あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2017年5月22日
熱心なあまり子どもたちにダメ出し、試合で指示する保護者をどうしたらいいか?
■指導スタイルを可視化して、保護者にも感じてもらう
確か3年生のチームだったと思います。いつものように親御さんたちにベンチの後ろに来てもらいました。そうすると、後ろのほうで「池上コーチはどうして何も言わないのかな?」「ポジションとかないのかな?」とコソコソっと話しているのが聞こえてきます。
そこで私は「じゃあ、指示してみますね」と言って、ひとり一人にポジションを告げて、その都度プレーを指示しました。
すると、それまで走り回っていた子どもたちの足が止まり始めました。動いても、指示されたことしかしません。広がって自分のポジションにいてもボールが来ない子は、退屈そうにボーっとしています。
「お父さん、お母さん、どうですか? お子さんたち、楽しそうですか?」
みなさん、「池上コーチ、やっぱりもとに戻してください」となりました。
そんなふうにたくさん実験をしてきました。どんなふうにしたら、保護者はわかってくれるだろうかと考え、さまざま試した結果、ベンチの後方に来てもらって私の指導スタイルやチームの方針を「感じてもらう」のが一番成果があったように思います。
ご相談の方は「何度も選手に自主性がなくなるのでやめてください」と口酸っぱく注意しているようですが、効果がない。なぜならば、理屈や言葉だけでは、人の心は動きません。これは大人も子どもも同じです。
それよりも、実際にうまくいっているところ、指導を見てもらったほうがいいでしょう。「ああ、コーチはこんなふうに子どもと接しているんだ」可視化してもらうのです。
■子どもが思う存分サッカーをするための親のあり方
加えて提案したいのは、日本サッカー協会が公式サイトに掲載している「めざせ!ベストサポーター」の冊子などをチームで配布してみてはいかがでしょうか。
「みなさんは、子どものために一生懸命、応援したり尽くしたりしています。子どものためを思う、子どもによかれと思う、強い気持ち、大きなエネルギー。それが子どものためにより良いものとなるように、ちょっと振り返ってみましょう」
そんなふうに始まるものです。
もうひとつ、スイスサッカー協会がジュニアの試合の際に大人に配布するカードがあります。そちらを配ってもよいでしょう。
- 今日という日は、ぼくたちの一日です。 -ぼくたちはサッカーを思う存分やろうと、喜んでここに来ています。もちろん、誰だって勝ちたいにきまっています。でも、一番大切なことは、プレーができる、ということです。だからどうか、ぼくたちの思うようにプレーさせてください。ピッチのそばで怒鳴らないで、相手チームのサポーターに対しても、フェアでいてください。ミス・プレーをいちいち、なじらないでください。ぼくたちはしょんぼりするだけで、何の役にも立たないからです。以上、よろしくご理解ください。- 子ども一同 ―
コーチがそのような努力をしていれば、ほかの保護者が「カードにも書いてあるよ」「黙って見てあげたら?」となどと言ってくれるかもしれません。
池上 正(いけがみ・ただし)
「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。
大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。
12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだすオトナのおきて10』をはじめ、近著の『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(ともに監修/カンゼン)など多くの著書がある。