JFAグラスルーツ推進部部長が行く!あなたの街のサッカーチーム訪問
2018年7月 3日
「全ての子に平等な指導を」育成年代の指導者のあるべき姿とは?
「年齢、性別、障がい、人種に関係なく、誰でもどこでもサッカーを楽しめる環境を作る――」。2014年5月15日、日本サッカー協会(以下、JFA)は、日本のサッカー環境をより良いものにするため『グラスルーツ宣言』を発表。グラスルーツ専門の部署を設け、育成年代や障がい者サッカーの環境を整備するための活動を続け、賛同する団体も増えてきました。
グラスルーツ宣言から4年経った2018年5月20日、JFAグラスルーツ推進・賛同パートナーカンファレンスが行われました。参加者53人の中には、タウンクラブ、Jクラブ、聴覚障がい者、手話通訳者、障がい者サッカー関連、ソーシャルセクター、ソサイチ、ウォーキングフットボール関係者などが揃い、グラスルーツの将来を考えるにふさわしい、多種多様な人が集まりました。
(取材・文:鈴木智之)
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■気軽に使える「休部」制度があるからグラウンドに戻ってくる
日本サッカー協会 グラスルーツ推進部長の松田薫二さんは「グラスルーツ宣言を推進するために3つのテーマを設定しました。ひとつが、サッカーを生涯スポーツとする『ずっとEnjoy』。2つ目が、競技力に関わらず、みんなが試合に出場できる環境を作る『みんなPlay』。3つ目が、障がいの有無に関わらず、一緒になってサッカーを楽しむことのできる『誰でもJoin』です。この3つに意識を向けることで、グラスルーツの環境がより良いものになっていくと思います」と話し、「JFAグラスルーツ推進・賛同パートナー制度は、日本各地の仲間が一緒になって、日本のスポーツをより成熟した文化へと変化させるための活動です。ぜひ、仲間づくりにご協力ください」と呼びかけます。
JFAグラスルーツ推進・賛同パートナーカンファレンスでは、賛同パートナーの代表者がプレゼンテーションを実施。さらに、参加者が12のグループに別れ、『ずっとEnjoy』『みんなPlay』『誰でもJoin』のテーマから一つを選び、課題を解決するためにどのようなアクションを起こせばいいかを話し合い、発表していきます。
神奈川県横浜市青葉区を拠点に活動する、あざみ野キッカーズは『ずっとEnjoy』(引退なし)、『みんなPlay』(補欠ゼロ)の賛同パートナーです。1983年創設の歴史あるクラブで「ゆりかごから墓場まで」をコンセプトにジュニアとO-40、50、60のチームがあり、ジュニア115名、大人93名(休部20名含む)の会員を抱えています。
あざみ野キッカーズの石橋さんは、サッカーを『ずっとEnjoy』する環境づくりのポイントと、次のように挙げます。
「『引退なし』が可能な理由の1つが、あざみ野第二小学校という場所が確保されていること。日曜日の朝9時に学校に行けば、仲間がいてボールを蹴ることができます。もう1つが『休部扱い』です。20代、30代は仕事や家庭、子育てなどのライフステージの変化で、サッカーの優先度を下げざるを得ません。それを機にサッカーから離れてしまう人もいますが、あざみ野キッカーズでは退部ではなく『休部扱い』にすることで、いつでも復帰できる環境を作っています。実際、20代の80%が休部中ですが、40代になって戻ってくる人もいます」
あそこに行けば、仲間がいる。いつでも、好きなときに行くことができる。この2つが揃っていれば、サッカーをずっとEnjoyすることができます。石橋さんは「あざみ野キッカーズが、人々の帰れる場所、心のふるさとであり続けたい」と話し、「初代会長は68歳でクラブを創設し、亡くなる直前までボールを蹴っていました。彼の意思である『サッカーを通じた社会貢献』『生涯スポーツの体現』をしたい」と、クラブのビジョンを語ってくれました。
■同じ県内でもグラウンド確保が難しい地域も
神奈川県横浜市港北区を拠点に活動する、港北フットボールクラブは、賛同パートナー制度ができる前から『みんなPlay』(補欠ゼロ)を、体現しているクラブです。
サッカージャーナリストでもある代表の永井洋一さんは『クラブのポリシーはDo your best。足が遅くても、身体が小さくても、気が弱くても、その子なりのベストを尽くすことが大事。人と比べるのではなく、過去の自分と比べてどうだったかを大切にしています』と説明します。
『みんなPlay』、つまり全員を公式戦に参加させるため、1学年最大20人という定員を決めています。全員を出場させるために、前半と後半で選手を総入れ替えすることもあるそうです。
「本当は20名以上受け入れて、複数チームで大会に出場したいのですが、横浜市の場合、複数チームでエントリーする際には、幹事チームとしてグラウンドを提供しなければいけません。横浜市は人口に対してグラウンドの数が少なく、ジュニアからシニアまで、限られたグラウンドを取り合っているので、倍率が凄いことになっています。グラウンドを増やす施策も含めて、JFAに協力をお願いしたいです」
サッカーの醍醐味は試合です。毎週のように試合を経験して、サッカーをプレーすることが上達に繋がります。環境の整備、グラウンドの確保は、サッカーファミリーを拡大するために、早急に解決しなければいけない課題と言えるでしょう。
■全ての子に平等に指導、出場機会を与えるのが指導者の仕事
永井さんは子どもたちを指導する際の考え方を、熱を込めて語ります。
「すべての子どもが『サッカーがうまくなりたい!』と思ってクラブに入ってきます。そこで指導者が、上手な子、見込みのある子だけにエネルギーを注ぎ、そうでない子は放ったらかしという姿勢は間違っています。そんな権利は指導者にはないんです。すべての子どもに平等に指導をし、試合出場の機会を与える。それを忘れてはいけないと思います。もちろん、下手な子を出して試合に負けることもあります。でもこの年代では、試合の勝ち負けよりも、子どもたちに、自分で考え、判断し、行動することがどういう結果になるのかを感じてもらうことのほうが大切だと思います」
さらに、こう続けます。
「プロになれるのは4万人にひとりです。横浜市の1学年の生徒が3万数千人なので、プロになれるのは、毎年横浜市に1人いるかいないか。99%は社会人になります。サッカーの楽しさは、自分で考えて判断し、行動すること。その力を伸ばすことが、社会に出たときや勉強にも通じると思います」
最後に永井さんはこう言っていました。「運動能力の低い子でも丁寧に育成すれば、卒業する頃には、他の子と遜色なくなる。その姿を見るのが嬉しいんですよね」
(カンファレンスで挨拶をする田嶋幸三会長)
グラスルーツカンファレンスに出席した、JFAの田嶋幸三会長は「W杯で優勝経験がある国に共通するのが、老若男女が幅広くサッカーを支えていること。どの国も100年近いプロリーグの歴史があり、エリート育成などの競技力向上だけでなくサッカーを楽しむグラスルーツの環境があります。それができる国がW杯で優勝していますし、日本もそれを目指さなければいけないと思っています」とビジョンを語りました。
国のトップである代表やJリーグの強化。そして土台を支えるグラスルーツ。この両輪を発展させていくことこそが、日本サッカーが未来に向かって進んでいく力になるでしょう。
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