弱小チームのチカラを引き出す! 暁星高校林義規監督の教え
2014年12月31日
暁星流メンタルコントロール!目の前のゴミを捨てられること
※本稿は、『弱小校のチカラを引き出す』(著者・篠幸彦、東邦出版刊)の一部を転載したものです。
あなたの子どももサッカーを続けていれば通る道!? 高校サッカーのリアルがここにある。弱小校の子どもたちの力を引き出し、暁星高校サッカー部を全国出場に導いた林義規監督を追うルポルタージュ。短期集中連載、第7回。(取材・文 篠幸彦)
■誰でも当たり前にできることを常に当たり前にできる精神状態に
「手を替え品を替え、色んな話をしてきたよね。その話をどう聞けるかなんだよ。ピカッと芯に響くやつもいれば、ボーッとただ聞いてるだけのやつもいる。例えば50度の熱湯と、氷で冷やした冷水に左右の手をそれぞれに入れて、真ん中に25度くらいの水を置く。そこに両手を入れると、熱湯に入れてた手は25度で冷たいと思うし、冷水の手は温かいと思うだろ。同じ人間なのに環境によってそれだけ感じ方が違うんだって話は、頭悪くなければだいたいわかるよね」
林監督のたとえ話はどれもわかりやすく、心にスッと入ってくる気持ち良さがある。
きっと、恩師の話もこうやって聞かされてきたのだろう。
「8年前に選手権に出たときのキャプテンで寺島って生徒がいたんだよ。それで選手権のパンフレットってあるじゃない。そこにキャプテンから一言書く欄があってさ。ほかの学校は『優勝』とか、『1回戦突破』とか、それぞれ目標を書くんだよ。でも寺島は『目の前にあるゴミを捨てられること』って。それは俺が常々子どもらに言ってることなんだよね」
例えばだよ、と姿勢を直す。こういうときの林監督はどこか噺家のような佇まいである。
「電車に乗ってて空き缶がコロコロと転がってるとするよ。てめえが飲んだんじゃねえから普通は拾わねえよ。でも林の話を聞いて、気分が良いとき、誰も見てねえけど空き缶を拾ってゴミ箱に捨てるなんてことは誰にでもできるよな。ちょっと汚ねえかもしれないけど。だけども、親に怒られた、夫婦仲が悪かった、成績が落ち込んだ、具合が悪い、そんなときに空き缶は拾わない。でも気分が良いと拾える。それが人間なんだよ。だから常に目の前のゴミが捨てられるような精神状態でいようと。それが暁星のスタイル、信条だって話をするんだよね」
誰でも当たり前にできることを常に当たり前にできる精神状態。簡単なようで難しい。けれどその精神状態で物事の見え方はまったく異なるし、育った環境によっても違うだろう。
転がった空き缶がその人の目にどう映るのかは明瞭な比喩である。