あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2017年6月23日
ボールを奪うための準備が課題の子どもたち 相手にボールが渡る前の動きをどう指導すればいい?
池上正さんが、ジュニア年代を指導するお父さんコーチの質問に答える「池上正コーチングゼミ」。今回は、ボールを奪うための準備ができない子どもたちに、ポジションの取り方などをどう指導すればいいのか悩むお父さんコーチからの質問です。
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんはどのようなアドバイスを授けたのでしょうか。(取材・文:島沢優子)
<お父さんコーチからの質問>
私は町の少年団で指導者をしています。指導している子どもたちはU-10世代です。
チームの課題はボールを奪うことです。
体の入れ方は上手くなってきたと思いますが、体を入れる前のボールを奪い合うための準備ができないことが課題と考えています。
子供たちは相手にボールが渡ってから奪いに動き出すので、その準備(ポジションの取り方)の練習はどのようにしたらよいでしょうか。教えてください。
<池上さんのアドバイス>
相談者がおっしゃるところの「ボールを奪い合うための準備」を教えるのは、なかなか難しいものです。ただ、「こうやればボールを取れるようになるよ」という魔法のつえのような練習はないかもしれませんが、「ボールを奪う能力」につながる指導方法はあると思います。
私が心がけていることを3つほどお話ししましょう。
■失敗しないと学ばない!どんどんトライさせる
ひとつめは、相手に抜かれることを恐れない選手にすることです。中学生くらいまでは「かわされてもいいよ。どんどん取りに行ってごらん」とトライさせてください。取りに行ったけど間に合わなかったり、かわされて失敗しなければ、自分の間合い(ボールを奪える間合いやタイミング)を見つけられないのですから。
それなのに、日本のコーチは「行き過ぎるな!」とか「また抜かれてる」と、子どもたちがトライした末のミスに対して厳しくし過ぎます。まずは、そこを指導者自身が修正してください。
例えば、小学生時代の6年間でこのような指導を受けた子と、「ミスするな」「抜かれるな」と口酸っぱく言われて育った子どもとでは、6年後に大きな差が生まれます。失敗を恐れず何度でもボールを狙う、つまり、相手に厳しくデュエルを試みた子どもは、「予測できるパーソナリティー」が育つと考えられます。
もっといえば、このパーソナリティーを育むのが少年サッカーの指導者の役割とも言えます。何かにつけて指導者が知っていることを教えるのではなく、子どもたちに考えさせる。そういったことを繰り返すのが「パーソナリティーを育てる」ということです。
例えば、Jリーグの多くの監督は、センターバック(CB)がいないのが悩みだと聞きます。日本人に少ないため、外国人選手にCBを任せることになる。彼らが統率しているチームはやはり守備が安定します。
では、外国人のCBが長けている能力は何でしょう。さまざまありますが、一番は危機察知能力が高いことです。常に予測する習慣がついています。走りながら、頭脳をフル回転させる習慣、予測するパーソナリティーが身についているわけです。この習慣こそ、ジュニア期から身につけさせたいものです。それが少年サッカーの指導者の役目だと思います。
■試合形式の練習で危機察知能力を磨く
二つめは、練習方法です。一番効果的なのはゲームです。さまざまな場面のなかで、常に頭をフル回転させて、守備なら危険な場所を察知する。攻撃なら、ボールをもらえそうなスペース、チャンスになるプレーを瞬時に予測する。そこを磨けるのは試合をするのが一番です。
ゲーム以外なら、2対1。そのなかで、ボールが取れそうなときに思い切りいくよう声掛けしてください。そもそも、2対1の「1」にあたるディフェンダーは、相手のプレーを遅らせるような守備が求められます。遅らせて、なるべくフリーにさせないようにする守備です。
そのなかで、違う守備を求める日を作ります。例えば「今日はボールを取りに行ってみよう」と声掛けをします。
「かわされてもいいよ。どんどん狙ってみよう」
そうすると、大きな空振りもありますが、ごくたまに読みが当たってボールが取れたりします。そのワンプレーが子どもの財産です。そのような積み重ねが、危機管理能力の優れた選手をつくります。