楽しまなければ勝てない~世界と闘う“こころ”のつくりかた

2018年5月14日

先制されると勝てないサッカー日本代表。日本人のメンタルは弱いのか?

サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜経済大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。

聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。

高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。

日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。

根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。これから数回にわたってお送りします。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。
(監修/高橋正紀 構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)

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(過去のW杯で日本が先制点を奪われて勝てた試合はゼロだそう)

■W杯で先制されて勝てた試合はゼロ

今の子どもはメンタルがタフじゃない。
すぐにあきらめる。
失点するとすぐに下を向く。
「ここから取り返そうぜ」って大人が励まさなきゃいけないんだから。情けない――。
そう話す指導者や親御さんは多いです。

かたや、ドイツ代表。
彼らは1点取られてもびくともしません。2点取られても、同じです。平然としています。ここからどう挽回するか。試合の流れを読み、個々が自分で対策を考え、味方同士で声を掛け合います。

「ドイツ代表と比べないでくださいよ。それは大人のプレーヤーだから。ましてや国の代表でしょ?」
そう思いますか?
では、日本代表はどうでしょうか。

過去、W杯で日本が先制点を奪われて勝てた試合はゼロだそうです。17試合中、7試合で先に失点していますが、結果は1分け6敗。唯一追い付いたドローは、W杯日韓大会予選リーグで、鈴木隆行選手のゴールで引き分けに持ち込んだベルギー戦だけです。

もうすぐロシア大会が開幕しますが、このデータからすると、日本は先制されたらW杯ではほぼほぼ勝てないという推論になります。

私はJリーグマッチコミッショナー(J1担当)や岐阜県サッカー協会チーフインストラクターを務めている関係上、日本協会の研修を受けたり調査情報にふれる機会が多いのですが、日本代表は先制されると崩れてしまう確率が非常に高いという結果が出ています。

一般論で言えば、サッカーは先制されると不利です。自分たちのリズムで試合運びがしづらくなりますが、そこを差し引いても挽回する力が低いようなのです。

それはなぜか。
1点先制されると、選手の「こころ」が乱れてしまうからです。「ヤバい、ヤバい」と不安ばかり押し寄せます。失敗できないという恐れから、守備も、攻撃も、まったく積極的になれない。

ベンチからも「(ボールを)大事にしよう」という声が飛びます。
それでなくても日本はボールを大事にしすぎて前に運べない傾向があるのに......。このため、ますますトライできません。

サッカーは11人が同時にピッチに立ちますが、そのなかの3人のこころが揺らぐと、世界のトップレベルでは負けてしまいます。

 

■2006年ドイツ大会準決勝 ピンチに陥ったイタリア代表の落ち着き

ところが、ドイツは誰ひとり、気持ちがブレません。イタリアも同じです。
イタリア代表の話を私たちに教えてくれたのは、日本サッカー協会会長の田嶋幸三さんです。指導者研修や講演で必ずと言っていいほど、2006年W杯ドイツ大会準決勝イタリア対ドイツの試合を引用して話されます。

試合途中で退場者を出したイタリアの選手たちは、そのとき一切ベンチに指示を仰がず、自分たちで話し合ってフォーメーション変更の対処を完了させました。
視察に訪れていた田嶋さんらは、これでは日本は到底太刀打ちできないと感じたそうです。

どうしてイタリアやドイツの選手は気持ちをブレさせず、なおかつ主体的に動けるのでしょうか。
なぜならば、彼らは「スポーツのとらえ方」が違うからです。

とらえ方の違いを説明しましょう。
スポーツはゲームです。
「オリンピック」は英語での正式名称は「オリンピック・ゲームズ」だから、スポーツは「ゲーム」では、ゲームとは何でしょう?
そう、楽しむものですね。であれば、ゲームであるスポーツも楽しむもの。そして、スポーツの語源は「遊び」です。

遊びなんて言い過ぎでしょ?と、少年サッカーと真剣に向き合っている方は思ってしまいますね。もちろん、スポーツには素晴らしい可能性があります。人を感動させ、力を与え、学びをもたらします。

しかしながら、イタリアやドイツなど欧州の人たちにとってのスポーツは、本質的には「遊び」です。「遊びの一種」であることを、彼らは子どものときから理解しています。原則遊びなので失敗を恐れなくていいし、ゲームを楽しもうとします。しかも、全力で。

そのことは、残念ながら日本では理解されていません。

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