あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2017年4月20日
勝つために上手い子を優先してしまう。上手くない子を上達させるにはどうしたらいい? [池上正コーチングゼミ]
池上正さんが、ジュニア年代を指導するお父さんコーチの質問に答える「池上正コーチングゼミ」。今回は、試合に勝つために、地域の選抜に入っていない子どもに試合時間を与えられず、上達させられないことに悩むお父さんコーチからの質問です。
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんはどのようなアドバイスを授けたのでしょうか。(取材・文:島沢優子)
<お父さんコーチからの質問>
1、2、3年の頃は無かったのですが、4年くらいから、地域のトレセン活動が始まり、上手い子は更に上手く、選抜に入って無い子は、伸び悩んでいます。
伸び悩んでいる子たちもサッカーが好きで、楽しんでいるのですが、勝負と言う物差しで比べるとどうしても、先発メンバーに選ぶ事が出来ず試合に出る時間が減りつつあります。勝負事だけに負けて良いとは言えないため、悩んでいます。ある日突然に上手くなるなんて事は無いでしょうから。
<池上さんのアドバイス>
試合に出られず実戦経験を積めないのなら、伸び悩むのはある意味当然と言えます。それは子どもたちのせいではありません。大人の責任ですね。
ただし、上手い子だけしか目に入らないコーチとは違って、ご相談の方は上手くない子たちをなんとか上達させたいと思っている。でも、試合に勝とうと思うと、出場させるのは上手な子どもばかりになってしまう。平たく言えば、そのようなジレンマに陥っているようです。
試合に勝たせてあげたい。でも、子どもたち全員に成長のチャンスを与えたいし、上手くなってほしい。
このようなジレンマに悩む少年サッカーのコーチは非常に多いようです。
■勝つことだけでなく「勝ち方」が重要
ご相談の方は「勝負事だけに、負けて良いとは言えない」と書かれています。この「勝ち負け」を指導者がどうとらえるか。まずは、そこを一緒に考えましょう。試合はゲームです。ゲームは勝ち負けがあるから面白い。勝ったほうが楽しいに決まっています。ただ、その「勝ち方」が問題です。
「みんな、試合に勝ちたいかな?」
尋ねると、全員が「はーい!」と答えます。
「じゃあ、上手な子だけがずっと出場して、それで勝てても、みんなうれしいかな?」
中学年くらいだと、大概黙ってしまうか、もしくは誰かが「うれしくない」と言います。
そこで、全員が同じ時間出場し試合をして負けると、なかには「あいつが出たから負けた」と言う子が出てきます。
サッカーを始めた低学年からずっとみんなが出場するシステムにしておくと、子どもたちは(保護者も)それが自分のチームのルールだと考え何の文句も出てきません。でも、さんざんレギュラー組だけで試合をし続けていた場合、上記のように文句を言う子が必ず現れます。
もしくは、最初から平等に出していても、子どもは残酷なのでそういう発言をします。
そのときが、大人の出番です。
■上手な子だけが出ていると、チームの底上げができない
「あいつが出たら負ける」と言う子に、大人は「同じチームだから、彼も試合に出るのが当然だよ」と言って諭すべきです。そういうことを学ぶのが、スポーツをする価値でもあります。
みんなが試合に出る。そんなチームは全体の底上げができるので、練習の攻防の質がだんだんアップします。そうすると、個々の力もおのずと伸びてきます。
ところが、ご相談の方を含む多くの指導者は、目の前の試合に勝つことだけしか考えていません。そうすると、上手い子だけが試合に出ることになります。であれば、底上げはできないのでチーム力も上がりません。
みなさんの町に、低学年や中学年のときは強いのに、高学年になると弱くなるクラブはありませんか? 逆に、中学年まではそうでもないけれど、高学年になるとぐっとチーム力を上げてくるクラブもあります。後者のクラブは、どうしたら底上げできるかをコーチが知っているところです。
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