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2023年12月12日

スーパーな選手はどうやって生まれるか?才能ある選手を埋もれさせない育成とエリート教育の課題【エコロジカル・アプローチ育成対談:最終回】

三木氏、植田氏が薦める
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大阪府で活動する「AC.gloria girls U15(グローリアガールズ)」の監督を務める三木利章さんは、リフティングやコーンドリブルを指導に取り入れることで個の力を高め、平日練習2回、フットサルコートという環境にも関わらず、クラブ創設6年で3度、チームを全国大会に導いています。

また、多数のOGが1年時から全国上位の強豪校で試合に出場するなど、上のカテゴリーで通用する選手を輩出。ほかにも、永長鷹虎選手(川崎→水戸)を長きに渡って指導し、プロ入りを後押しするなど、育成のスペシャリストとして知られています。

三木さんは自身のトレーニングを「せざるを得ないトレーニング」と称し、様々な制約を設けることで狙いとする現象を導き出し、個の育成へと繋げています。

昨今、指導界で話題になっている「エコロジカル・アプローチ」は「制約を操作することで、突如として現れる相転移現象こそが、運動学習である」と述べていますが、日本にエコロジカル・アプローチを紹介し、著書を出版した植田文也さんは、その三木さんが監修し、サカイクで販売するトレーニングボール「テクダマ」の愛用者。

そこで今回、「育成のスペシャリスト」三木利章さんと、「エコロジカル・アプローチ」の植田さんによる対談が実現しました。対談の最終回は「創発的な選手(スーパーな選手)はどうやって生まれるか」をテーマにお届けします。(取材・構成 鈴木智之)

【1回目から読む】できない子に簡単なトレーニングは逆効果。運動経験が乏しい現代の子ども達に必要な育成>>

■様々な運動経験が新しい動きを創発する

三木:今回のテーマは「創発的な選手(スーパーな選手)はどうやって生まれるか」なのですが、植田さんはどう思いますか?

植田:僕が思うスーパーな選手は、様々な運動経験を持っていて、元々できたことに対して、新たな運動スキルが混ざることで、新しい動きが創発され、気がつけば大成しているようなイメージです。その観点からも、エコロジカル・アプローチはマルチスポーツを推奨しています。

三木:僕のチームは平日週2回、1回約100分の練習で、そのうちの30分近くをリフティングやコーンドリブルに割いていますが、それも様々な運動経験を積んでほしいからなんです。育成はバトンを繋ぐことだと思っているので、高校に行ったときに、そのチームや監督さんの求めるサッカーに適応できるように、自由自在に動かすことのできる体、ケガをしない体を創るために、リフティングやコーンドリブルをしています。

植田:それもある意味、マルチスポーツというか、リフティングやコーンドリブルを通じて、運動経験を積ませているわけですよね。

■選手にあった環境を与える・選ぶことが重要

三木:はい。ただ、「こういう練習をしたら化ける」「スーパーな選手になれる」というのはないと思っています。その選手が元から持っている能力は大きく影響してくるわけで。それを僕たち指導者は見抜くことが大切で「この子は何者や」「どんな選手なんや」と見抜く理解することが一番大事なのではないかと思っています。

植田:そう思います。

三木:僕のチームはセレクションを行っていません。また街クラブは、WEクラブのアカデミーと違って、毎年すごい選手や身体能力の高い選手が入ってくるわけではありません。だからこそ、来てくれた選手を上手くすること、育てることが大事なわけです。僕がいまカメレオンを飼っても、何の餌を与えたらいいかわからないし、室温をどのぐらいにすればいいかもわからないので、最悪死んでしまうかもしれません。

植田:はい。

三木:それと同じことで、まずはその子がどんな選手なのかを知ること。また、その長所を生かせる、課題が克服できる環境を作る・与えることが大切だと思います。そういう考え方の元に進路先のチームや高校を選ぶことも重要だと思います。

