蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2018年9月19日
サッカーを嫌々やっているふうな息子をやめさせるべきか問題
親の勧めでサッカーとフットサルを始めた息子。気が強く他人を「口撃」するチームメイトに我慢しつつもやってきたが、監督に厳しく怒られ「心が折れた。ずっと我慢してきた。もう嫌だ」と泣きながら告白してきた。仲のいい子とのサッカーは楽しんでいるけど、チーム練習に嫌々行く息子を見るのはつらい。どうしたらいい? とのご相談をいただきました。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、今回もジャーナリストとしての知見やご自身の経験を通して解決の3ステップをお伝えします。参考にしてください。(文:島沢優子)
※写真は過去のサカイクキャンプのものです。質問者及び質問内容とは関係ありません
<<試合中に思い通りにいかないと泣きだす息子をどうしたらいいの問題
<サッカーパパからの相談>
初めまして。子どものサッカーの事で相談させて頂きます。
小学校4年生の最初に現在住んでいる地域に転校してきたと同時に、
何かスポーツをやらせたいと考え、私(父)の勧めでサッカーとフットサルを始めました。
全くの未経験で始めたので、最初は結構辛かったと思いますが、段々練習にもついていけるようになりました。
ですが、同じ学年のチームメイトには他人を「口撃」する子が多く、大人しい息子はいつも言われる方でプレーするのもその子達を気にしながらプレーしているように見えました。だだ、息子には恵まれた体格とガツガツ相手に当たれるところがあるので、それを武器にやってきました。その状態で1年経った時です。
Aチーム入りも近づいて監督も指導に熱が入り厳しくなることも多くなりました。厳しく怒られたある夜に「心が折れた」と泣きながら言って来ました。私は内容を聞いて「監督は○○を成長させようと思って厳しく言ってると思うよ」と言いました。
その時は納得したような顔をしていましたが、母親には「サッカー行くのが嫌だ。もともとサッカーが好きじゃない。一生懸命やっているのに怒られるのが嫌。チームメイトから非難されるのが嫌。ずっと我慢してきた。もう嫌だ」と言ったようです。
ただ、この夏休みの自主練も誰にも言われることなく自分から進んで行ったり、仲の良い子ばかりやるプライベートなサッカーには楽しく行っていたので、息子の急激な変化に驚いています。
私は厳しく怒られたことが何回か続き、チームメイト間でも嫌な事が起こったことによる一時的なものと思っているのですが、息子の状態はそうでもなく、どうすれは良いか迷っています。
私とすればもう少しこのまま続けさせて本人の気持ちの回復を待ちたいと思っているのですが、嫌々行ってる息子の姿を見るのも辛い面もあります。
何かアドバイス頂けないでしょうか。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
4年生でサッカーを始めて、今現在5年生ということですね。
嫌々サッカーの練習や試合に行く息子さんの姿を見るのは辛い、とおっしゃっています。
一方で、「夏休みの自主練も誰にも言われることなく自分から進んで行ったり、仲の良い子ばかりでやるプライベートなサッカーには楽しく行っていたので、息子の急激な変化に驚いている」とも書かれています。
今現在はどちらなのかしら?と、わかりかねています。
しかしながら、こうやってご相談されているわけなので、息子さんは100%「サッカー大好き!」という気分で取り組んでいないということでしょう。
お父さんにアドバイスしたいことは三つあります。
■親であってもわが子を100%理解するのは無理
ひとつは、子どもの気持ちを100%理解できると思わないこいとです。
ご相談の文章を読むと、お子さんに懸命に寄り添おうとするお父さんの心情が伝わってきます。愛情深い方なのだろうと推測します。
とはいえ、わが子であっても別の人間、別の個体です。しかも、小学校高学年は「前思春期」と呼ばれ、第二次性徴期の助走が始まる時期。「僕はこんな人間なのかも」というふうに自分自身を認知し始める入口のところにいます。特に息子さんは他の子どもに比べて体も大きいようなので、心身ともに早熟なほうかもしれません。
そもそも、子どもは小さなことで心が折れたり、逆に元気になったりします。そのうえ、前思春期の息子さんは心が敏感になる季節が始まっているわけなので、気分がコロコロ変わるのは自然なことです。
そんな微妙なシーズンを迎えた子どもの扱いは一見難しく映ります。
「いったい何を考えているんだろう?」と理解に苦しむ場面は増えるようです。しかも、同じ年代の子どもとサッカーをし、学校で過ごすわけなので、「微妙なシーズン同士」ががちゃがちゃぶつかり合っていっそうカオスになるわけです。
大小の差はあれどイライラしている微妙同士ですから、文句を言われたり、言ったり、いじめられたり、いじめたりとネガティブなことも起きますが、一方で子どもの人間形成がされていく非常に面白い時期でもあります。
そんなカオスのなかにいる息子さんを、ああでもない、こうでもないと、その都度大人が理解していくのは無理があります。そうでなくても、私たち昭和世代と今の子どもたちが育つ環境は大きく異なります。
■正論を言ってもすぐに納得できるわけではない。大人の役割は安全基地
ふたつめは、結論を急がないこと。
コーチに厳しく怒られた夜に「心が折れた」と泣きながら言って来た。そこで内容を聞いたお父さんは「監督は○○を成長させようと思って厳しく言ってると思う」と話しています。
私としては、この場面では「そっかぁ。○○なりに頑張っているのに、そんなこと言われると心が折れるよなあ。きつかったなあ」と心に寄り添うだけにしたほうがいいと思います。「まあ、今夜はおいしいもの食べて気分転換しよう」
次に同じ場面があったら、そんなふうに励ましてあげるほうがよいでしょう。
だって、大人だって同じじゃありませんか。
例えば、お父さんが会社で上司に理不尽なことをされて同僚に文句を言ったら、「おまえのためを思ってるのでは」なんて言われたら、心のなかで(正論ばっか言うなよ。俺の身になってみろよ)くらい、思うのではありませんか。
それがわが子に起きたことなら、親はその辛さに100%共感することが大事です。
(そんなことで)とか(大したことない。俺ならもっと強気に乗り越えられる)そんなふうに感じたとしても、親は絶対共感すること。なぜなら、親の役割は「安全基地」です。心理学の専門家もみなさん声を揃えて同じことを言います。
よって、「こうすればいい」とか「こう考えたらいい」といった結論を急がずに、まずは息子さんの気持ちに寄り添ってあげてください。
お父さんが共感しなかったので、息子さんはあきらめ、結果的にお母さんに「一生懸命やっているのに怒られるのが嫌。チームメイトから非難されるのが嫌。ずっと我慢してきた」と本音を打ち明けています。
けれど、そこで吐き出したのが良かったのではないでしょうか。夏休みは練習に行ってますよね。
両親で役割分担できればいいという考え方もありますが、すでに外で厳しいコーチが息子さんに対し、ハードルをあげています。
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