弱小チームのチカラを引き出す! 暁星高校林義規監督の教え

2014年12月27日

高校生からではなく小学生からサッカーを教える利点

■小学生から教える利点

目指す場所は全国――。
 
そのためには子どもたちの意識を根本的に変える必要があることは明らかだった。
 
そこで林監督はある決断をする。
 
「もうこれはガキの頃から仕込まないといけねえ、そう思ったんだよ。だから最初は高校生を指導してたんだけど辞めちゃった。それでたまたま最初の5年間は小学校で教鞭をとっていたから、5、6年生を中心に小学生を教えるようになってさ。ここからはじめようってな」
 
潔く、大胆な方向転換だった。
 
そしてそれは、『暁星学園』という環境だからできる決断だったのかもしれない。
 
1年目の正月、林監督は子どもたちを学校に集めた。
 
テレビの前に座らせ、華々しく開催される選手権を一緒に観戦した。子どもたちはブラウン管を食い入るように見ている。そこで林監督は視線の先を指差しながら語りかけた。
 
『いいか、あと6年後にはお前らがこの場所に行くんだぞ』
 
この言葉はそれから合言葉のように投げかけ続けたという。
 
「5、6年生たちにある種のマインドコントロールのように擦り込んでいったよ。そこまでやらなくちゃダメだと思った。親も含めてね。帝京に勝ったり、選手権に行かせるために暁星へ入れる親なんてひとりもいねえんだから」
 
しかしながら、それまで指導者もまともにいなかった学校である。林監督のこの突拍子のない言葉を子どもたちは素直に受け止めることができたのだろうか。
 
だからガキじゃなきゃいけねえんだ、林監督がピシャリと言う。
 
「高校生に言ったところで受験とか現実的なことがチラついて『無理に決まってる』って考えちまう。でも小学生はそうじゃない。みんなあの舞台に憧れるんだよ。自分たちもあの場所に行きたいって。逆にそういうモチベーションを与えてやらないとダメなんだ。小学生に『おい、やれよ!』って言ったってやらねんだから。馬を水飲み場まで連れていくことはできるけど、喉が渇いてないと馬は水を飲まねえ。だから喉を乾かせなきゃいけない。小学生たちに『俺もああなりたい、あそこに行きたい』って、そういう環境を作ってあげることが大事。そしたら水飲み場の場所を教えてあげれば自分から水を飲みに行くんだから」
 
Jリーグが誕生するのはまだずっと先である。そんな時代の小学生にとって満員の国立競技場でプレーする高校生は憧れの対象だっただろう。林監督が施したのは目標の設定ではなく、夢を与えることだった。夢がもたらす力は子どもたちにとってなによりも強大である。
 
「それで小学生は夢中になるよな。子どもの真剣さは親も動かすんだよ。本気で取り組む姿を見せられちゃあ、親はそれだったらばってなる。1回や2回勝てば嬉しいしさ。それに子どもが真剣に立ち向かう姿ってのは成長が垣間見えるからいいんだよね」
 
[第4回]『右手を失うと左手で箸を持つ「人はヤバいと思うからやるんだ」』につづく>>

 

【大好評!!短期集中連載第3回】弱小チームのチカラを引き出す! 暁星高校林義規監督の教え
[第1回]コンクリートのグラウンドから全国高校サッカー選手権大会出場
[第2回]干されたことが大きな財産に!「出てるやつだけの力じゃねえんだ」
 

 

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