JFAグラスルーツ推進部部長が行く!あなたの街のサッカーチーム訪問
2017年5月 9日
「勝つために運動能力の高い子を優先するのは育成の本質ではない」港北FC永井監督のぶれない信念
日本サッカー協会(JFA)グラスルーツ推進部の松田薫二部長があなたの街のサッカーチームを訪ね歩くこの連載。
今回訪れたのは神奈川県のとあるチーム。そこには「誰でも絶対に成長することができる!」をモットーに、30年にわたってその信念のもと指導を続けているクラブがありました。
サッカージャーナリストの永井洋一さんが代表を務める『特定非営利活動法人 港北フットボールクラブ』です。今回は松田部長が永井さんのもとをたずね、子どもたちに対してどのような想いで指導にあたっているかを伺いました。(取材・文:鈴木智之)
<今回訪問した港北フットボールクラブは以下の賛同パートナーです>
■子どもたちの成長する姿を見るのがうれしい
取材の日は4年生の大会が、横浜市の本牧小学校で行われていました。港北FCの子どもたちは、公式戦を勝利で終えたことで笑顔満開。対戦表の前に集まって、記念写真を撮り始めました。永井さんがカメラを構えて撮ろうとすると、子ども達から「コーチも一緒に撮ろう!」という声が。
最初は「いいよ。俺はなんにもしてないんだから」と遠慮していた永井さんでしたが、子ども達からの熱烈な声に押され、一緒にフレームに収まります。その姿を撮影する保護者たち。子どももコーチも保護者も、みんなうれしそうです。
写真撮影が終わった頃、松田部長が声をかけました。
「子ども達、頑張っていましたね。女の子も積極的にプレーしていて、一生懸命な姿が伝わってきました」
永井さんは日焼けした肌に笑みを浮かべ、こう応えます。
「今日の試合は出来過ぎでしたね。実はこの子達、昨年この大会に出たときは全敗で、10失点以上したんですよ。そこから1年間積み重ねて、今日は2対0で勝つことができました。試合に出ていた女の子は3年生からサッカーを始めたので、最初の頃は気後れしていたのですが、今日の試合で点を取るまでになって。そういう姿を見ると、本当にうれしいですよね」
■1、2年生が公式戦に出場しない理由
港北FCは1、2年生のときは公式戦に出場しないそうです。練習試合のみに参加し、公式戦に出るのは3年生から。さらに、サッカーの巧拙にかかわらず、全員を出場させるようにしています。その理由を松田部長がたずねると、永井さんはこう言います。
「1、2年生の公式戦は10分ハーフなんですね。時間が短いので限られた子しか試合を経験させてあげられないですし、その年代は足が速い子や体の大きな子がいるかどうかで勝負が決まりがち。それで勝った、負けたとなると欲が出て、運動能力の高い子を出場させて……となってしまう。それは育成の本質から外れてしまうので嫌なんです。大切なのは、子どもたち一人ひとりが、どれだけ充実してサッカーができるか。サッカーを好きになってもらうかです」
松田部長はその意見に対して、「本当にそう思います。ジュニア年代の指導者は、子どもがサッカーに触れる入口に携わっておられるわけですからね」と、何度も首を縦に振ります。その視線の先には、子どもたちが楽しそうにボールを蹴る姿がありました。
神奈川県横浜市を拠点にする港北FCの近隣には、強豪クラブがひしめいています。少年サッカーの競技化が進む昨今、港北FCには「強豪クラブから漏れた子、入れない子が集まってくる」と、永井さんは言います。
「運動能力に恵まれない子、小学校3、4年生からサッカーを始めたい子は、他のクラブだと練習についていけないかもしれないけど、港北なら面倒を見てくれるかもしれない。そう考える保護者、子どもたちがうちのクラブを選んでくれます。近隣の強豪クラブに対して、4年生のときは歯が立ちませんが、しっかり育成をしていけば、6年生の頃には良い勝負になるんです」
松田部長はそのエピソードを聞いて、インタビュー前に見た港北FCの試合を思い出したようです。
「先程、試合を見ましたが、子ども達が一生懸命、伸び伸びやっている姿が印象的でした。みんなが試合に出て、みんなでプレーを楽しんでいましたよね。相手チームの選手の足を蹴ってしまった子が、ごめんねと謝っていたり。何が何でも勝たなければいけないのではなく、勝つためには全力を尽くすのですが、勝敗以外に人間性の部分も大事に指導しているんだろうなと思いました。港北FCはJFAグラスルーツ推進・賛同パートナー制度では『みんなPLAY!』というテーマに賛同してくださっていますね」
松田部長の投げかけに対し、永井さんは「JFAが『どうすれば、指導者が育成に注力してくれるのか』と真剣に考えているのを知っていたので、目指すところが同じだと思い、エントリーしました」と話し、持論を展開します。
■教育的な意義は競技力の向上よりも大切
「みんなが試合に出られる環境を作るというと、勝ち負けはいいのかと誤解されるのですが、決してそんなことはありません。今日の試合前にも、まず子どもたちには『勝とう』と言いました。ただ、サッカーは相手があるスポーツですから『勝つのが難しかったら得点を取ろう。それも難しかったら負けないように頑張ろう。頑張る段階はいっぱいあるから、それを思い出しながらやろう』と言って送り出しました」
さらに、こう続けます。
「僕らは何を仕事としているのか。それは育成です。僕がもしトレセンや年代別代表のコーチだとしたら、能力の高い子たちに対して勝者のメンタリティーを培うことをするでしょう。でも、いま私が運営している“普通の街のクラブ”は、プロになる選手を育てる場ではありません。おそらく、この会場に来ている子どもたちの99.9%はプロにはなれないわけです」
「しかし、子どもたちが育っていく上で、サッカーは役立ちます。試合に勝つために下手な子、運動能力の低い子を切り捨てていいのか。あるいは、この子は今はうまくないかもしれないけど、チームのみんなでカバーして頑張ることを伝えた方がいいのか。どちらが育成の指導者としてやるべきことかと考えると、間違いなく後者なんです。自分たちは育成をしているので、教育的な意義を考えないといけない。それは競技力の向上よりも、大切なことだと思っています」
永井さんの言葉の端々には、子ども達の成長を願う気持ちとサッカーを好きになって欲しいという情熱がほとばしっていました。次回は、なぜそのような考えに至ったのかについて話を伺います。
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