サッカーIQが高まる言葉 ―格言からサッカーの真理・本質を読み解く―
2019年3月11日
第二回 「日本の選手に一番足りない技術の一つは、ボールをきちんと止めること」
言葉は時として、「何を言ったか」より「誰が言ったか」の方が影響が大きくなります。同じ内容の事を言っているのに、自分が特に関心のない人がいえば「ふーん」で終わらせてしまうけれど、有名な人がいえば深い意味が隠されているように感じることがあるもの。
しかし、有名人が発したからと言って「正しい」と鵜吞みにしてしまっては、サッカーIQは高まりません。表面的で間違った解釈をしないためにも、「何を言ったか」に注目することが大事なのです。
技術習得の練習だけでは良い選手になれません。深い思考力など内面も磨いてこそ選手として伸びていくのです。
西部謙司さんの「ボールは丸い。 サッカーの真理がわかる名言集」より、みなさんに伝えたい珠玉の名言をピックアップしてご紹介します。西部さんの註釈を読んで、サッカーというスポーツの奥深さを味わってください。
好評だった初回に続き第二回目は、1986年メキシコW杯で優勝したアルゼンチン代表のアシスタントコーチを務め、1997年にはJリーグアビスパ福岡の監督を務めたアルゼンチン人、カルロス・オスカル・パチャメ氏が語った、日本人に足りないスキルについての言葉をお送りします。
■止めて蹴るが全てではないかもしれないが......
日本の選手に一番足りない技術の一つは、
ボールをきちんと止めること。
止めて蹴る、こんな簡単なこと、と思われるかもしれないが、
簡単なことは実はとても難しいし、大切なことだ。
―カルロス・オスカル・パチャメ
日本の選手に限らず、もうこれがすべてと言ってもいいかもしれない。例えばカウンターアタック。守備から攻撃への切り替えの速さ、スペースへ飛び出す走力がカウンターの成否を握ると考えられている。
確かにそれもある。
ただ、それ以上に「止めて蹴る」にかかっている。ボールをしっかり止められないので蹴れない、蹴れないのでカウンターのタイミングを逸してしまうことが多いのだ。
傍目には止まっているようにみえても、止めてから1つボールを押し出してからでないと蹴れないとしたら、パスのタイミングが確実に遅れてしまう。止めたら即時に蹴るか、すぐに蹴り出せる場所に一発で止めるか。いずれにしても「止める蹴る」の精度がプレー全体のスピードを決めてしまうことが多々ある。
また、守備側のプレッシャーの速さもよく問題になるが、それもボールを正確に止められているかぎりにおいては、実は問題にならない。
インターセプトされないかぎり攻撃側の選手は先にボールに触れているわけで、そのときに例えば利き足にボールが付いている状態なら、まともに敵のタックルを食らうことはまずない。タックルの足が届くまでの時間にボールを動かすことは十分可能だからだ。
ハンドボールなど、手を使う球技では先にボールに触られたが最後、守備側がボールを奪うのはほとんど不可能になっている。サッカーでそれができないのは、足でボールを「掴めない」からだ。
逆にいえば、ボールを足で掴んでいるのに近い状態でプレーできるかどうか、そのレベルの差が競技レベルそのものを変える。速攻できるチームとできないチームを分け、得点できるチームとできないチームを分ける。
「止めて蹴る」がすべてとは言わないまでも、ほぼすべてではあるかもしれない。