蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2017年5月24日
厳しい父親と膝痛に苦しむ息子をどうすればいいの問題
■わが子のために、今やるべきこと
<第1段階>膝や踵の痛みの治療の見直し
ご相談の文章では、膝や踵の痛みについての診断や治療について、ご両親があまり追求していない印象を抱きます。小学生高学年と言えば、成長痛やオーバートレーニングで膝や踵の骨や筋肉もしくはその周辺の組織にダメージを受けやすく、故障につながります。
「強豪チームで父親の期待が大きい」ということなので、5年生までかなりハードにサッカーをしていたのではないでしょうか。
もっと上の年齢やプロになれば「ケガと付き合いながらサッカーをする」はよく聞く言葉です。が、成長期の小中学生は違います。すでに病院で説明は受けているかと思いますが、ジュニア期の疲労骨折はあまり痛みもなく進行するし、一時的に痛みが消えることもよくあることです。なめてかかると重症化します。
まずはサッカーを休んで、治療に専念することが重要ではないでしょうか。休んでいる間にサッカーのビデオを見たり、本を読んだり、勉強したりとこれまでサッカーに追われてできなかったことをやってみてはいかがでしょうか。どのくらい休めばいいのか、信頼できる医師ときちんと話し合ってみてください。
<第2段階>夫との関係性の見直し
ご相談にこうあります。
「子どもは、やめると何度も言いますが、主人が厳しいためすんなりやめられず……」
日本の家庭文化は、まだまだ男性優位主義が強いようです。お母さんご自身、お父さんに意見するのはなかなか難しい状況なのかもしれません。
脅かすわけではありませんが、似た家族で、息子さんが中学生で自死したケースがあります。父親が常に強権をもって、母親がハラハラしつつもそれを止められないままでした。父は少年野球のコーチ、息子は選手。そのいびつな関係性が続いた結果、父親に激しく叱られた後、息子さんは亡くなりました。
あとあと後悔しないよう、今こそ夫との関係性を見直し、これから少しでも対等に話し合って家庭を運営できるようにしていきませんか?
<第3段階>息子さんとの接し方の見直し
息子さんのために一番良い選択は何なのか。そこをぜひ考えてみてください。
助言できるとすれば、まず第一に息子さんの気持ちを尋ねることです。 「膝と踵の痛みが無くなるまでしっかり休んで、休んだあとにまたサッカーやりたいなと思ったら続けたらどうかな?」と。
クラブは活動休止届などを出せばよいでしょうし、休むことをよしとしないクラブであれば、一度退団してはいかがでしょうか。もしくは、息子さんが「いや、もうやめるよ」と言うかもしれません。そうであれば、「じゃあ、次に何か一生懸命になれるものが見つかればいいね」と言ってあげればよいと思います。
16年間少年サッカーを取材してきた私の所見ではありますが、サッカー少年の「両親」には子どもをつぶすリスクや伸ばすパターンがいくつかあります。
リスク大:両親ともに追い詰めるタイプ
リスク中:父親が追い詰め、狼狽する母親が手が打てないうちに、子どもの心が折れてしまう
リスク小:父親か母親のどちらかが熱血でも、片方が冷静で包容力、判断力、行動力があり、子育てを軌道修正できる
ノーリスク・ハイリターン:両親ともに子どもを尊重できるため、主体性のある子が育つ
ここはお母さんの踏ん張りどころです。
「この家に生まれて良かったなあ」息子さんがそう思えるようにするには、どうしたらいいか。どうか一度立ち止まって考えてみてください。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)
スポーツ・教育ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てる テニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。
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