本番に強い子を育てるために大切なこと
2017年1月12日
本来の力が発揮できなくなるかも?"ポジティブシンキングの罠"に注意
■「できた感」こそが、目標達成のエンジンになる
一方、目標とは別に、「緊張していても確実にできること」をOKラインに設定していた場合はどうでしょうか。
僕がトレーニングしてきたプロ選手や子どもたちは、試合中に緊張したり他者からの評価が気になって自信がなくなったりしたら、相手に関係なく自分だけで実践できること、たとえば「ディフェンスに意識を向ける」というようなことをOKラインに設定するケースが多くあります。僕自身の経験でも、ディフェンスなら緊張していても、自分のプレーに意識を向けやすいという印象があります。
ただ、もちろん、ディフェンスが苦手だという子なら、「声を出す」とか「攻守の切り替えを早くする」ということでももちろんいいのです。OKラインは、あくまでも「自分が確実にできること」であることが大事なのです。
自分が決めたOKラインをちゃんとクリアすれば、「できた感」を味わいながら試合を続けることができます。そうして得られる自己肯定感こそが、本番で力を発揮するための大きなポイントになるのです。
「ディフェンスに意識を向ける」「声を出す」「攻守の切り替えを早くする」というOKラインをクリアできても、「1点を決める」「ドリブルで3人抜く」という目標は達成できないじゃないか、と思う人がいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
なぜなら、「緊張していても自分はできてる!」という自信、つまり、自己肯定感こそが、目標に向かうエンジンになるからです。この感覚があれば、「緊張」はもはや「悪いもの」ではありません。実力が足りなくて目標が達成できない、ということは当然あるでしょうが、少なくとも、「緊張のせいで本来の実力が発揮できない」という状況からは脱することができます。
■ポジティブシンキングの罠
「ポジティブなイメージをもって本番に臨めば、イメージ通りに実力が発揮できる」本番で実力を出すために、このようなポジティブシンキングは本当に必要なのでしょうか?
たとえば、「絶対に先取点を取る!そうすれば、気分が乗ってくるから、その勢いで絶対に勝つ!」
そんな超ポジティブなイメージを抱いて、試合に臨んだとしましょう。
もちろん、イメージ通りに先取点が取れれば、イメージ通りに気分も乗ってきて、イメージ通りに勝つ可能性はそれなりに高いだろうとは思います。
でも、もしも、逆に先取点を取られてしまったら……。
どんなにこだわっていたとしても、先取点を奪うことができる可能性は決して100%ではありません。
ポジティブなイメージだけで試合に臨んでしまうと、そんな事態でわき上がってくる「慌てる」とか「焦る」という感情は完全に「想定外」です。きっと「これじゃいけない」と、なんとかしてその感情をうち消そうとしてしまうでしょう。
この状態では、本来の力は発揮できません。
つまり、そんな事態にうまく対処するためには、事前によくない事態も想定しておくことが必要なのです。
「先取点が取れたら、気分も乗ってくるよね。でも、もしも相手に先取点を取られてしまったら、どんな気持ちになると思う?」
そんなふうに声をかけて、嫌な事態になった時に自分がどんな感情になるのかをあらかじめ予習しておきましょう。
そしてたとえば、「慌てる」「焦る」という感情が事前に想定されていれば、「そんな感情になったとしても、必ずできること」をOKラインとして設定しておきます。「味方とパスを回す」「大きい声を出す」というふうに事前に「やること」を決めておくのです。
そうすれば、よくない事態においても、「慌てていても、パスが回せた」「焦っていても、大きい声が出せた」という「できた感」を得ることができます。
どんな状況においても本番のなかで、このような「できた感」をたくさん味わうと、本当の意味で、気分も乗ってきます。それによって、本来の力が発揮できるようになるのです。
森川陽太郎/
サッカー選手としてスペインやイタリアでプレーし、その後、心理学やメンタルトレーニングを学び、株式会社リコレクト設立。「OKラインメンタルトレーニング」という独自のトレーニング方法で、横峯さくら(プロゴルファー)などのトップアスリートや子ども、企業向けに「結果を出す」ためのメンタルサポートサービスを展開。
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