JFAグラスルーツ推進部部長が行く!あなたの街のサッカーチーム訪問
2017年6月29日
補欠ゼロを実践する公田SCの代表が語る「地域クラブだからこそ、やるべき使命」とは
JFAグラスルーツ推進・賛同パートナー制度が掲げる「補欠ゼロ」を実践する公田サッカークラブ(公田SC)は、「引退なし」「障がい者サッカー」のテーマについても、積極的な活動を行っています。同クラブの代表を務める冨田兄一郎さんは「地域クラブだからこそ、やるべき使命」として、すべてのテーマの有言実行を目指しています。
後編では「引退なし」「障がい者サッカー」のテーマについて、日本サッカー協会(JFA)グラスルーツ推進部の松田薫二部長が話を伺っていきます。(取材・文:原山裕平)
<今回訪問した公田SCは以下の賛同パートナーです>
■卒団生が戻ってこられる場所を作りたかった
小学校のチームを卒団し、中学に入学するタイミングでサッカーから離れてしまう子どもは決して少なくありません。そこには単純にサッカー以外のことに興味が生まれたという理由もあるでしょう。一方で部活の環境が合わなかったり、レベルについていけなかったりと、続けたいのに続けられない子どもたちもいると聞きます。
卒団してからも、いかに子どもたちとの関わりを保ち、サッカーを続けられるような環境を提供できるかどうか。冨田さんには、現在所属する選手だけでなく、OBに対してもその情熱を傾けています。
「40年以上も活動していれば、いろんな縦のつながりがあるかと思います。OB会といったものはないのですか?」
松田部長は素朴な疑問を投げかけます。
「それが、ないんですよ。卒業と同時に、チームとの関係が途切れてしまう。今回、『引退なし』を宣言したのも、そういうところを改善していきたいという想いからです。去年からOBに対して定期的に連絡を取り合える形を作り、サッカー続けていきましょうということを、推進し始めたんですよ」
「半分以上の子どもたちは、このエリアにある桂台中学校に進学します。だから桂台中学校との連係を深めて、我々も関われるような環境を作っていきたいです。少年団だけで終わるのではなく、継続して関わることで、"公田ファミリー"みたいなものを築いていければいいですね」
この話を聞き、松田部長はひとつのモデルケースを挙げました。
「僕の地元は広島なんですけど、広島には実際に小学校と中学校が連携して、小中一貫のクラブのような活動をしているクラブがあります。特に今は少子化なので、小中で連携して取り組んでいくことは非常にいいことだと思います」
■理解を深めるために手話とサッカーを結ぶイベントを実施
「障がい者サッカー」についても、冨田さんは大きな志を抱いていました。
「障がい者であっても、スポーツをする権利はあります。ただし、現状はそういった環境が少ない。だからこそ、地域のクラブである我々が、その場を提供していく必要があります。それは、僕たちの使命だと思っています」
現在、公田SCに障がい者の在籍はないものの、小学校の特別支援学級に入っている4年生1人と3年生1人が所属しています。
障がい者の受け入れは、健常者のためにもなると、松田部長は言います。
「子どもの頃に障がい者と一緒に活動することで、偏見が植え付けられにくくなると思うんです。何ができて何ができにくいのか。そういったことをみんなで理解する。それが分からないから、変な子だなという見方になって、いじめにつながってしまう。だから、そういうきっかけを作って理解を高めることが、その子たちの成長に役立つと思います」
「そうですね。周りが理解することは大事なことだと思います」と、松田部長の言葉に、冨田さんも大きく頷きました。
公田SCは、コミュニケーションスキル向上と障がい者への理解を深めることを目的に今年1月、手話とサッカーを結び付けるイベントを実施しました。
「あれは子どもたちにとっても新鮮だったと思います。簡単な手話を覚えながら、体を動かすというものです。子どもたちは、最初は委縮するのかなと思ったんですけど、意外と順応性が高くて、大人よりも積極的にコミュニケーションをとっていたのが印象的でした」
手話を勉強している保護者からも、参加させてほしいとの要望があり、多くの方々に関心を持ってもらえたという意味でも、このイベントは大成功に終わりました。
「実際に耳が聞こえない子たちの少年チームとも交流していきたいと考えています。そういう機会と環境の提供は、これからも積極的にやっていきたいですね」と、冨田さんは今後の展望を語りました。
様々な取り組みを行なう公田SCを、冨田さんはどのように発展させていきたいと考えているのでしょうか。
「3つの宣言に則ったことはこれからも当然やっていきたいと思っているのですが、直近の目標としては法人格を取りたいなと思っています。すでに、この地域のなかで公田SCは認知されているとは思います。いろんなサポートを受ける中で、これからはこちらからも地域の方々にいろんなことを還元していきたいと考えています。他のスポーツ団体や、組織と一緒になって、地域ぐるみで相互に応援できるような体制を作っていきたいですね」
この想いを聞いた松田部長は「他のスポーツと連係しながら地域を盛り上げていく。本当に素晴らしいことだと思います」と、感心した様子で、冨田さんの話に耳を傾けました。
サッカーというスポーツの楽しさを、レベルに関係なく継続的にみんなと共有し、そして健常者、障がい者問わず、誰にでもその機会を平等に提供していく。地域と交流を図り、さらには人間形成の一助も担っていく。公田SCには、街クラブが描くべき、理想の姿がありました。
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