■いま試合に出ていない選手がプロになるかもしれない

植田:環境による制約は、エコロジカル・アプローチの視点からもすごく大切なことだと思います。小学生のとある全国大会で、遠方まで試合に行っているのに、1分も出場せずに帰ってくる子が25%ほどいるそうです。繰り返しお伝えしてきた「遠い転移」の話ではないですが、この25%の中に、将来プロになる選手がいるかもしれないわけで。

三木:鷹虎が小学生のとき、JFAにチーム登録していないので、全国大会とは無縁でした。そういうケースもたくさんあると思います。

植田:大会によっては、ルールで「全員を試合に出さなければいけない」と規定されているものもありますし、交代が自由で子どもたちが何度もチャレンジできる環境が用意された大会もあります。才能のある選手はたくさんいると思うので、そういう子を途中で辞めさせないことが、スーパーな選手を輩出するためのひとつの方法かなと思います。

三木:うちのクラブに、高校の先生から高い評価を受けている子がいるのですが、「一度もトレセンに選ばれたことないんです」というケースもよくあります。小学生の時に評価が低くても、中学、高校で逆転できることもあるので、諦めないで努力することが大事なのかなと思います。

■年齢が低いうちから、オーバーコーチングの環境を作らない

植田:三木さんは才能のある選手に出会ったときに、どんなことを心がけて指導していますか?

三木:あまり触らんとこうと思います。カメレオンの話と同じで、まずはその選手がどういう子かを見抜くこと。特性を見抜きつつ、中学生までは色々なポジションをさせたほうがいいと思います。能力の高い子ほど、あまり教えません。その上で個別にアプローチします。だから、Aさんがやればナイスプレーと褒めることでも、Bさんがやると褒めずに更に要求することもあります。同じことをして、同じ答えを出しているのに。それは、その子に求める内容、レベルが違うからです。

植田:年齢が低いうちから、オーバーコーチングの環境を作らないことは、ひとつのポイントだと思います。ブラジルの場合、ストリートでサッカーをしていた子たちが、親元を離れて活動できる14歳頃からクラブにスカウトされて、本格的にサッカー選手を目指すそうです。

三木:日本の場合、エリート教育に課題があるような気がします。たとえば、Jクラブのアカデミーはユースからにして、ジュニア、ジュニアユースは街クラブや学校の部活しかないとなれば、もっと多様な選手が生まれてくるのではないでしょうか。そしてユース年代から、プロになれそうな選手はユースに入り、ブラジルのようにプロ予備軍のような活動をするのもありだと思います。

植田:それも、ひとつの方法かもしれませんね。今回はいろいろなテーマでお話しさせていただき、ありがとうございました。

三木:こちらこそ、植田さんとお話しできてよかったです。テクダマ、これからもぜひ活用してください。

三木氏、植田氏が薦める
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<<エコロジカル・アプローチ育成対談>>
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<<植田文也さんによるエコロジカル・アプローチ解説記事>>
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三木 利章/
プロサッカーコーチ。AC.gloria girls U15(大阪)で監督をつとめ、創部6年で3度の全国出場に導く。スクール主催や全国の強豪チーム、高校などでも外部コーチとして精力的に活動。 「動きづくり」をテーマに育成年代で一番大切な『個』の技術・戦術の向上を目指し、実践で生かせる個人スキルを身につける指導を行っている。


植田 文也/
サッカーコーチ(FCガレオ玉島)、スキル習得アドバイザー(南葛SCアカデミー)、スポーツ科学博士。早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程、ポルト大学スポーツ科学部修士課程にてエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、非線形ペダゴジー、ディファレンシャル・ラーニングなどの運動学習理論を学ぶ。
初の著書

エコロジカル・アプローチ 「教える」と「学ぶ」の価値観が劇的に変わる新しい運動学習の理論と実践』(ソル・メディア)は、サッカーに限らず、様々な競技の指導者から大きな話題となっている。

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