JFAグラスルーツ推進部部長が行く!あなたの街のサッカーチーム訪問

2018年7月18日

日本代表やプロ選手を育てることだけが育成ではない。一人ひとりの個性を大事にしてサッカーを心から楽しめる子を増やすのが日本サッカー発展のカギ

2018年5月20日、JFAグラスルーツ推進・賛同パートナーカンファレンスが行われました。参加者53人の中には、タウンクラブ、Jクラブ、聴覚障がい者、手話通訳者、障がい者サッカー関連、ソーシャルセクター、ソサイチ、ウォーキングフットボール関係者など、グラスルーツの将来を考えるにふさわしい、多種多様な人が集まりました。

このカンファレンスでは、グラスルーツ宣言のテーマでもある『ずっとEnjoy』『みんなPlay』『誰でもJoin』をテーマに、賛同パートナーの実例や参加者のディスカッションとプレゼンテーションが行われました。

前編の記事では神奈川県を拠点に活動する、あざみ野キッカーズ(『ずっとEnjoy』、『みんなPlay』)、港北フットボールクラブ(『みんなPlay』)の事例を紹介しました。後編では、『誰でもJoin』を実践している、バンクル茨城ダイバーシティフットボールクラブ(障がい者サッカーのスクール)と、『みんなPlay』『ずっとEnjoy』の実現を目指すNPO幕総クラブの事例をお届けします。

(取材・文:鈴木智之)

(理想のサッカー環境と、それを実現するための課題・施策をディスカッション)
<グラスルーツ推進の3つのテーマ>

<<前編:「全ての子に平等な指導を」育成年代の指導者のあるべき姿とは?

■1人ひとりの個性に合わせた対応で、ハンデではなく「特長」に

バンクル茨城ダイバーシティフットボールクラブは、ひたちなか市を拠点に、主に障がいのある子を対象としたサッカースクールを展開しています。小中学生あわせて23名が在籍し、視覚、聴覚、知的、発達、肢体不自由、内部障がいなどを抱えている子、さらには兄弟が通うケースもあります。

(左:グループディスカッションの発表をする大橋さん 右は公田スポーツ少年団代表、冨田さん)

2017年まではクラブチームとして活動をしていましたが「競技性を下げて、いろんな子どもたちにサッカーを楽しんでほしい」(大橋さん)という理由から、スクールの形態にチェンジしたそうです。

「私達は障がいの種類に関わらず、子どもたちを受け入れています。『はたから見たら、普通のサッカースクールにしか見えない』『障がいがあるようには見えないですね』と言ってもらうことも多く、障がいをハンデではなく、特徴から特長に変化させたいと思っています」

そのために、様々な工夫をしているそうです。たとえば、その子に合わせたコーチングをし、言葉の選び方や話し方を変える。プレー機会と集中力を最優先するために、ボールを一人一個持ち、ラインアウトなしのスモールサイドゲームを実施したり――。

「知的障がいの子の中には、ルールが覚えられないケースもあるので、タッチラインやゴールラインを作らない。ボールを2、3個使うなど、まずは体を動かすことにフォーカスします。サッカーが上手い下手ではなく、まずはボールを蹴る一歩を踏み出す環境づくりに力を入れています。そして、周りと比べる相対評価ではなく、その子の成長段階を正しく評価する、絶対評価を心がけています」

子どもたちは全般的に、体を動かすことが得意ではないそうですが、大橋さんは「できる、できないではなく、サッカーが好きかどうかが大切なんです。我々は、サッカーに夢中になれる環境づくりを目指しています」と笑顔を見せます。

「障がいを持つことで『自分には何もいいところがないんだ』と、自信をなくす子もいまます。でも、サッカーをすることで『サッカーが好きな自分』と出会えて、日常生活の自信にもつながるんですよね。仲間と自分が違うことも、一緒にボールを蹴ることで受け入れられるようになっていきます。異なる障がいを持つ子たちが互いに助け合うことで、人間的にも成長してきている実感があります」

