蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2017年11月22日
下級生に嫌なことを言ったり意地悪する...。困った態度の上級生にどう対応すればいいの問題
後から入部してきた上級生がわざとぶつかってきたり嫌がらせをするので、息子はストレスで時折不満が爆発。コーチに相談してみたけれど改善は難しそう...。そんな時、みなさんならわが子にどんな言葉をかけますか?
自身もサッカー少年少女の母として子育てした経験を持つ、教育・スポーツジャーナリストの島沢優子が、読者の悩みに答える『蹴球子育てのツボ』。今回は、わが子に困難を乗り越える力をつけ、チームメイトの行動背景を理解し見守れる大人に成長するためのアドバイスを送ります。(文:島沢優子)
はじまして。いつも参考にさせていただいております。
息子は小学3年生なのですが、同じチームの上級生のことでご相談があります。
同じチームの5年生の子なのですが、今年の4月に入部してきた子で、レベル的には同学年の子より劣っています。
なので、公式戦のメンバーに選ばれる事もなく、ダラダラと練習をしている様子なのです。
全体練習の時など、ある程度レベル分けをされるとその子は低学年にまで下がってきます。
身体が大きいので、ウチの子にワザとぶつかってきたり、練習中に嫌な事を言ってきたり、ボールをワザと遠くに蹴飛ばしたり、隠したりします。
私は子どもに練習に集中するよう言い続けていますが、やはりストレスがたまるようで、他の場面で不満が爆発してしまいます。
コーチには話をしているのですが、状況の改善はなかなか難しいようです。
このような場合、親として子どもにどう対応していけばいいのでしょうか。
<島沢さんのアドバイス>
メールありがとうございます。
今回は「わが子」の問題ではなく、サッカーの仲間であるチームメイトに関するご相談ですね。
では、ご希望された親としての対応を三つ挙げてみます。とても簡単なことです。
■ピッチ内のことはコーチに任せて、関与しない
まずひとつめ。親は何も関与しないことです。
「ワザとぶつかってきたり、練習中に嫌な事を言ってきたり......」と、その5年生はなかなかの暴れん坊さんのようです。まだ小学3年生のお子さんが困惑するのは無理もないことです。息子さんは(なんであんなことするんだろう?)と腹が立つことでしょう。
一方で、お母さんは大人なので、5年生の彼がどうしてそのような態度をとってしまうのか、察することができますよね。
5年生で入部してきたこともあってか、技術が同学年の子に比べて劣っているようです。「身体が大きい」とあるので、小学生の間に伸長期と交互に来る「充実期」にあって少し太っちょさんなのかなと想像します。そうなると、ますます動きづらい。
となれば、子どもなりに面白くないかもしれません。コーチの接し方次第では、下級生のチームに入ることでストレスがたまります。そうすると、そのはけ口として、他の子どもに八つ当たりしたくなります。
その子なりに一生懸命やっているのかもしれませんが、うまくいかないことにイライラして、気持ちがスカッとすることをやってしまいたくなるのでしょう。
そんな彼の気持ちの揺れを、少なくともコーチはわかっているはずです。現場を取り仕切るのはコーチですから、その子の指導や支援は彼らに任せましょう。
「コーチには話をしているのですが、状況の改善はなかなか難しい」とあるので、その子に関してすでに何か話をしたようですが、できればコーチに話すのはもうやめたほうがいいと思います。お母さんがクレームなり、改善してほしい要望なりを続けていくと、それを受けたコーチは焦ってしまいます。
悪くすると、5年生の彼に態度を改めるように厳しく言い過ぎてしまいます。そうなると、かえって余計なストレスをためることになりかねません。逆効果です。サッカーコートの中のことは、指導者に任せた方がいいでしょう。
■自分で考える力をつけるチャンスでもある
二つ目はご質問にあった息子さんへの対応です。
「子どもに練習に集中するよう言い続けています」とあるので、お子さんが「○○君からこんなことをされた」と言ってくるたびに「相手にしないで集中しなさい」と諭しているのかもしれません。
そのこと自体は間違っていませんが、指示命令ではなく、どうすればいいかを自分で考えさせる絶好の機会です。
「みんなで楽しくサッカーするには、どうしたらいいかな?」そんなふうに問いかけて、一緒に考えてみませんか?
■心を静めて「見守れる大人」になってみよう
三つめ。お母さん自身が、その5年生に対してネガティブな感情を持たないことです。
冒頭でお話ししたように、保護者の皆さんは大人なので問題行動をしてしまう子どもの背景や気持ちを理解できるはずです。であれば、チームメイトの親として「見守れる大人」になりませんか?
あるサッカー少年団の3年生チームにも、この相談に出てくる5年生のように、みんなより遅れてサッカーを始めたため技術が劣っていて、少し太った不器用な子がいたそうです。
ある日、その子が試合に出ていたときのこと。
交代させるため、コーチがその子の名前を叫びました。恐らく練習試合だったのでしょう。審判は試合を止めずに、プレーを続行するなかで交代していました。
コーチがその子の名前を呼びましたが、その子はなかなか気づきませんでした。一生懸命集中しているのだから仕方のないことですし、コーチから「集中しろ」と言われていますから。ところがすると、コーチは激怒し「交代だって言ってるだろう!」と怒鳴ったのです。
すごい剣幕に驚いたその子は泣いてしまったうえ、コーチの罵声がトラウマになったようで結局サッカーを辞めてしまいました。そのコーチは謝罪もせず「(退団の原因はその子が)ついていけなかったからだ」と言ったそうです。
4年後。太っちょでサッカーをやめたその子は、その後みるみる体型が変わり、みんなが進んだ公立中学一の俊足になり陸上部で活躍しました。ただ「走るのも好きだけど、サッカーを続けたかった」と残念がったそうです。
いかがでしょうか。とても難しいことかもしれませんが、他の子どものこともわが子と同じように考えてみませんか。