イタリアのサッカー少年が蹴球3日でグングン伸びるワケ
2018年12月13日
第3回 イタリアの子どもたちは"蹴球3日"で遊んで育つ
■プロクラブの練習量も控えめ
フィレンツェから西へ車で1時間ほどのところに位置する人口4万人の田舎町、エンポリに、育成で名高いエンポリFCというプロクラブがあります。このクラブでは、練習前の子どもたちにSNSで質問に答えることを義務づけています。質問とは次の4つです。
1.睡眠時間は?
2.よく眠れた?
3.筋肉や関節に痛みや違和感は? あるなら、その部位は?
4.前回の練習の疲れは完全になくなった?
「よく眠れなかった」「ふくらはぎに張りがある」といった回答があれば、その文面はドクターやフィジオセラピスト(理学療法士)に転送され、子どもはグラウンドではなく医務室へ行くことになります。そして必要な処置を受け、回復のために何をすべきか指示されます。「練習を休みなさい」という判断が下されることも珍しくありません。
エンポリFCでU-17を担当するフィジオセラピスト(理学療法士)のフランチェスコ・マリーノは言います。
「子どもたちは多少の痛みがあっても、絶対に休もうとしません。でも、彼らが抱える違和感を見抜けないようでは、プロとは言えない。一度故障があるとわかれば、あとはどのように選手を説得して休ませるか、そこが大事になるわけです。子どもたちも休みの大切さは理解していますが、それでもボールを蹴りたくて仕方がないので素直には休んでくれません。『ちょっとだけ蹴って状態を確かめます』などと言って、グラウンドに出ていこうとするのが4、5人はいますからね」
エンポリU-17担当フィジオセラピスト(理学療法士)のフランチェスコ・マリーノ。
マリーノは育成年代の適切なトレーニングの時間と負荷、さらには休息の取り方について次のように考えています。
「13歳から15歳までは練習は週3日、一度の練習は90分、長くても100分がリミットです。16歳、17歳では週4日、練習時間はこちらも90分、長くても100分が限度です。これに週末の試合が加わることを考えれば、これ以上増やすべきではありません。また適切な食事と十分な睡眠時間の確保も重要です。エンポリでは、選手たちに1日8時間の睡眠を義務づけています」
日本で一般的に行われている、「朝練」や夜遅くまでの「居残り練習」について、マリーノは厳しい目を向けます。
「なぜ、そのような練習をしなければならないのでしょう。それでは睡眠時間が確保できず、疲労を回復することができません。成長ホルモンは睡眠中に最も多く分泌されるわけですから、疲れた身体と心を休ませる大切さは、今さら語る必要はありません。成長期の子どもの身体が壊れやすいという事実、サッカーの厳しさは試合の中で自然と身につけられるということを、もっと大切にすべきかもしれないですね」
このように、イタリアの育成年代では、とりわけ休みが重要視されます。みなさんはどのように感じましたか?
次回は、のびのびとサッカーを楽しむ子どもたち以上に我が子のサッカーを楽しんでいる(かもしれない)イタリアの親たちの姿をお伝えします。
※本連載は書籍『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』から抜粋して加筆しています。人物の年齢等は書籍出版時点のものです。
<著者プロフィール>
宮崎隆司(みやざき・たかし)
イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア代表、セリエAから育成年代まで現地で取材を続ける記者兼スカウト。元イタリア代表のロベルト・バッジョに惚れ込み、1998年単身イタリアに移住。育成分野での精力的なフィールドワークを展開。圧倒的な人脈を駆使し、現地の最新情報を日本に発信。主な著書に『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』(内外出版社、2018)ほか。サッカー少年を息子に持つ父親でもある。