■部活かクラブを選べるから試合経験が積める

(同じ高校にNPO法人のクラブユースを創設し、選手たちが選べる環境を作った島田先生)

千葉県幕張市を拠点に活動するNPO幕総クラブ『みんなPlay』『ずっとEnjoy』をテーマに、地域に根ざした活動を続けるNPO法人です。幕張総合高校で10年間教鞭をとった島田先生が中心となり、高校のサッカー部とクラブユースが協力し、選手のプレー環境をより良いものにしようと取り組んでいます。


「誰もがサッカーを楽しめるために、幕張総合高校サッカー部とFC幕張ユースのどちらに登録するかを、2年生に進級するときに選手たちに選ばせます。その選択は選手たちにさせたいので、サッカー部の顧問が『部活に来なさい』と声をかけることはありません(笑)」

監督が「こちらのチームを選んでほしい」と思っても決して表には出さず、本人に決断させるそのやり方は、この春定年で島田先生が学校を離れてからも続けているそうです。その理由は、自分で主体的に選ばないと、モチベーションが保てずサッカーの部分でも伸びないためです。

自分の意欲や出場機会などから総合的に判断して、高校サッカー選手権を目指す選手は幕張総合高校サッカー部、クラブユースでサッカーをしたい選手はFC幕張ユースを選ぶそうです。FC幕張ユースには約50名の選手がいて、互いの存在が刺激になっているようです。

そして、NPO幕総クラブのもう一つの取り組みが、地域の総合型スポーツクラブとして、学校開放を活用しながら、サッカー、ダンス、水泳、クライミングの活動拠点にもなっていること。日本のスポーツ環境を発展させるためには「学校を活用することがポイントになります」と、島田先生は言います。

「日本でスポーツを発展させるためには、学校を中心に施設を開放することが重要になります。行政の壁は高いですが、公園や学校をスポーツの場にすることに挑戦中です。学校にはスポーツだけでなく、書道や英語、音楽などの先生がいて、どの街にもあります。年代の違う人との交流を通して思いやりや相手の事を考える機会にもなり、人間教育の面でも期待ができます。そして学校を活かすことで地域の活性化にもつながると思うので、今後も取り組んでいきたいです」

ディスカッションのパートでは、参加者が複数のグループに別れ、「引退なし」「補欠ゼロ」「障がい者サッカー」をテーマに意見交換が行われていました。なかでも、「サッカーをする場の確保」について悩みを抱えているクラブが多く、世田谷区で少年団のコーチを18年間務め、2級審判員としても活動してきた、JFAの須原清貴専務理事は「グラウンド確保の大変さは、私も痛感しています。場所の確保はグラスルーツに共通する課題。JFAとしても、アクションを起こしていきたい。47都道府県で一度にスタートするのは難しく、最初は不平等が起きるかもしれないが、お許しをいただき、新しいチャレンジに取り組んでいきたい」と前向きに話していました。

サッカーに携わる人それぞれが、環境を含めた現状をより良くするためにはどうすればいいかを考えることこそが、日本サッカーの発展につながると言えるでしょう。サッカーファミリー同士、協力して前に進んでいきましょう!


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■グラスルーツ推進・賛同パートナー制度ってなに?
この制度の目的はJFAが掲げる『JFAグラスルーツ宣言』に賛同し、共に行動していただける団体と仲間になることで、グラスルーツサッカーの環境改善を推進することです。本制度の賛同パートナーになってもらい、その活動の理念や内容が好事例として日本全国に広く伝わり、JFAと同様の考え方で進められている活動であるという理解が深まることを期待しています。また、さまざまな好事例を多くの方々と共有することで、全国により良い環境が広がるきっかけになればと思っています。ぜひ賛同パートナーとなり、グラスルーツサッカーの環境改善にご協力下さい。
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