蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2017年10月19日
試合に出られないのに自主練提案しても手応えなし...。競争心の無い息子にイラつく自己嫌悪ママの問題
■ピアノや水泳も「親が離れたほうが子は伸びる」
例えばサッカーをピアノや水泳などのように小学生が放課後にいくアクティビティのひとつととらえると、それらのなかで子どもが楽しんで継続できるのは「親がかかわらないもの」だと聞いたことがあります。
それは、子どもの習い事の「教えている側」の座談会を取材したときのこと。習字教室、ピアノ、水泳、サッカー、ダンスの先生がこんな話をしてくれました。
まず、お習字の先生。
「習字は多くの子どもが小学校を卒業するまで続けてくれます。途中で辞めません。恐らく、習字は家で練習する必要がなく、教室でやる1、2時間だけでいつの間にかみんな上手くなる。親が干渉する機会がないのが良いのだと思います」
すると、ピアノの先生が「その通りだと思います」と共感しました。
「ピアノは家で練習しなくてはいけないので、親に毎日弾けとうるさく言われて嫌になってやめるケースが多い。別にピアニストになるわけでもないし、上達して気が向けば自分で弾くようになるのに、と残念です」
水泳のコーチも同意見でした。
「以前は自分で来る子が多かったのに、最近は親が連れてきて練習もずっと見学します。スタンドのほうで『どうしてあんなキックしかできないのかしら』などとお母さん同士で話していて。終わるといちいち子どもを注意している人もいる。そういう親の子はそのうち辞めるか、続けても嫌々やっているので上達しません。どこかでお茶でもして待っていてほしいなと正直思う」
いかがでしょうか。すべての先生やコーチたちが「親がかかわらない、離れたほうが、子どもは伸びる」と実感しているのです。
親からすれば、「今日は試合に出るかも」「どのくらいできるのか、この目で見たい」という気持ちになりがちですが、ここはまず「子どものサッカーが気になる自分」をやめましょう。
試合に出ようが出まいが、仮になかなか上達しなくても、本人が好きで楽しそうに練習に行くなら気にしない。気にしないようにするには、それを忘れるためにほかの自分の趣味に打ち込んだり、他の楽しみを見つければいいことです。
その結果、久しぶりの練習試合の当番のときなどに見たら「いつの間にか上手くなってるじゃん」と驚くことになるかもしれません。
「幸せなサッカー生活を」と書かれていましたが、サッカーはあくまでも生活の一部なのですから。
■つらい現在でなく、未来に目を向けるとラクになる
そしてもうひとつは、息子さんの「現在」よりも「未来」を楽しみにすること。
「この子、どんな大人になるのかなあ」とわが子の未来を考えると、肩の力が抜けますよ。
わかってるわよと言われそうですが、スポーツでプロになるのは一握り。特に競技人口の多いサッカーは、確率的に東大に合格するより難しいと言われています。
ならば、親の果たすべき役割は、よく言われることですが「飯の食える大人」に育てることです。
※写真はジュニアサッカーのイメージです。 質問者及び質問内容とは関係ありません
その点では、息子さん、素質十分じゃありませんか。
技術面で多少劣っていても「マイペースで卑屈にならない」情緒の安定感。練習は結構ハードなのに毎回休まず楽しそうに参加する真面目さ。
「上手くなればもっとサッカーが楽しくなると思うのに」とありますが、それは大人の感覚です。子どもにとっては技術が伴わなくても仲間と一緒にボールを追いかける日々は十分楽しいのでしょう。
ただ、お母さんの感覚でひとつ正しいなと感じた言葉があります。
「試合に出られないんじゃ、楽しくないじゃん」これです。
おっしゃる通り、試合に出られないと楽しくありません。それでも「サッカー、楽しいよ!」と言える息子さん、素晴らしいではありませんか。
私がいつも一緒にお仕事させていただいている池上正さんは、全国の少年コーチの皆さんに「全員出場させましょう」と呼びかけています。
よって、最後にひとつ付け加えるとしたら、息子さんのチームでもう少しみんなが試合に出られる環境を作って欲しいなとは思います。
そういえば、池上さんの新刊も『伸ばしたいなら離れなさい』でした。
離れることで、息子さんの見えなかった部分が見えるのかもしれません。息子さんのみならず、お母さんも親として成長できると思います。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)
スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てる テニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。
最新刊は、ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)。
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