教えて西部さん! 初心者の素朴な疑問に答えたサッカー観戦Q&A

2018年7月17日

「コンパクトに」と言いながら、「ワイドに」と解説者が言っていて混乱する。結局どっちなの!?

息子・娘がサッカーをやっているけど、サッカーのことがよくわからないお父さん・お母さん。

専門書は難しいし、試合を見ているだけでは中々理解が進まない。子どもが好きなサッカーを一緒に楽しみたいんだけど......というあなたにおススメ!

「あんなにゴールが大きいのにシュートが入らないのはなぜ?」
「4-4-2、4-3-3て何の数字?」
「裏ってどこのこと? 表はあるの?」

といった、いかにも素人なザックリとした質問や、予想のななめ上をいく珍問・奇問に、戦術解説の第一人者、西部謙司さんがサッカーの本質を噛み砕いて説明します。

サッカーのどこをどう見れば楽しいか、これを見れば手っ取り早くわかります。

代表の試合やスーパースターのニュースは見るけど、わかりやすいプレーの場面しか理解できない人、サッカー好きと、そうでもない人をつなぐコミュニケーションのヒントに!! ぜひお子さんとも一緒にお楽しみください。


それでは今回の質問と回答をどうぞ。


Q.ゴールから遠ざかるのにサイドから攻めたり、後ろにパスを下げたりするのはなぜ?

A.得点するため、あるいはボールを失わないためです。


【西部さんの解説】

70年代に最初の黄金時代を迎えたバイエルン・ミュンヘンのキャプテン、フランツ・ベッケンバウアーは、「なぜ中央からばかり攻撃するのか?」という質問に対して、「ゴールは中央にあるからだ」と答えています。

ベッケンバウアーに質問した記者は、「なぜ、サイド攻撃をしないのか?」と聞いたわけです。ドイツはいまでもそうですが、「攻撃はサイドから」という考え方がけっこう根強いみたいですね。で、ベッケンバウアーは「中央から攻めれば最短距離でしょ?」と反論している。ベッケンバウアーの答えは、この質問(なぜゴールから遠ざかるパスをするのか?)に近い。

確かにゴールは中央にあります。しかし、そこへ到達するのに距離的に最短であることがベストとはかぎらない。「急がば回れ」です。

一番近い道は、守備側も重点的に守っています。そこへ突っ込んでいっても防がれてしまう。そこで、いったんサイドへパスを出して、相手の守備を分散させる。ゴールのある中央からDFを引っぱり出すという狙いがサイド攻撃にはあります。

シュートという別の観点からみてもサイド攻撃は有効です。

最も簡単なシュートは、ゴールから転がってくるボールを正面からシュートすることです。ボールとゴールの両方を視野に収められるからです。次は、ゴールへ向かっていくボールをシュートする。三番目が、サイドからのパスをゴール正面でシュートする状況です。

しかし、チャンスメークの難易度では3つのケースが反対になります。ゴールから自分に向かってボールが転がってくるというケースはほとんどありません。GKがファンブル、相手のクリアミスぐらいでしょうか。

ゴールへ向かっていくボールを追いかけてのシュートはかなりあります。ディフェンスラインの裏でパスを受けたり、ドリブル突破からのシュートがそうですね。これよりもチャンスメークが簡単なのがサイド攻撃です。サイドは中央に比べれば守備は手薄ですから、1人抜けばだいたいクロスボールを入れられます。そして、クロスボールをシュートする選手はゴールから至近距離になることが多く、シュートもほとんどダイレクトなのでGKにとって予測しにくい。

また、DFは横からのボールに対して、マークしている選手とボールを同時に見ることがほぼできません。いわゆる「ボールウォッチャー」になりやすく、マークが外れやすい。技術自体は横からのボールのコースを変えてシュートする難しさはありますが、チャンスメークはしやすいわけです。

中央突破とサイド攻撃のどちらが正解かは、いちがいには言えません。どんな選手がいるかによっても違います。ただ、サイド攻撃は中央に比べて攻めやすいということは言えるでしょう。

(C)高田桂

ベッケウバウアーがプレーしていたころのバイエルンが中央攻撃に固執していたのは、FWにゲルト・ミュラーがいたからです。複数のDFに厳しくマークされていても、足下にパスを入れればシュートまで持っていける特殊な能力を持ったFWです。また、優秀なウイングプレーヤーがいないという事情もあったでしょう。なので、ベッケンバウアーの「ゴールは中央にあるから」は「ミュラーが中央にいるから」という意味だったのだと思います。

バックパスに関しては、それが直接ゴールに結びつくことはあまりないのですが、ボールを確保するという意味があります。ボールがなければシュートもできないわけで、前方にパスしてもボールを失う可能性が高いときには、いったん後ろへパスしてもボールを失わないほうがベターです。ボールを持っているかぎりは得点のチャンスはありますが、ボールがなければ何もできませんから。

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