蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~

2018年9月 6日

試合中に思い通りにいかないと泣きだす息子をどうしたらいいの問題

高学年の息子が試合中に思い通りにいかないと泣き出してしまう。なかなか泣き止まないし最後にはベンチに。チームメイトにも迷惑になるので、「泣く」ではない感情表現にできないか悩んでいるサッカーママからのご相談です。

みなさんのチームにもそういう子、いませんか?

スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんは、同じ課題を抱える子は少年サッカーでは少なくないと言います。今回もジャーナリストとしての知見やご自身の経験を通して、解決の3ステップをお伝えしますので参考にしてください。(文:島沢優子)

※サッカーは楽しんでやるもの。写真は過去のサカイクキャンプのものです。質問者及び質問内容とは関係ありません

<<忘れ物したら試合に出られない。届けるのが親の愛情じゃないか問題

<サッカーママからの相談>

息子は11歳で小学校高学年なのですが、サッカーの試合中に思い通りにいかないと泣き出してしまいます。

しかも一度泣くと泣き止むまでに時間がかかり、試合は中断、最後はベンチに下がります。

いきなり泣きだすので周りも理由がよくわからず、チームにも迷惑になるので、せめて試合中に泣かないようにしたいのですが、どのようにしたらいいでしょうか。

この前は一つ下の学年の子達がたくさんいるチームに入り、キャプテンをやらされ、そのことが嫌で大泣きしていました。

感情表現を「泣く」ではなく違う方法に出来ないものか悩んでいます。

サッカーの相談というより教育のご相談になってしまいますが、何か参考になる助言をいただけたらと思います。

どうぞよろしくお願いします。

<島沢さんのアドバイス>

よくぞ勇気を出してご相談くださいました。みなさんにある意味共通する課題です。
本当にありがとうございます。

実際に相談者様や息子さんにお会いしてお話を聞いてはいないので確かなこととは言えませんが、これまで小児心理の専門家臨床心理士の先生方のお話しを聞いてきたことと、少年サッカーを見続けてきた経験からお答えします。

ひとつの参考材料として、聞いてください。

息子さんのように、うまくいかないと試合中に泣きだしてしまう子はそんなに多くないかもしれません。しかしながら、高学年で彼と同じ課題を抱える子どもは、実は少年サッカーでは少なくありません。

■泣くことで「ダメな自分」がすり替えられる

それは何かといいますと「失敗したくない症候群」です。


息子さんは恐らく、勉強やさまざまなことが平均もしくはそれ以上にできるタイプではないでしょうか。わが子の「そこそこ出来る」のラインは親の価値観によって異なるので、一般論というより「お母さんが満足するライン」と考えてください。

よって、サッカーでもお母さんを満足させたいし、自分も「サッカーもできる子」になりたい。でも、うまくいかない。そうなると、できない自分にイライラすると同時に、自分がどう思われているか? と心配もします。

つまり、できない自分を受け止められない。心理的な余裕を失うため、心のコップはいっぱい、いっぱい。「不安」という名前の水があふれ出します。その水が、涙となってあふれだす――そう考えられないでしょうか。

泣くと、お母さんもコーチも、仲間も、みんなが心配して「大丈夫?」と駆け寄ってきます。思い通りにいかなかったり、うまくいかなかったプレー、要するに彼がサッカーで「失敗していたこと」が、周囲の人たちの意識から飛んでいきます。

ダイレクトな言い方になりますが、「ダメな自分」が、泣くことですり替えられるわけです。

■モラハラ、パワハラと同じ。無意識的に子どもへ発信している矛盾した価値観

類似したケースもあります。
これまで取材などで出会ったサッカー少年に、息子さんのようにミスが続いたり、プレーが不調になると泣いてしまうお子さんは複数存在しました。
ほぼ全員、親御さんの話も聞いていますが、ほとんどの場合、お母さんが不安の強いタイプでした。

「今日もまた、ノーマークのシュートを外さないかしら」
「エースらしいプレーをしてくれるかしら」
「相手に激しいファウルを受けてケガしたりしないかしら」
そんなふうにいつも息子を心配していました。

そして、もうひとつ共通点があります。どの方も「勝ってほしい」「一番になってほしい」「活躍してほしい」と強く思っているけれど、それと同時に「サッカーを楽しんでくれればそれでいい」とも言うのです。

この矛盾する二つの価値観を同時に子どもに発信してしまうことを、親子間の「ダブルバインド(二重拘束)」と言います。この関係性は、モラルハラスメントパワハラとも同じコミュニケーションの形態で、人の心を追い詰めるものです。

これは知らず知らずに、多くのお父さん、お母さんが子どもに対してやってしまっています。

「サッカーは勝ち負けだけが重要じゃない。楽しくやればいいよ」

普段そう言ってるのに、試合でふがいない負け方をすると「そんな負け方をして悔しくないのか?」「本当に一生懸命やっているのか?」などと怒ったりします。

子どもからすれば「楽しくやればいいって言ったのに......」と葛藤を抱えます。そんなことが重なると、「期待通りにできないダメなボク」というふうに自己肯定感を下げてしまわないとも限りません。

サッカーに限らずスポーツは、ひとつひとつ出来ることが増えて、努力したことで達成感を得られます。子育てでもっとも重要な「自己肯定感の積み重ね」に大きく寄与する素晴らしいツールです。

ところが、大人がまずい寄り添い方をすると、その素晴らしいツールは一転、危険なツールに変わります。ここ数年議論されているブラック部活のありようと同じですね。

「勝利云々より、社会で通用する人材の育成」と指導者達は言いながら、負けると罰として生徒を走らせる。「自主的・自発的に」と言いながら、指示命令して言うことを聞かせようとする。そんな二つの矛盾した価値観を受け取った生徒は、その矛盾を指摘できないまま自分を見失うわけです。

次ページ:解決するための3ステップ

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