JFAグラスルーツ推進部部長が行く!あなたの街のサッカーチーム訪問
2016年10月19日
減点方式ではなく加点方式が子どもの可能性を引き出す
あなたの街のクラブをグラスルーツ推進部松田薫二部長が訪ねるサカイクと日本サッカー協会(JFA)のコラボ企画。
今回のテーマは"誰でもJoin♪"。JFAのグラスルーツ推進・賛同パートナー制度は「引退なし」の"ずっとEnjoy♬"、「補欠ゼロ」の"みんなPlay!"、「障がい者サッカー」の"誰でもJoin♪"が大きな柱になっています。
今回、松田部長が訪れたのは茨城県ひたちなか市を拠点にしているバンクル茨城ダイバーシティフットボールクラブ。クラブの名前に“多様性”を意味するダイバーシティを冠しているこのクラブは、障がいのあるなしにかかわらず、「みんなで大好きなサッカーを楽しもう」というコンセプトに基づいて立ち上げられたクラブでした。(取材・文 大塚一樹)
■クラブに入って最初にやることは100回失敗すること
「100回失敗してみよう!」
バンクル茨城ダイバーシティフットボールクラブの子どもたちは、グラウンドに来た初日に大橋弘幸監督からこう言われてチームの輪に加わっていきます。
「ここでは『うまくやらなきゃいけない』とか『失敗しちゃいけない』なんて考え方自体がありません。障がい者サッカーと言ってしまうと、何か特別な感じがしますが、ぼくは彼らに何か特別なことを“してあげている”という感覚は全然ないんですよ」
茨城県ひたちなか市のバンクル茨城ダイバーシティフットボールクラブは、「障がい者サッカークラブ」であり「少年サッカークラブ」でもあります。
障がいがあっても本格的にサッカーがしたい! という子どもや親御さんは、地域の少年団やクラブでプレーするのは難しそうと心配になります。子どもたちが分け隔てなく、障がいの有無にかかわらず楽しくプレーするのがバンクルの特徴だと大橋監督は言います。
「バンクルの子どもたちは一般の人から見ればハンディを背負っているということになりますよね。でも彼らって、たしかに人より苦手なことがあるけれど、ひとつのことに没頭すると恐ろしいほどの集中力を発揮したり、とても素直だったり、発想が豊かだったり、世の中の“普通”の子どもたちと同じように得意、不得意のある、短所も長所もある子どもたちなんです」
J1、鹿島アントラーズのスクールでコーチをしていた大橋監督は、一般に弱視とされる選手たちがプレーするロービジョンフットサルに出会ったことをきっかけに、知的に障がいを持った子どもたちにサッカーをする、楽しくみんなでプレーする場をつくりたいとバンクルをはじめとする取り組みをはじめたそうです。
バンクルの練習を訪ねた松田部長は、ピッチの中で楽しそうにプレーする個性的な子どもたちのプレーに笑顔を送ります。
■世話しているんじゃなく、ぼくが仲間に入れてもらっている
午前中の練習を終えた大橋監督に、松田部長はこんな言葉で話しかけました。
松田「本当に楽しそうにサッカーしていますね」
大橋「そうなんですよ。監督なんて言っていますけど、ぼくが彼らのサッカーに入れてもらっている、仲間に入れてもらっているんです」
松田「見ていると、相当うまい子もいて、でもその子だけがボールを持ったり、ドリブルで抜いたりするんじゃなくて、みんなと関わりながらサッカーをしていました。ああいう関わり方は、意識して指導しているんですか?」
大橋「ぼくも彼らも同じで、誰かに何かを“してあげている”という感覚じゃないんです。仰っていただいたように、あの10番の選手、サトシは少年団に入っても目立つくらいうまいんですよ。彼は徐々に視野が狭くなってもしかしたら視力を失うかもしれない網膜色素変性症という病気なんですが、ロービジョンフットサルの日本代表を目指したいって言っています」
松田「でも、サトシ君は自分だけ良ければそれでいいというようなプレーはしませんよね。大橋監督がいろんなルールやアイディアを出しながら、できるだけみんなが平等になるようなトレーニングの工夫していたようにも見えました。子どもたちが助け合ってプレーしていたのが印象的です」
大橋「サトシもみんなに教えてあげるし、他の子たちもサトシができないことは助けてあげる。子どもたちには、はじめから壁がないんです」
松田「サッカーコーチの中には、チームが勝利することだけが大事になって、うまい子には手厚く教えるけれど、レギュラーやサブに入らないような子にはあまり目もかけず、試合にも出さなかったりすることがありますが、バンクルではそんなこともない。しかも選手同士が助け合ってお互いに成長できています。これは素晴らしいことですね」
■自己紹介で自分の苦手なことや特徴を言い合う
大橋「うちはクラブに来ると、まず自己紹介するんです。そのときに『何の障がいがあるのか、何が苦手かみんなに教えてあげて』って言うんですよ。だからお互いにどんな障がいを持っているのかを知っているんです。CP(脳性麻痺)で運動障がいがあればドリブルが苦手かもしれない。じゃあそういう子にはどんなパスを出して、どんな役割をしてもらうと良さそうか。そういうのって教えなくても子どもたち同士がどんどん勝手に見つけていくんですよ。コーチはそういう子どもたちを見守るだけなんです」
松田「良いところも悪いところも含めてお互いに受け入れて、特徴としてプレーにも活かすというのは、まさにサッカーの醍醐味でもありますよね」
大橋「コーチはとにかく良いところに目を向けてあげる。選手を見るときにはついつい悪いところを指摘する減点方式になりがちですが、ここではみんなが加点方式。良いところに目を向けられた子どもたちは、ミスをしながらもうまくなりたいって努力するようになっていくんです」
松田「障がいの有無にかかわらず、すべての子どもたちにとって大切なことですよね。楽しくなければうまくなろうと思わないし、サッカーなんてやめてしまう」
大橋「楽しいからこそ、勝ちたいって子どもたちが心から思えるんです。やってる子どもたちがつまんなかったら勝ちじゃないと思っているんです。全員で一緒に、みんなで楽しんでこそ意味があって、それがチームの本当の意味での勝利につながるんです」
松田部長は、バンクルの子どもたちのプレーぶりと大橋監督の言葉から、障がい者サッカー=彼らのためのサッカーではなく、サッカーすべてに通じる大切なことを感じたと言います。
「まず、チームの雰囲気がいいですよね。このチームにはそれぞれの“違い”はあってもそれを責める人は誰もいません。ここにはいじめだったり仲間はずれをつくるような雰囲気が全くないんです」
みんなが安心してサッカーを楽しめる。それぞれの違いを助け合いで埋める姿はまさに“誰でもJoin♪”を体現しています。
バンクルがどんなクラブで、そしてここで当たり前に行われていることが、障がいを持っている子どもたちだけでなく、すべての子どもたちにとってとても大切なこと、子どもたちが心からサッカーを楽しむうえで大きなヒントになることはおわかりいただけたのではないでしょうか。
次回も「障がい者サッカー」、さらに日本のジュニアサッカーを取り巻く課題などを、大橋監督やバンクルの保護者の方々の声を交えながら考えてみたいと思います。
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