あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2017年11月 1日
【ドイツ視察①】練習と試合で顔つきが変わるドイツの子 ~コーチの矜持とは~
「あなたが変われば子どもは伸びる!池上正コーチングゼミ」を好評連載中の池上正さん(前京都サンガ育成部長)のドイツ視察レポートを全3回にわたってお送りします。
この夏、ドイツの少年サッカー環境の視察に出かけた池上正さん。
フランクフルトから車で約1時間半ほどの「Hennef(ヘネフ)」スポーツシューレ(ドイツの地域型スポーツクラブ)を中心に見学しました。ヘネフは2005年にドイツで開催された「コンフェデレーションズカップ」で、アルゼンチン代表が利用したことで知られています。
施設は、宿泊棟のほか、芝生グランドが2面、小グランドが1面、人工芝のグランドが2面。屋内施設としては、ハーフサッカーコートや総合体育館、サウナやプールにフィットネスルームなども完備された素晴らしい環境です。
ドイツを訪ねるのは実に6回目という池上さんですが「今回はさらに新たな発見があった」と言います。
日本の少年サッカー関係者に「目からうろこが落ちる」と感嘆される池上さんにドイツが与えたインパクトの中身とは?(取材・文:島沢優子)
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■驚くほど「ゆるい」練習
ドイツの子どもたちは本当に楽しそうに練習します。ヘネフの11歳カテゴリーの練習です。
私は見ていて「ああ、楽しそうやなあ」とニコニコしてしまいますが、恐らく日本のみなさんが見たら「ええっ? こんなゆるくて上手くなるの?」と驚かれることでしょう。そのくらい和気あいあい。
キックを蹴り損なうと「なんだよ、それ~」という感じで、他の子どもが指さして笑う。そんな感じです。
指導者は、全員がボランティアコーチですが、指示命令や怒鳴るような場面はゼロ。やわらかい表情で、ほめたり、励ます声が中心です。
よって、子どもたちはまったく萎縮することなく、自由に伸び伸びとプレーするわけです。
■練習はゆるくても、試合になると顔つきが変わる
そんな子どもたちですが、練習と試合ではまったく態度が変わります。
別の日、地域リーグの公式戦を観たのですが、彼ら、試合になると顔つきが真剣そのもの。3対0で戦っていたのですが、途中で逆転され3対4で敗れてしまいました。
終わった瞬間、全員が悔し涙を流しています。GKの子どもは、地面に突っ伏して声を上げて泣くのです。
コーチたちは、笑顔で子どもたちに「また頑張ればいいよ」とか「また(勝利する)チャンスはあるよ」と声をかけて慰めています。ホーム&アウエーのリーグ戦なので再び対戦するので、気持ちも切り替えやすいのです。
そして、間もなくチームは解散。子どもたちは三々五々グランドを後にします。
もしこれが日本だったらどうでしょうか。
長いミーティングで、たくさんお説教されるでしょう。なかには、試合の後に練習したり、罰走させるチームもあるでしょう。
ブンデスリーガ3部でプレーしていたという元プロ選手のコーチに話を聞きました。
練習の空気がゆるいことについて、「まったく構わない」と答えました。
「それでいいんです。彼ら全員、ジュニアの今が勝負だとは思っていないから」
なるほどそうだろうなと感心しました。
ですが、日本の少年サッカーコーチで「小学生で厳しくしたり、試合で勝つ必要はありませんよ。今が勝負ではないので」と言う方はそんなにたくさんいらっしゃらないかもしれません。ここが見習わなければいけないところです。
■協会の方針が国の隅々まで浸透している
また、そのコーチに練習メニューや内容について尋ねると、そのたびに「ドイツサッカー協会」という単語を出してきます。
「ドイツサッカー協会はこう言ってます」
「ドイツサッカー協会がいうところでは」
これはつまり、ドイツサッカー協会のビジョンや方針が、地方のボランティアコーチなど国の隅々まで浸透している証左だと感じました。
また、協会はホームページに、詳しいビジョンやフィロソフィーはもちろんのこと、幼児から始まる全カテゴリー別の推奨されるトレーニングメニューを掲載しています。
しかも、それらは丁寧で非常にわかりやすい。
例えば、ファウルの概念などを映像で説明しています。こんな場合はファウル、でも、こういう状況はファウルとは言えない。そんなふうに丁寧です。
ドイツ中のボランティアコーチたちに、その映像のどこをどう捉えて学んでほしいか、短くコンパクトに説明されているようです。だから、理解しやすいのでしょう。
日本も映像を届けていますが、15歳以下や16歳以下の日本代表が海外で勝った試合の映像などに限られる印象です。