JFAグラスルーツ推進部部長が行く!あなたの街のサッカーチーム訪問
2017年8月28日
「できること、できないこと」を理解してフォロー 積極的に障がいのある子とサッカーを楽しむ札幌中央FC
日本サッカー協会(JFA)グラスルーツ推進部の松田薫二部長があなたの街のサッカーチームを訪ね歩くこの連載。札幌中央FCはJFAグラスルーツ推進・賛同パートナーであり、「ずっとEnjoy」「みんなPlay!」に加えて、障がいの有無にかかわらず一緒にサッカーを楽しむことができる「だれでもJoin♪」を実現しているクラブです。(取材・文:鈴木智之)
<今回訪問した札幌中央FCは以下の賛同パートナーです>
■障がいのある子を遠ざけず一緒に楽しむ!きっかけは子どもたちのアイデア
札幌中央FCは創部時から障がいがある子ども者や他のクラブでいじめられて続けられなくなった子たちの受け入れも行っています。代表を務める明真希さんは『障がい者スポーツ指導員』の資格を持っていて、チームには特別支援学級に入っている子どももいます。しかし、ボールを追いかけている姿を外から見ると、とても障がいや、過去につらい経験をしたことがあるようには見えません。
練習風景を見ながら、明監督は「普通学級の子と変わらないですよね。実際、あの子はレギュラーで試合に出ていますから」と言います。その子は「自分の意見を伝えるときに言葉が遅れてしまうのですが、サッカーのように身体で覚えさせると、どんどん反応が速くなる」(明監督)そうです。明監督はプレーしている姿を見ながら「動作に連動して声が出るようになった。積極的に仲間へ味方にコーチングできるようになった」と嬉しそうに言います。
日本障がい者サッカー連盟の専務理事、事務総長も兼任する松田部長は「障がいがある子も受け入れると、発信されていたのですか?」と尋ねます。
「はい。もともと私は障がい者スポーツ指導員の資格を持っていますし、1年目に入部した子の弟で、肢体不自由児の子がいたんです。普段はバギーと呼ぶ専用の車椅子に乗っているのですが、『クラブの親子サッカー大会にその子は出られないんですか?』 と別の子ども達が言ってきたんです」
明監督が「自分一人で動けないから、むずかしいかもね……」と言ったところ、子ども達は「僕達が動かすから!」とアイデアを出したそうです。
「それならできるかもと考えて、バランスボールを使ってサッカーをすることにしました。他の子が車椅子を押して、一緒にプレーするんです。ボールが大きくて柔らかいのでケガの心配はありませんし、他の子たちも大きなバランスボールでは蹴るのも大変で平等。みんな同じようにプレーできます。全部、子ども達のアイデアです。その子は以降もクラブに遊びに来て、ゴールキーパーをすることもありました。3号球の柔らかいボールを使ったのですが、顔にボールが当たっても痛くないので、笑っていたんですよね。その笑顔がすごく印象に残っています」
■何ができて何ができないか、見極めとフォローが大事
障がい者サッカーに関わる松田部長は「子どもが障がい者を遠ざけず、自ら関わっていくことは、できそうでできないことです。なぜ札幌中央FCの子どもたちは、積極的にできたのでしょう」と疑問を投げかけます。
明監督は少し考えて、こう言います。「僕たちは上手い子だけを選んで、セレクションをしているクラブではないからだと思います。人数が足りなくて困った経験もあるので、一緒に活動してくれる人はだれでもウェルカム。その中で、子ども達には『できない子には、できないなりのフォローの仕方があるんだよ』と常々言ってきました」
「チームの中でフラットな関係性があるわけですね。なるほど」とうなずく松田部長。さらに、こう続けます。「勝利至上主義だと、サッカーの上手い下手でチームの中にヒエラルキーができます。そして、保護者がそれを加速させることもありますよね」
明監督は「それが一番面倒なんです」と、我が意を得たりという表情。「だからAチーム、Bチームと呼ぶことはありません。2チームに分けるときは、チームのスローガン『美しく勝て』からとって、チーム「美」とチーム「勝」と言っています(笑)」
札幌中央FCは勝利至上主義ではなく、育成指導主義を掲げています。サッカーがうまくなることを追い求めますが、それが最優先ではありません。松田部長は「障がいがある子を受け入れることは、その子がサッカーを楽しめるのはもちろんのこと、周りの子にとっても人間性を育む上でプラスになる」と言います。
その意見を聞いて、明監督はこう答えます。
「子ども時代において、グレーゾーンはたくさんあります。その子は何ができて、何ができないかを、指導者が見極めることが大事だと思います。それは健常者も障がい者も同じですよね」