楽しまなければ勝てない~世界と闘う“こころ”のつくりかた
2019年2月15日
サッカーよりも大切なものとは ~池江璃花子選手に学ぶ
サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜経済大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。
聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。
高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。
日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。
根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。これから数回にわたってお送りします。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。
(監修/高橋正紀 構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)
■何より大事なのは、安心してサッカーができる環境
東京五輪でメダルが期待されていたトップスイマーの池江璃花子さんが先日、白血病であることを公表しました。メディアでは、白血病が若年層でもっとも発症が多いがんであることなど、さまざまな報道がされています。
五輪担当大臣が「ガッカリした」などと言って責められているなか、アルビレックス新潟の早川史哉選手が素晴らしいコメントを発表しました。
彼は筑波大学を卒業したばかりの2016年4月、白血病にかかっていることがわかりました。私の大学サッカー部の後輩ですから、情報としては知っていました。今年になって凍結されていたプロ契約が再び結ばれたので、ある程度寛解しプレーができるのだろうと嬉しく思っていました。
同じアスリートで同じ病気から生還した人間として、テレビなどにも彼のコメントが流れていました。慎重に言葉を選びながら温かいメッセージでしたが、なかでも以下の言葉は池江選手も心打たれたのではないかと思いました。
"今、SNSで『早川選手が2年、3年で復帰したから大丈夫』という話を目にしますが、それぞれの病気ですし、病気によってもそれぞれの段階があると思います。誰かと比較せずに池江選手のペースでしっかりと病気と向き合って進んでほしいのが一番の願いです。"
――アルビレックス新潟公式サイトより引用
とにかく治そう。水泳も大事だけれど、命あればこそだよ。
私は彼がそう呼びかけているように見えました。
少年サッカーにかかわっている指導者や保護者の方は、池江さんの件をぜひ子どもたちに話してあげてください。
まずは、体と心が元気であること。安心してサッカーができる環境であること。つまり、健康と平和です。そのことが一番大事なのだということを考えてほしいと思うのです。
■生きていることに感謝することがサッカーへの取り組みにつながる
「子どもにはそんな難しいことはわからない」「それを知ってもサッカーには何も役立たない」などと思わないでください。このことを理解した子どもたちは、今自分が生きていることに感謝をするでしょう。そうすると、自分を大事にし始めます。仲間を大事にし始めます。
つまりは、サッカーに真摯に取り組む姿勢につながるはずです。
私はこのことを『一流のスポーツマンのこころ』の講義でも扱います。
スライドで、ポーランドでたくさんのユダヤ人が亡くなったアウシュビッツ収容所の跡地を見せます。
「ハゲワシと少女」という、ハゲワシが飢餓で死にかけている少女を食べようとして死ぬのを待っているという写真も見せます。
これを子どもたちに「よかったな、君たちは元気で、ご飯を食べることができて。この人たちは、腹がぺこぺこでスポーツどころじゃない。でも、元気だったらできるんだぞ」と話します。
「日本アンプティサッカー選手権大会」の写真も見せます。
私は障がい者スポーツ指導員の資格も持っていますので、この領域も私の指導対象です。ジャンピングボレーシュートとか、この人たちのプレーは、ものすごいです。動画とかで見ると、ものすごいプレーをしています。
「足が1本ぐらいなくたって、手が1本ぐらいなくたって、元気だったらできるんだよね」と伝えます。
でも、この人たちも40度の熱が出たら、無理だろうと思います。元気ならできるということです。