教えて西部さん! 初心者の素朴な疑問に答えたサッカー観戦Q&A

2018年7月30日

世界との差はフィジカル!? そもそも日本人はサッカーに向いてないの?

それでは次の質問と回答をどうぞ。


Q.日本人はサッカーに向いてないんでしょうか?

A.とくに不向きではないと思います。


【西部さんの解説】

日本人がサッカーに不向きと思われる理由の1つに、いわゆる身体能力があります。身長が低い、筋肉がついていないなどですが、これらはあまり関係がないと思います。

例えば、ナイジェリアの選手は背も高いですし、筋骨隆々の選手も多く、技術レベルも高いですが、ワールドカップで優勝したことは1回もありません。身体能力の高さがあれば確かに有利ですが、それが決定的ではないということだと思います。陸上競技のトラック種目で黒人選手が圧倒的に強いのは、彼らの走るのに向いた身体能力によるものでしょう。しかし、サッカーの場合は走る能力だけがすべてではないということです。

ボールコントロールに関しては、日本人はそんなに下手ではありません。日本人だから習得できない技術というのはないので、これはハンデにはなりえない。

そうなると、不向きな理由としてあげられそうなのは戦術的な能力ということになります。判断力ですね。

局面での判断力と全体の判断力があると思います。シュートすべきところで躊躇する、パスすべき選手を間違える、ボールを奪いにいってかわされてピンチを招く、逆に寄せなければいけないところで寄せきらない......これらは局面での判断力です。全体の判断力とは試合を読む能力で、点差や時間帯、敵味方の状況に合わせた判断ができるかどうか。例えば、1―0で勝っている試合での残り5分と、負けている場合の残り5分では、優先すべきプレーが違ってきます。

日本は局面、全体の両方で判断力が弱いところはあると思います。ただ、それも日本人だからできないというものではない。どちらも適切な指導を受け、それなりの試合経験を積めば必ず改善できる類のものでしょう。

ですから、日本人だから不向きだというものはほぼないと思います。あるとすれば、日本という国の社会環境からの影響でしょうね。日本の社会、文化の中で育ったことで培われたものが、サッカーという競技に向かないという部分です。

育成環境は社会環境の縮図です。高校総体は夏に行われていて、しかも昼に試合をしています。日本の夏、真っ昼間にサッカーをやることがいかに過酷かは容易に想像がつきますよね。では、なぜそんなことをしているのでしょうか。

精神力をつけるため? いえ、あれは学校の都合でああなっているだけです。夏休みの短い期間に試合を詰め込まなければならない。学校の都合がスポーツの都合より優先されているだけです。

同じように、ヨーロッパでは育成チームが1歳か2歳刻みでありますが、日本は中学、高校の括りで3歳刻みです。これも学校の都合です。サッカーの都合で考えると不合理なんです。当たり前だと思っていることが、サッカーの世界ではそうでもなかったりする。学校スポーツというシステム自体、サッカー界ではかなり特殊な環境にあるわけで。育成環境や指導も含めて、世界的にみればかなり非常識なことになっているのですが、あまりそれに気がつかない。ここがポイントだと思います。

もちろん気づいている人もたくさんいます。しかし、サッカー的に非合理であっても、それが成り立ってきた社会環境があるわけで、改善するのは簡単ではない。なので、非合理的であると自覚することがまず大事かと。そのうえで調整していくしか当面はやりようがないでしょう。

育成のほかにも社会的、文化的にサッカーに向いていない要素はたくさんあります。逆に、向いているところもあります。そのへんは他国も同じでしょう。1つ言えるのは、サッカーで社会は変えられないということです。仮に、貧しい環境がハングリー精神に溢れたゴールゲッターを生み出すとしても、じゃあ日本はもっと貧しくなるべきだと主張する人はいません。その社会にいる利点、欠点を自覚すればいいだけです。もし、そこで不向きである決定的な原因が見つかったとしても(たぶん見つからないでしょうが)、いまさらどうにもならないので気にする必要はありません。

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