保護者と指導者 より良い関係作りを目指して
2013年10月21日
口出し無用?でも応援したい! 子どもを伸ばす応援の仕方とは?
さまざまな反響をいただいている「保護者と指導者」のより良い付き合い方について考える連載の三回目は「応援」について考えます。子どもたちにとっていい応援と悪い応援とは? 指導者は親の応援についてどう考えているのか? 子どもがサッカーを始めたばかりの保護者の方にもぜひ読んでほしい、子どもたちのベストサポーターになる方法とは?
サッカーの試合は子どもたちのためのものです。試合中の過度な声掛けはご遠慮ください。
最近の子どもたちのサッカーでは、試合の最中にピッチサイドでついつい過熱しがちなお父さんお母さんに、こんなお願いをすることが多くなっています。熱心な応援が、かえって子どもたちのプレッシャーになったり、勝負に拘るあまり、審判批判や相手チームへの口撃になってしまったり、ネガティブな言動は子どもたちにとってマイナスでしかないということが広く知られるようになってきました。
■考える力を奪う過度な声掛け
ある指導者は、親の応援についてこんなことを言っていました。
「子どもたちにミスをさせてあげてください。これはみなさんに伝えたいですね。ミスに対してがっかりしたり、時には注意したりする保護者の方がいると、子どもたちは『ミスをしちゃいけないんだ』と萎縮してしまうんです」
丸いボールを決して器用とは言えない足で扱うスポーツ。サッカーは「ミスが当たり前のスポーツ」です。ましてやこれから上達していこうという子どもたちには、失敗を恐れずにチャレンジする気持ちが何よりも大切です。子どもに対する親の影響力は絶大です。サッカーの試合中であっても親の声は子どもに聞こえています。がっかりした態度を見せれば敏感な子どもたちは「なにか悪いことしちゃったかな?」と感じ取って、親の顔色を見てプレーするようになります。
指導者に置き換えてみればわかりやすいかもしれません。高圧的な指導者がいるベンチというのは、ある種独特の雰囲気があります。保護者の方も目にしたことがあると思いますが、こうしたコーチに教えられているチームの選手は、試合中にベンチを気にします。ワンプレー終わるごとにベンチを見て、コーチの判断を気にしているようでは、決して自主的なプレーが出来るようになりません。同じように子どもたちは「親を喜ばせたい」気持ちから、応援席を気にするようになります。
ミスをすることはサッカーの上達への近道。自分で考えてプレーすることはサッカーの喜びのひとつですが、親が興奮して過度な声掛けをすることで、子どもたちのこうした可能性を阻害している可能性があるのです。
■まるで操り人形? こんな人いませんか?
「ゴール裏にいるお父さんがGKの子に何やら話しかけていると思ったら、ディフェンスへのコーチングを後ろから指示していたんです」
あれには参った! とベテランコーチが教えてくれたのは、GKをしている息子の真後ろで独自のディフェンス論を教えている“つぶやきお父さん”。試合中でもかまわず特等席に陣取って“コーチングのコーチング”に精を出していたというのです。そのGKの子は「もういいよ」「恥ずかしいよ」と自己主張していたそうですが、結局お父さんは試合終了までよく聞こえる“つぶやき”を続けたそうです。お父さんのもどかしい気持ちもわからなくはないですが、指示された子どもがどんな気持ちになるか、大会ではつぶやきは届かないことを考えれば、こうした行為がかえって子どもの成長を妨げることは明らかです。
試合が終わると同時に子どもに駆け寄ってアドバイスをするお父さん。小声ながらも厳しい口調でミスを指摘している。こんな光景もよく目にします。お父さんにはお父さんなりのアドバイスがあるのでしょうが、試合が終わった直後の振り返りなどはチーム全体、チームメイトとしてほしいというのが指導者の願い。指導者は目の端でそういうお父さんを捉えて「あの子はあとでケアしてあげないとなあ」と思うそうです。
■応援しちゃダメなの? 見守ることへの誤解
最近ではこうした注意喚起が進み「子どものサッカーは静かに見守りましょう」という考えも保護者の間で定着してきました。一方で「応援しちゃいけないの?」「静かにしていないといけないの?」と戸惑う人も増えているようです。
「サッカーは楽しいスポーツです。見ていて興奮するのは当たり前ですから、ポジティブな応援なら大歓迎ですよ」
ある若い指導者に保護者の応援について聞いてみると、こんな答えが帰ってきました。
「気をつけてほしいことはありますが、ゴールが決まっても誰も喜ばないチームは気持ちが悪いし、子どもたちもやりがいがないですよね。喜ぶのがダメというわけではありません」
味方の応援や良いプレーに対する拍手など、ポジティブな声がけは「サポーター」として、親が子どもにしてあげられることでもあります。
サカイクでもご紹介しましたが、今夏行われたU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジに来日していたバルセロナの下部組織の保護者も、大きな声でバルセロナの応援歌を歌い、子どもたちに声援を送っていました。こうした声は、遠く離れた外国のピッチで戦う子どもたちにとって、とても心強かったはずです。
家族が「観に来てくれている」「応援してくれている」ことが、子どもたちの力になることは間違いありません。子どもたちに何かを強制するような声がけや過剰な干渉はもちろん控えなければいけません。前半で触れたように、親からのプレッシャーがかえって勝利至上主義、ミスを許さない空気を助長するケースもまだまだ少なくありません。それでも、励ましや声援は親にしかできないことのひとつです。「応援はポジティブに」保護者の方が何に気をつけるかわかってさえいれば、応援をすること自体が咎められる理由はないのです。
子どもたちがサッカーに没頭して、がんばればがんばるほど、その家族の時間もサッカー一色に染まっていきます。週末はすべてサッカー。子どものサッカーとともにある日々を過ごしているお父さんお母さんは、その集大成となる試合に思い入れがあって当然です。「試合中は静かに見守りましょう」こうしたメッセージが間違って伝わり「試合中は子どもを応援してはいけない」と思っている親御さんがいるとすれば、それも保護者と指導者の間の行き違いのひとつなのかもしれません。
保護者と指導者の相互理解のためにお互いの本音に迫ってきたこの連載も次回はいよいよ最終回。保護者と指導者がお互いを知る方法、子どもたちの気持ちを本当の意味でわかってあげるためにはどうしたらいいのか? あるチームの取り組みを紹介し、みなさんと一緒に考えてきたいと思います。
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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