JFAグラスルーツ推進部部長が行く!あなたの街のサッカーチーム訪問
2017年3月 3日
サッカーを楽しく続けるために「試合結果よりも、魅力を持った人間になることを追求」
日本サッカー協会(JFA)グラスルーツ推進部の松田薫二部長が、NPO法人スポーツクラブ・エスペランサ熊本を訪ねた連載記事の後編は、総監督である光永誠司さんが「目先の勝利よりも将来の成長」というエスペランサビジョンに気がついたきっかけ、エスペランサの理念を実現するためにどんなことをしているかなどについて、より深く掘り下げていこうと思います。(取材・文 大塚一樹)
<今回訪問したエスペランサ熊本は以下の賛同パートナーです>
■子どもたちに接する際に必要なのは長期的なビジョン
「僕たちはサッカーから情熱をもらって育ちました。だから、その恩返しじゃないけど、子どもたちに何かを伝えられたと思っているんです」
光永さんは、自分が立ち上げたクラブに情熱を注ぐモチベーションをこんなふうに語ります。はじめはサッカースクールとしてスタートしたというエスペランサですが、いまでは地域貢献も含め、八代をはじめとする近隣になくてはならないクラブになっています。
試合結果よりも、魅力を持った人間になることを追求するエスペランサでは、「小学生時代の1勝より、中学生になったときに役立つことを身につけよう、高校生になったときに自分の好きなサッカーを楽しく続けられる成長を遂げよう」と誰もが長期展望を持ってサッカーに取り組みます。
「それが当たり前なので、怒ったり怒鳴ったりする必要がないんですよ。トレーニングの時は厳しく指導することもありますが、試合中は私のすることは何もありません。大人が手伝うのは交代の手続きくらいですかね。あとは自分たちでやっています」
エスペランサでは「自分で考えてサッカーをすること」も自分の未来のために必要なものとして認識されています。技術や戦術、個人戦術は徹底して教わるけれど、それをどう試合に発揮するかは本人次第。
「試合でできないのは、練習で教えていないからなんです。大声で怒鳴って指示をしたりするのは子どもたちに申し訳ないですよね」
エスペランサの指導者は「こうしろ」という言い方は絶対にしないそうです。判断に必要な材料を示した上で、決断は子どもたちに委ねる。このやり方は徹底していて、中学生の進路相談にも活かされているそうです。
■「行けるところ」より「行きたいところ」自発性を促す進路指導
「進路指導では絶対に『ここに行け』とか『ここには行くな』とは言いません。学校からの引き合いはあるのですが、それを選手に教えることはありません。自分がどうしたいのか? どこに行きたいのか? を考えることが大事だからです」
光永さんは、進路は選手たちが次のステップで成長するためにもっとも大切な要因になるという信念を持ち指導に当たると言います。学校の成績ももちろん把握済み。学校の先生とコミュニケーションを取ることにより、学校での生活態度なども手に取るようにわかると言います。
「サッカーで推薦枠を取って高校に行くというのもすごいことなのですが、早い内から推薦があることを教えないと面白いことが起きるんです」
光永さんはある中学生の進路指導について話し始めました。
「サッカーはうまいけど、少しやんちゃ。勉強が苦手な子だったんです。うちのクラブでは、自分が一番行きたい高校から順に表明することになっているんですが、第一希望の高校は勉強しなければ入れそうにない。そうしたら、その子が急に『俺、勉強する』と言い出したんです」
サッカーのため、自分がプレーしたい高校に入るため、彼は本気で勉強を始めたそうです。
「親御さんは笑いながら『ウチのがおかしくなった』と言っていましたが、推薦枠を事前に教えていたら彼の自発的な学習意欲は日の目をみることはなかったでしょう」
サッカー推薦枠で高校に入るよりも、自分で勉強して入った方が少なくとも勉強面ではスムーズについていくことができます。自発的に勉強を始めたことはサッカーでも無駄にならないどころかプラスになるというのがエスペランサの考えなのです。
エスペランサではもうひとつ進路に関するユニークな試みがあります。中学校2年生になると、保護者は、クラブ出身の高1生の親、つまり高校受験の先輩と懇親会を行うのです。
「こういう場でその子が通っている高校の様子やサッカー部の状況をダイレクトに知ることができるんです。親としてどんなことに悩んだか、どうしたらいいかなんかも相談できますからね」
こうしたクラブ生、保護者同士の縦のつながりを活用した取り組みができるのも光永さんが、小学生時代から短期・中期・長期の目標、エスペランサビジョンを事あるごとに保護者に示しているからにほかなりません。
■震災を経てますます強まった「サッカーを続けることの大切さと意味」
「進路についてはなぜ自分で選ばせることにこだわっているんですか?」
松田部長の質問に光永さんが答えます。
「これは自分の経験なんですよ。中学生の時に『おまえ鹿実(鹿児島実業)に行けるよ』って言われたんですよ。強豪ですからね。うれしかったし、ちょっとそれで道が開けた気がしたんです。でも結局家庭の事情で行けなかった。もし行っていれば......と思い続けてきたところがあって。だから子どもたちには推薦枠の状況とか、高校からの接触は最小限にしています」
光永さんの目先の勝利ではなく、子どもたちがサッカーを続けた先に真の成功があるという考え方も自身の苦い体験にあるといいます。
「一緒にサッカーやっていたヤツがどんどんやめていくんですよ。あんなに好きだったサッカーが好きじゃなくなっていく。勝てない、うまくなれない、強豪校に行けなかった......。でもやめたら意味がない。勝てなくても情熱を持ち続けるためにはどうしたら良いかを、ずっと考えてきました」
昨年の震災時、光永さんはクラブのマイクロバスで選手たちを家に送り届けている最中だったと言います。地震発生から1カ月はクラブとしての活動ができずクラブは月謝を返上、家が全壊したクラブ生、近隣地域の支援にも積極的に動いたと言います。
「サッカーができないという状況になって、サッカーの大切さを知ったのは僕も子どもたちもコーチ陣も同じでしょう。みんなでボールを蹴れる状態になったとき、子どもたちに笑顔が戻った。まだ100%の笑顔ではないかもしれませんが、サッカーをやっていて良かったと思った瞬間でした」
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