JFAグラスルーツ推進部部長が行く!あなたの街のサッカーチーム訪問
2017年7月11日
「ここは子どもたちの遊び場」 浦和レッズの下部組織だったクラブが理念を曲げない理由
日本サッカー協会(JFA)グラスルーツ推進部の松田薫二部長があなたの街のサッカーチームを訪ね歩くこの連載。
今回訪れたのは、埼玉県さいたま市で活動するNPO法人浦和スポーツクラブです。このクラブに集まる子どもたちは、これまでの連載で紹介してきたチームのようにチーム活動をメインにしているわけではありません。
クラブが理念として貫いているのは、子どもも、大人も、集まりたい人が集まりたいときに集まって思う存分にサッカーを楽しむこと――。
取材に訪れた日も、浦和の聖地として知られる浦和駒場スタジアムに隣接するサブグラウンドで、思い思いに集まった子どもや大人がボールを追いかけてサッカーに興じる声で溢れていました。
このNPO法人浦和スポーツクラブの理事長を務めるのは小野崎研郎さんです。今回は松田部長が小野崎さんのもとを訪ね、どのような想いでクラブを運営しているのかを伺いました。(取材・文:杜乃伍真)
<今回訪問した浦和スポーツクラブは以下の賛同パートナーです>
■「サッカー広場」を始めて気づいた地域の需要
NPO法人浦和スポーツクラブは91年に創設され、Jリーグの浦和レッズの下部組織として運営されていた時期もある由緒あるクラブです。96年に浦和レッズとの運営から離れて以降、模索が続きましたが、2002年にサッカー広場を始めてから、いろいろと気づくことがあり運営の考え方が定まってきたそうです。小野崎さんが当時をこう振り返ります。
「このクラブで時間を過ごした子どもたちが大学生になったときに、昼間に時間があった彼らから『自分たちに何かできないかな?』という提案があって、一緒にやってみようか、となったんですね。彼らはここで自由にボールを蹴って過ごしていた子たちで、『ここに集まってくる子どもたちをもっと楽しませてあげたい』という考えがありました。それで平日の昼間に『サッカー広場』という、子どもたちが自由に集まってサッカーができる環境を作ってみると、想像以上に子どもたちが集まるようになったんです。平日は15時から19時まで、二学年を一緒にして1時間ずつサッカー広場を展開すると、当時は各時間に100人ずつ、合計で約400人も集まってきていました。それがちょうどFIFAワールドカップ日韓大会が開催された2002年頃の状況ですね」
松田部長が「そうやって子どもが増えていった理由は何なんでしょうね?」と尋ねると小野崎さんがこう答えました。
「平日の午後や夕方に子どもたちが安心してサッカーをしながら遊べる場所がなかったんだと思います。『サッカー広場』を始めたことで、そういう地域的な事情に僕たち自身が気づけたんですね」
松田部長も「なるほど。平日にサッカーをやりたくてもやれない子どもがたくさんいたということですね」と納得の表情を浮かべます。
そう、浦和スポーツクラブは、日本随一のサッカーどころとして知られる浦和という地域の子どもの受け皿として機能してきたのです。少年団に入ってサッカーに励む子どもたちがいれば、少年団に入っていなくてもサッカーを続けたい、という子どもたちもいるのです。
■楽しくなければ続かない、だからこそ理念を曲げない
そういう背景があるなかで『サッカー広場』を展開するにあたり、小野崎さんは「ここで子どもたちが遊べること」を大事にしているといいます。
ボランティアで携わっている大学生たちも含め、子どもたちに寄り添うコーチたちは全員が有資格者というわけではないので、しっかり教えてもらう、というわけにもいきません。コーチ役の大学生たちもそのときどきで入れ替わるので、いつなんどきでも子どもたちと一緒に遊ぶ、というスタンスを大事にしてもらっているのです。小野崎さんがこんな話をしてくれました。
「ここは子どもたちの遊び場ですよ、と謳っていると、ときどき親御さんから『もっとしっかり教えてください』と言われることがあるんです。それでも僕はコーチたちに『遊ばせて』と言っています。たとえば、サッカーをやってきた大学生にはうまいプレーを子どもたちに見せてもらう。それを子どもたちが真似をする。そういうことで伸びればいいし、伸びる子はそれで伸びるものです。コーチが不勉強のまま独自の考えを教えたとしても、それは子どものためになるのかな、という思いもあります。色々な意見もあるので難しい状況もありますが、うちはチームを作りません、無理に技術を教えることはしません、それは一貫してずっと言い続けていることですね」
それを聞いた松田部長は「子どもたちが楽しいと思えることが一番ですからね。子どもにとってそういう選択肢を用意している、というのがいい。サッカーをやりたくてもやれない子どもが、サッカーを辞めてしまわないための環境があるのは貴重だと思います」といい、感慨深そうな表情を浮かべていました。
NPO法人浦和スポーツクラブのこうした活動理念に、周囲も理解を示していて、「これだけ平日に子どもたちにサッカーをさせてあげているのであれば」と、浦和駒場スタジアムのサブグラウンドを使用できるように配慮してくれているそうです。
松田部長が「この場所で定期的にサッカーができるというのは大きなメリットですね」と言葉をかけると、小野崎さんも「本当にありがたいです。場所が定まっていなくて、場所が取れる、取れない、という不安定な状況であれば、ここまで長く続くことはなかったと思いますからね」といって笑顔を浮かべます。
総合型スポーツクラブを標ぼうするNPO法人浦和スポーツクラブには、『サッカー広場』のほかに、子どもたちの『サッカースクール』、『女子サッカースクール』、大人のための『生涯サッカー』、60歳以上が参加できる『スーパーシニア』などのコースが設けられているようです。また、テニスや卓球、フィットネスなどの他競技のプログラムも実施しています。
総合型スポーツクラブを標ぼうするNPO法人浦和スポーツクラブには、『サッカー広場』のほかに、子どもたちの『サッカースクール』、『女子サッカースクール』、大人のための『生涯サッカー』、60歳以上が参加できる『スーパーシニア』などのコースが設けられているようです。また、テニスや卓球、フィットネスなどの他競技のプログラムも実施しています。
このようなサッカー以外の活動を踏まえて、次回は「引退なし」の取り組みに当たる『スーパーシニア』や、「障がい者サッカー」、そしてNPO法人浦和スポーツクラブが総合型スポーツクラブとして見据える将来の展望などをお伺いします。
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