蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~

2019年4月11日

伸びないわが子にイライラ。罵倒したママの問題

周りがどんどん上手くなっていくのに、うちの子は伸びない。先日は試合に出られなくて泣いていたけど、「出られない」という事実に涙していただけで、出られない理由もわかってないことに親の私が怒って罵倒してしまった。

早生まれを言い訳にしていたけれど、キック力も弱いしサッカーを諦めるべき? いつも怒ってしまうし私が子どもを潰している? と切実なご相談を寄せていただきました。

今回も、スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験と数々の取材活動で得た知見をもとに、ご相談者さまにアドバイスを授けます。参考になさってください。(文:島沢優子)


子どもを伸ばしたいなら家庭は子どもにとって絶対的な安全基地でなくてはいけません。(写真はサカイクキャンプ。ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

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<サッカーママからのご相談>

こんにちは。8歳息子の育児についてご相談させてください。

1年生からサッカーを始めましたが向上がなかなか見られません。

早生まれということを言い訳にしていましたが、回りがどんどん伸びて行くのに自分の子どもは一向に伸びを感じません。

先日は試合に選ばれなくて泣いていました。

それが悔し涙ならいいのですが、ただ選ばれないことに涙を流していただけで本人は原因も何もわかっていなかったことに腹が立って罵倒してしまいました。

そんな自分もとても嫌だし、もっと向上してほしいと思いますがサッカー経験のない私にはどう教えていいのかも分かりません。

夫もサッカーにはまったく興味もなく休日は仕事の為サッカーを教えることもできません。

本人は力いっぱい蹴っているのかもしれませんが、キック力も弱く、保育園の子のようなキックです。

私がいつも怒ってしまうので子どもも聞く耳を持ってくれなくなるし、どう接したらいいのか、どのようにしたらキック力が強くなるのか......。

サッカーを諦めるタイミングはいつなのか。とも考えます。

このままでは時間の無駄なのかなぁとも思えてきたり、子どもを潰しているのは自分自身だと自己嫌悪しています。

<島沢さんのアドバイス>

ご相談ありがとうございます。

どうしたらわが子が成長できるのか。

このことを一生懸命に考えているお母さんのお気持ち、痛いほどよくわかります。また、怒鳴ったりすると自己嫌悪に陥りますね。

でも、懸命に考えてこうやって相談のメールをくれたのですから、愛情にあふれた方なのだろうとお察しします。

愛情もある。子どものために動くエネルギーもある。自分自身を振り返る力もある。

それなのにうまくいかない。
それは「子育てのベクトル」の方向が、少しばかりずれていることが理由かもしれません。

心身ともに上方向に伸びている子どもは、親御さんの子育てのベクトルも曲がることなく真っ直ぐです。

そういう人たちは自分では気づいていませんが、わが子を伸ばすための「子育ての哲学」を持っています。

哲学と言うと大げさに聞こえるかもしれませんが、四つほどお伝えしましょう。

■子どもを上手く伸ばす親とは

第一に「周りと比べない」
わが子が集団の中で何かが抜きんでて出来たり、一等賞をとることは、誰でも親として誇らしい気持ちになります。ですが、そのことをひけらかしたり、自慢する親御さんを、お母さんはどう感じますか?

私は少しばかりカッコ良くないと感じます。
カッコいいお母さん、お父さんは、自慢しないし、逆に何かが劣っていても、泰然自若としてわが子を見守れる人。そして、そんな人が、子どもをうまく伸ばしています。

大人だって、自分より優れている人と比較されるのは嫌ですよね。
それなのに、子どもたちは学校や塾やサッカーまでも、比較されているわけです。勉強の成績をつけられ、学力テストを受けさせられ、サッカーでは能力を比べられてレギュラーと補欠に分けられます。評価を受けることは、他者と比較されているわけです。

そんなふうに競争社会にさらされているのですから、家庭は子どもにとって絶対的な「安全基地」でなくてはいけません。

安全基地とは、どんな自分でも受け止めてくれる場所です。何かができなくても「大丈夫。いつかできるようになるよ」と言ってもらえる。ダメな自分でも「大丈夫。また頑張ろう」と励ましてもらえる。

「ありのままの自分」を抱きしめてくれる大人がいる場所です。

「大丈夫」と認めてもらい抱きしめられた子どもは、「じゃあ、また頑張ろう」とエネルギー満タンで外に踏み出せる。よって、そういう子は伸びて行きます。

■子どものできる、できないは「子育ての結果」ではない

ふたつめは「子どもの感情に同化しない」

試合のメンバーに選ばれなくて泣いた息子さんを罵倒した、と書かれています。でも、お母さんが罵倒したのは、ご自分自身なのかもしれません。息子が選ばれなくて、悔しくて、お母さんのほうが泣きたい。そこで八つ当たりしてしまったようにも見えます。

よって、お母さんも「そんな自分がとても嫌だ」と書かれていますね。

「そっか。悔しいよね」とその場は、お子さんの気持ちに共感してあげたほうが良かったと思います。

冷静になって考えてみましょう。

子どもは子ども。親は親。違う時代を生きる、まったく異なる個体です。子どもは親の自己承認欲求を高める存在ではないし、その出来不出来が子育ての結果を示すものでもありません。そこを今一度認識し直しませんか。

■子どもの主体性を育てるための種まき

三つめは「主体性を育てる」

例えば、試合に出られなかったあとや、その翌日などに「どうしたら次は試合に出られるかねえ?」と問いかけてみましょう。

その問いかけは決して答えを求めるだけではありません。
「自分で考えてごらん」というメッセージです。どうしたらいいかなあ? とお子さんの心に残るかもしれない。そのとき残らなくても、いつか思い出すかもしれない。

そうやって、何度も、何度も、種をまくのです。
子育ては、いわば「季節のない種まき」です。トマトは夏に実をつけますが、息子さんの努力や成長が結実するのは、小学校高学年なのか、中学生なのかはわかりません。いまは保育園児のキックでも、子どもの体は成長とともにどんどん変わります。

もっといえば、実がなるのがサッカーなのか、何なのかはわかりません。

ただ、親の役目は、何かにつながるよう「自分で考える」という主体性を育てること。「サッカーをあきらめるタイミングはいつなのか」と書かれていましたが、それはお子さんが決めること。親がジャッジすることではありません。

「まだ小学生だから」と何でも先回りして親が決めてしまうと、「本当はサッカーを続けたかったのに」と泣かれる日が来るかもしれません。

「お母さんが決めたからこれをやったけれど、ダメだったじゃないか」と親のせいにされます。自分の人生を自分で預かり受けること。それができる主体性をぜひ育ててあげてください。

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