蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2017年9月27日
子どもより自分がモヤモヤ...。 勝ち負けの楽しみがない少人数クラブに残るべきか迷う問題
■何に対して不満があるのか洗い出す
ひとつめは、お母さんが「チームに対して何が不満か」です。ご相談の文を読み返すと、“勝ち負け”にふれている箇所が三つもあります。
「試合は全学年バラバラで力もバラバラ、もちろん毎回負け」
「(他クラブと合同の)即席チームで声を掛け合うこともなく、もちろん勝つこともありません」
「高学年は、『勝って嬉しい』『負けたら悔しい』そういう感情もなく、ただ毎回負け試合にとりあえず行く」
ご自分ではそんなに意識はしていないけれど、息子さんのチームの「負ける姿」を見ているのが辛いのではありませんか?
もしも、息子さんのチームが人数は少ないけれど、なかに上手い子がいて10人しかいないのに結構強い。そこが面白いので、地元のタウン誌にも取り上げられました――。となったら、いかがでしょうか。
例えば、甲子園に10人しかいない部が出場してきたり、被災地の中学生のバスケット部が5人ギリギリで全国大会を目指したことがテレビのドキュメンタリーになったりしています。「人数が少ないけれど強い=頑張っているから」となり、大人の感動を誘うわけです。
では、もし前出の両チームが結果を残せていなければ、どうなったでしょうか?
「弱いし、もうやめたら?」と簡単に廃部にされたかもしれません。「人数が少ないうえに弱い=頑張っていない」ととられがちです。
ともに、野球やバスケットを大好きで彼ら彼女たちなりに頑張っている。取り組む気持ちは同じなのに、結果が伴わない子どもたちに対し大人はとても非情です。
そう考えると、もし移籍してもそのチームが試合に勝てなかったり、上級生があまり勝ち負けで感情を出さない様子であれば、お母さんの不満は解消されないかもしれません。
さらにいえば、親子の不満はもしかしたら合致していないかもしれません。お母さんは勝てないことに不満だけど、息子さんは今のところ「勝ちたいからほかのクラブに移りたい!」と訴えてはいないようです。
■自分が求めているのは何か、いま一度考える
二つ目は「子どものサッカーに何を求めるか」をもう一度考えてみませんか?
「仲間とプレーする楽しさや悔しさを知ってほしい」とありますが、今のチームでは本当にそれらは学べないことなのでしょうか。
もし、コーチの方とお話をするのであれば、焦点はそこかもしれません。お母さんは、サッカーをすることでそういったことを体験してほしいと願っている。コーチの方はそれに対してどう思うか。そんなことを話してみてはいかがでしょうか。
ただ「週6日、長期休暇も午前中みっちりと練習を見てくれる」コーチが、「プレーする楽しさとか、負けて悔しいと感じる経験なんて必要ない」などと考えているとは思えません。逆に、全学年10人のクラブで合宿したり、他の小人数クラブと連絡を取り合って合同チームで大会に出るなど、大切に扱っている気がするのですが……。
■体験ではなく「見学」してみる
三つめは「他のチームを見学してみる」ことを考えませんか。
「体験に行くにはチームを辞めてからというのが条件」なのであれば、近隣の他のチームの試合や練習を見学することは自由にできるはずです。
そこで、息子さんと話し合ってみることもできます。
「すぐ移籍したい!」となるかもしれないし、「よくわからない」となるかもしれません。
ただし、見学は急ぐ必要はないと思います。まずは、今のチームのコーチに考えていることを話してみてください。そのうえで、見学してみるかどうかも、息子さんの意思を確認してからにしましょう。
息子さんにとって、「プレーする楽しさとか、負けて悔しいと感じる経験を本当にしているかどうか」ということ以上に大事なのは、今一緒にサッカーをしている「仲間の存在」だと思います。
お母さんご自分のことも振り返ってみてください。通った学校、部活、習い事や塾。どこでも、いつでも、何よりも出会えた仲間の存在が一番大事ではありませんか?
まだ2年生です。早急に答えを出さず、ゆっくりと子どものサッカーに付き合ってあげてください。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)
スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てる テニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。
最新刊は、ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)。
Checking form condition...