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2023年11月 9日
単調なサッカーの自主練をもっと効果的にする方法とは?【エコロジカル・アプローチ:個人トレーニング編】
「エコロジカル・アプローチ」をご存知でしょうか? これは欧米諸国で注目されている運動学習理論のことで、日本ではポルト大学でスポーツ指導を学んだ植田文也さんが紹介し、サッカーコーチの間で話題になっています。
エコロジカル・アプローチを簡単に説明すると「人間は周囲の環境に適応するシステムである」という観点から、様々な制約(グリッドサイズ、ボール、用具、人数、ルールなど)を巧みに操作することで、人間の適応行動としての運動学習を引き出すことや、新たなスキルが突如として現れる「相転移現象」を目的として行うトレーニング理論のことです。
サカイクでは「テクダマ」という不規則に跳ねるボールを開発・販売していますが、植田さんによると「エコロジカル・アプローチが提唱する『制約主導アプローチ』の観点からすると、技術の習得にとても効果的」であり、実際に指導しているチームやプロ選手への指導に導入しているとのことです。
そこで今回は「エコロジカル・アプローチから見た、テクダマを個人練習に取り入れるときのポイント」を、植田さんにうかがいました。ぜひ参考にしてみてください!(取材・文 鈴木智之)
■単調な反復ではなくバリアビリティの高い状態を
テクダマを購入し、個人練習に活用している選手は増えています。お子さんのユーザーも多く、「技術の向上だけでなく、知覚や判断にも良い影響が生まれた」という保護者の意見もあります。
植田さんはテクダマを使った自主練に関して、「特別な練習メニューなどは意識せず、普段やっている練習をテクダマに置き換えると良いと思います」とアドバイスを送ります。
「テクダマはランダムに暴れてくれるので、リフティングやボールマスタリーの練習にバリエーションが出ます。右足の裏でボールを引いて、左足のアウトサイドで出すという動作をするとして、ボールが不規則に動くので、それに合わせてボールタッチを微調整して......と、とっさに反応していくことで上達につながります」
エコロジカル・アプローチにおける制約主導アプローチでは、トレーニング時に「いかにバリアビリティ(バラツキ、変動性)の高い状態を作るか」を重視しています。
「テクダマを使うことで、自然とバリアビリティが生じるので、コーンを置いてドリブルをするにしても、選手側は細かな調整が必要になります。単純にジグザグドリブルをするにしても、動作にバリエーションが出ることで、環境の変化に柔軟に対応した結果、運動目的を果たすことができるようになるという考え方です」
■上級者もテクダマのようなボールが効果的
コーンドリブルのように、相手がいないトレーニングはゲームリアリティが下がります。その代わり、動作のバリアビリティを普段以上に上げることでトレーニングに意味を持たせます。そして、そのバリアビリティを上げるためにはテクダマが有効だということです。
「コーンドリブルのようなトレーニングを『タスク分解』と言うのですが、分解してできることを繰り返しても、上達の観点からするとあまり意味がありません。であるならば、テクダマを使うことで、普段以上のバリアビリティが出るようなトレーニングをするのがいいのかなと思います」
テクダマは初級者にはもちろんのこと、上級者の上達にも役立つそうです。植田さんはJリーガーのトレーニングサポートも行っているそうですが、「すでに高い技術を持っている人の場合、テクダマの空気をパンパンにして、より跳ねる状態でやっています」と話します。
「上級者は、フットサルコートのように整備されている場所だと、簡単にコントロールできてしまうので、デコボコしている地面でも使用しています。上級者こそ、テクダマのように不規則な動きをするボールを使って練習すべきだと思います」
■正しい運動はそれぞれの選手によって異なる
ジュニアの場合、子どもと保護者が一緒になって練習をすることもあります。その際に気をつけるべきことを尋ねると、「正しい運動があると思わないことですね」と語りかけます。
「これは学習者依存、かつコンテキスト依存というのですが、正しい運動はそれぞれの選手によって異なります。同じ個人でも、状況が変われば、その場面に適したコントロール、キックは違うとお伝えすると、イメージしやすいかと思います」
とくにサッカーのような、同じ状況が起きづらいスポーツにおいて「正しい運動」は、その時々によって違います。
「野球のメジャーリーグを見ると、色々な投げ方をするピッチャーがいますよね。それぞれが、その選手に合った投げ方をして、球も走るし、コントロールもいい。ケガもしないフォームなので、その人にとっては、それが適した投げ方なわけです」
サッカーも同じで、蹴り方やボールコントロールの仕方など、その人に合ったやり方で、目的を達成できるのであれば、どのようなやり方でも良いと言えます。
■"不規則さ"が個人に合った技術の習得につながる
「テクダマを使って個人練習をするときに、普通のリフティングやボールコントロールが難なくできるようになったら、腕を組んでリフティングしてみたり、片手を体の側面につけたまま動かさないでリフティングするなど、体に制約をつけて、乱れやすい状態を作り、その状況でもイメージ通りにコントロールできるかトライしてみるのもいいと思います」
リフティングの場合は「インステップで20回」ではなく、「インステップ、アウトサイド、頭、肩など、複数のスキルをランダムにするようなトレーニングの方がいい」と言います。
「普通のボールを使えば、できる人は多いはず。そこでテクダマを使うことにより、勝手にボールの動きが乱れてくれるので、自主練との相性もいいと思います。また、テクダマと普通のボールを交互に使うというのも良いでしょう。普通のボールになると格段に扱いやすくなるため、選手も効果を実感しやすくなりモチベーションにもつながります」
個の技術を高めるために、多くの影響をもたらすテクダマ。興味のある人は、ぜひ使ってみてください。不規則なバウンドに対応することで、技術の習得、そして試合での技術発揮に貢献してくれるはずです!
<<植田文也さんによるエコロジカル・アプローチ解説記事>>
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植田 文也/
サッカーコーチ(FCガレオ玉島)、スキル習得アドバイザー(南葛SCアカデミー)、スポーツ科学博士。早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程、ポルト大学スポーツ科学部修士課程にてエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、非線形ペダゴジー、ディファレンシャル・ラーニングなどの運動学習理論を学ぶ。
初の著書『エコロジカル・アプローチ 「教える」と「学ぶ」の価値観が劇的に変わる新しい運動学習の理論と実践』(ソル・メディア)は、サッカーに限らず、様々な競技の指導者から大きな話題となっている。