団体でリーダーシップを持っている人が、こういう機会に指導者を集めて、臨時の会議を開いたり文書を出したりして、「私たちの競技ではこういう不祥事がないようにしましょう」と広く呼びかけて、組織的な対応を徹底しなければいけない。まずは未然防止、そして早期発見、早期対応という流れが理想的で、サッカー界も含め、他の競技においても対岸の火事で終わらせないことが大切だと思います。

―― 選手と指導者、あるいは各競技団体内での人同士の関係性も大切になりますね。

平岡 指導者が「子ども達の未来に触れている」と考えるなかでは、苦しい練習、厳しい練習を課すことも必要です。体罰、暴言が不要なことはいうまでもありません。それを選手本人が、大好きな競技の一部だと思えるかどうかです。自分が成長し、未来に向けて前に進むために「この指導は必要だ」と受け入れられるか、そこに信頼関係があるかどうかです。

かつてデッドマール・クラマーさんは、熱い情熱をかけて、強い口調で話をし、ときには選手にぶつかったりもしていた。それでも誰もが「ありがたい」と思えた理由は、そこに信頼関係があり、どんなに厳しく苦しい練習でも、「この人に関わることで自分が成長し、日本のサッカーが変わるんだ」という、安心と安定があったからでしょう。

逆に、笑顔やコミュニケーションが不足していたり、一方的な指導ばかりでは、信頼関係も、安心・安定も生まれません。それらが存在する空間ではハラスメントは起きにくいと思いますし、信頼している人からの言葉や情熱なら、子どもたち、選手たちにも受け入れられると思います。

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