蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2017年8月30日
大事な試合になると下級生優先で試合に出られない問題
■全員出場するメリットを考える
では、どの試合も同じように出場させるメリットは何でしょうか。
例えば、4年生に飛びぬけて上手な子どもがふたりほどいて、普段の練習から5年生の練習に参加している。もしくはご相談の方のチームのように5年生の人数が少ないため、4年生と合同で練習しているとしましょう。飛びぬけて上手な子は、5年生の試合にも同行します。ところが、コーチは前半と後半で選手を入れ替えて、4年生も含めたエントリー全員をほぼほぼ同じ時間だけ試合に出場させているとします。
このように全員出場させる指導の良い点は、全部で五つあると思います。
1.常に全員が試合に出場できるため、チーム内にサッカーに対する温度差がなくなる。
2.常に全員が試合に出場できることで全員が意欲満々でサッカーに取り組むうえに実戦経験を全員が積むため、チームの底上げができる。
3.チームの底上げができるため、全員が「自分は上達している」と実感できるため、サッカー以外のことにも意欲的に取り組み、子どもが成長できる。
4.サッカーをきっかけに成長する姿が保護者に満足感をもたらす。
5.レギュラーと補欠の線引きがないため、子どもにも保護者もカーストができず、協力し合える空気が生まれる。
ただ、このような意見を述べると「そんなものは甘い」と言われてしまうことは少なくありません。厳しく競争させることが成長を生むと信じておられる方がやはり多いです。もちろん、ライバルがいて競争することは大事です。が、冒頭でも伝えましたが、競争させることは全員試合に出場させても他の方法があります。
以上のようなことを参考にして、コーチの方に「5年生を全員出場させてください」とお願いしてみてはいかがでしょうか。
私の経験上ではありますが、もしかしたらコーチから「じゃあ、お母さんたちは、お子さんたちが試合に負けてもいいんですね?」と迫られるかもしれません。
「子どもたちだって勝ちたいんですよ」と。
そのときに、どう返しますか?
「5年生が一丸になって戦って負けたのなら仕方ありません」
「勝つことも大事ですが、5年生全員で試合をして勝つことを目指せばいいと思う。みんなで頑張って、みんなで笑顔で卒団したい」
そのような考えを持てるか、まずは5年生の保護者で話し合ってみてください。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)
スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てる テニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。
最新刊は、ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)。
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